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凄い音がした。
雷の音って、大きい…。
なんていってる場合じゃない!
どうしよう?どうしたらいいんだろう?
デュークさん!早く、早く、助けにきてよぉ…。
「おまえ、殿下に何をした!」
部下の男が部屋の中に入ってきて、様子を見て、慌ててる。
「殿下!殿下!」
その隙に逃げればいいのに、足がガクガクしてて、動けない。
「助けて!誰か、…」
誰かじゃない、誰かじゃ駄目なんだ。
デュークさん!助けて!
私の保護者は、デュークさんでしょ?違う?
「デュークさん!!助けて!早く来てよぉ…」
「貴様!」
殴られる!
その時、目の前の男が崩れ落ちた。
「カナコ!」
「デュークさん!」
良かった…。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「怖かった、怖かったよぉ…」
「そうか、もう大丈夫だ」
私は飛びついた。
デュークさんは抱きしめてくれた。
いつの間にか破れていた服も直っていた。
優しいんだ。
「カナコ、落ち着け。いいな?」
「…、うん」
さすが、王様だ。
私は大人しくするしかなかった。
けどだ…。
周りの様子を見たデュークさんの言葉が止まった。
「カナコ、コイツ、生きてるか?」
あ、ヒクヒクしてる…。泡吹いてる…。
「何をした?」
「雷が、ちょっと、落ちて…」
「魔法を使ったのか?」
「使いますよ、貞操の危機だったから」
「貞操の危機?」
「だって、、こいつ、変態なんだもの」
「変態?」
「だって、兄妹なのに結婚したいなんて、そんな法律作ってルミナスに戦争しかけるなんて、変態ですよね?違いますか?」
「リリとか?やはり、噂は本当だったんだな…」
「噂?」
「リリに聞いても、答えてくれなかった。そうか…」
デュークさんはもう一度、私を抱きしめた。
とても、安心したのは、私の保護者だからだよね。
「しかし、面倒なことになったな」
「ですよね?」
そうだよね、変態でも皇太子なんだもんね。
しかし、だよ。
何度でも思うが、アルホートって国も、こんなのが跡継ぎで大丈夫なのか?
まぁ、違う国のことだから考えるのを止めようっと。
「まぁ、生きてるから大丈夫だろう」
「治療しましょうか?」
「おまえは魔法を使うな、いいな?」
「は…はい」
デュークさんは私を離すと、電話で指示を出した。
その姿に、ちょっとキュンとしてる、馬鹿な私です。
「今、人が来る。たぶん間に合うだろう」
「いいんですか?そんなノンビリで?」
「俺の妻に手を出そうとする奴など、死ねばいい」
「デュークさん…」
そうだよね、リリさんラブだもんね。
貴方の妻はリリフィーヌだけだ。
それは変わらないんだよね。
「けど、これでも、アルホートの皇太子でしょ?かなり拙いんですよね?」
「どうして、そう思う?」
「だって、最悪は戦争だって、ジョゼがいってたから…」
デュークさん、笑わないでよ?
ここ、笑うところ?
「アルホートは王が馬鹿じゃないから、大丈夫だ。心配するな」
「けど、リリさんじゃないってバレたかも…。それはアルホートの王も怒るでしょ?」
頭、撫でないで。
そんなことされるのに慣れてないんだから。
「気にするな、大したことではない」
「え?大したことない?」
「お前はカナコだ。リリにはなれないよ」
「リリにはなれない??」
ちょっと、待て。
今なんて言った?????
え?なんて言ったんだ、こいつ。
なんだなんだ?ふざけるなよ…。
気づけば私はデュークさんを睨んでいる。
私の変化に気づいたみたいだ。
「どうしたんだ?」
「じゃ、一体、私は何を頑張ってたんですか?リリさんになれっていったから、頑張ったのに…無駄だったの?必要なかったの?やらなくても良かったの?」
「カナコ?」
「なんなのよ!そんなにリリさんが良いんだ、私がリリさんじゃない、って、ばれて、も、平気なくらい、私なんかどうでもいいんだ?デュークさんにとって、私なんか、私なんか、ただのオバサンで、まともにダンスも踊れない、つまんない人間なんでしょ?」
「おい、落ち着つくんだ、カナコ」
急に肩なんか、抱かないで!
