191 あなざーさいど36
ポポロは泣き虫。
先日、陛下が旅立たれました。
カナコ様が亡くなってから10年。
普通なら50年が寿命のこのルミナスで58歳まで生きて下さりました。
「泣く必要はないぞ、カナコが待っているから、な」
そうお子様達に言い残されての旅立ちだったそうです。
お子様達も、「お父様ったら、笑いながら旅立ったわ」と仰ってました。
葬儀は当然国葬です。
喪主はルイ様が勤められました。
それは、それは、ご立派でした。
ルミナスの新王は堂々たる態度で国民の前に立ち、告げられました。
「父、デューク王は身罷った。しかし、それは穏やかなものであった。父は何一つ憂いてはいなかった。何故なら、このルミナスには賢き民が大勢いるからだ。この若い私が王位を継いでも、ここにいる皆が助けてくれる。父はそう信じて旅立たれたのだ。ルミナスの民よ。私は誓う。私の忠誠はルミナスの下に。そして、母のように宣言しよう。皆にルミナスの加護があることを!」
広場に集まった全ての民が、この言葉に胸を震わせて、頷いて、涙を流しました。
新しい王による、新しい時代の幕開けに立ち会えた喜びに、感動したのです。
そうそう、ルイ様は既に王位に就かれておりますが、戴冠式は来年春。
デューク様の喪が明けてからとなります。
今日も城に上がった私を囲んで、お子様達が話しておられます。
「父上が王になったのは17の時。俺はもう20だ。ちゃんと勤められないと、笑われる」
「そうよ、ちゃんとしなさい!」
「セーラ姉上、わかってますよ」
「あの泣き虫のルイが王様になったんだものね。お母様、今頃喜んでいるわね」
「そうよ、誰よりもルイには甘かったもの」
「そうそう、私達には厳しかったのにね?」
「アリス姉様、それなりに厳しかったんですよ?」
そんなお3人のお姿を見ていると、やはりデューク様とカナコ様が思い出されます。
きっと今頃は天国で再会していらっしゃるんでしょう。
間違いなく、馬鹿ップル振りを発揮しているに違いありません。
私も、もう54になりました。
2年前に左大臣を辞して、引退しました。
今のルミナスの左大臣はアンリ殿ですよ。
後はルイ様の戴冠式を見届けてから、ノンビリと郊外で暮らす予定です。
いろんなことがありましたね。
年のせいです。
昔のことを思い出すと涙が、勝手に流れます。
色んな事件が起こりました。
時には焦り、時には怒り、時には楽しみました。
陛下は私とアンリ殿を手足の様に使い、カナコ様は便利な道具のように使いました。
けれども、そこには常に愛がありました。
気遣いがありました。
家族とは違う、仲間のような繋がりがあったと、私は自惚れてもいいでしょうか?
陛下、カナコ様、楽しかったですよ。
色々とボヤいて参りましたが、同じ時代を生きられた私は幸せ者でした。
あの時代を生きられた事が誇りなんです…。
「ポポロ?泣くな」
ルイ様が目ざとく見つけました。
慌てて涙を拭きます。
まぁ、拭いても流れるんですがね。
「いいではないですか、どうせ、もう年寄りなんですから…」
「年寄りが年寄りって言うと、老けるのが早くなるわよ?」
「アリス様、あんまりです」
「大体、ポポロは隠居するって決めてから、何かにつけて年寄りって言い出して…。周りはね、迷惑してるんだからね?」
「セーラ様、年寄りを苛めて楽しいですか?」
もう、このお3方は、…。
でもまぁ、カナコ様のお子です。
仕方ありません。
アリス様が手渡して下さったハンカチで涙を拭きます。
「ポポロ、いじけないのよ、いい?」
「そうよ、私達、ポポロが大好きなんだから」
姫様達が、私の背中を擦ってくださいます。
「引退しても、俺の隣にいるんだぞ?」
あああ、ルイ様…、そのお声、そのお顔。
陛下にそっくりで。
余りにも似過ぎていて。
私の涙腺は大決壊致しまいました。
顔を伏せて涙を零すので、ルイ様は私の肩を掴んで、苦笑いです。
思わず見上げます。
本当に、そのお顔も、似ております。
「ポポロ、余り泣くな。俺達まで、泣きそうになる」
「しかし、ルイ様、私は…」
「わかった、わかった。姉様達、ポポロを部屋へ」
「わかったわよ」
「まかせてね?」
「頼みました。では」
ルイ様は王としての執務に入られます。
私は姫様達に慰められながら、城の中の私の部屋下がりました。
使いの者が入れたお茶でホッと致しました。
「ポポロ、これからも、ルイのことを頼んだわ」
「はい」
「私達もいつでも駆けつけるからね?」
「はい」
まるでカナコ様のように、私を心配して下さいます。
ありがたいことです。
姫様達はそれぞれにご結婚なされ、お子様にも恵まれております。
幸いな事に、デューク様もお孫様とのご対面を果たされ、「孫とはこんなにも可愛いのか」と目尻を下げっぱなしでいらっしゃいました。
「ねぇ、ポポロ。ルイの結婚も決まったのだから、しっかりしてよ?」
「そうよ、ハイヒットのお爺様もお婆様も亡くなったでしょ?ルイのお爺様代わりはポポロなんだからね?」
あんまりです。
私は陛下よりも年下なのに…。
どうしてお爺様代わりなのでしょうか?
あ、そうでした。
ルイ様のご縁談も決まりました。
お相手は、アルホートの王女です。
最初にこの話が来たときは、リリフィーヌ様のことがありましたので心配をしたものです。
が、ジュリア王女は慎み深い方でした。
あのリリフィーヌ様とその兄上のことがあって以降、アルホートの前王は深く反省されたようでした。
ジュリア様は、まだデューク様が生きていらした頃に、ルミナスでデューク様とルイ様に会われております。
デューク様も「彼女ならば、カナコも認めるだろう」と仰りお2人の婚姻をお認めになりました。
ジュリア様は15歳、なので、デューク様の喪が明けてからの輿入れになることでしょう。
「しっかりしてね?」
「お願いよ?」
「はい、このポポロ、しっかり見届けますぞ!」
デューク様、いえ、陛下。
そして、カナコ様。
ご