ふざけるな!もう、いい加減にして欲しい!
これ以上、私を苦しめないでくれ。
「いやだ!離して!近寄るな!来るな!」
もがけばもがく程、デュークさんは私を強く抱きしめる。
また、間の悪いことに、リックとジョゼが、医師を連れて入ってきた。
「陛下?」
「あ、ああ」
デュークさんが手を離した隙に、私は思いっきり距離を取った。
なぜだか、リックが、その私に近づき、手を取った。
「カナコ様?どうなさいました?」
「え?リック?」
凄い近い距離で、私を見る。
「何があったのですか?」
「え?」
その目にドキドキする。
なんだ?
デュークさんが怒鳴る。
「リック、その手を離せ!」
けれども、リックは離さない。
「どうなさったんです?」
なんか、怖い。
「離して…」
私は彼の手を振り切り、ジョゼの側に駆け寄った。
ジョゼの側は安全地帯だ。
「ジョゼ、私、帰る。日本に帰る!」
「え?」
「帰るから、お願い!帰して!」
リックがデュークさんに話してる。
「陛下、カナコ様は?」
「知らん、放っておけ!」
「いいもん、帰るから!ジョゼ、帰して!」
「ああ、帰れ!」
「いいよ、帰る!」
頭にきた!
自分から、デュークさんに近づいた。
「馬鹿!わからず屋!」
バッチっ!
デュークさんの頬を叩いてやったんだ…。
「デュークさんなんか、大っ嫌い!」
思わず、部屋を出た。
誰が、あの部屋になんか帰るもんか。
魔法があれば食べていけるんでしょ?
魔物がでたら、自分で退治すればいいんだろ?
日本でだって独りだったんだ、ルミナスだって独りで生きていける。
それなのに、涙が止まらない。
わかってるよ、好きなんだ。
私は、デュークさんが大好きなんだよ。
だから、リリさんの代わりが、我慢出来ないんだよ。
我が侭だよ、わかってる。
「カナコ様!」
ジョゼが追いかけてきた。
「どこに行かれるおつもりですか?」
「放っといて!」
「駄目です、あなたはルミナスの何を知っているというのですか?」
ジョゼ、当りです。
何も知りません。
もう、実は迷子です。
私は涙を拭いて、振り返り、ジョゼを涙目で見た。
「私、どうしたらいいんだろう?」
「カナコ様?」
「もう、わからないんだ」
「何があったのですか?」
「だって、リリさんになるために、あんなに頑張ってきたのに…。私なんか、リリさんになれないって、デュークさんがいうんだよ?私なんかどうでもいいんだ。五月蝿いから、面倒になったんだ。ルミナスに、デュークさんの側に、居場所がないんなら、日本に帰りたい…」
ジョゼは私の手を握った。
「カナコ様は、デューク様がお嫌いですか?」
「…」
「どうしました?」
「だって、嫌いなのは、デュークさんだもの」
「え?」
「デュークさんが私を嫌いなんだ」
目が合った。
「本当にそう思われてます?」
「そうだよ、だって、リリさんの体なんだよ?綺麗だっていわれたって、リリさんの体が綺麗なんだよ?私じゃなんだよ?わかってるよ、リリさんの代わりしなきゃいけないことぐらい。けど、…、我慢できないんだよぉ…」
「陛下はカナコ様にそう仰ったんですか?」
「だって、いつも、リリになれ、っていうんだよ?キスされたって、抱かれたって、リリさんなんだもの。私じゃない」
「カナコ様」
ジョゼの手が暖かかった。
「ジョゼ、苦しいんだ。しんどいんだ。逃げ出したいんだ。駄目?逃げては駄目?」
「わかりました。しばらくは、このジョゼがカナコ様を預かります。だから、しばらくお眠り下さい?いいですね?」
「うん、眠りたい」
ジョゼのスリープが、かかった…。
やっと、眠れる。
デュークさんの馬鹿。




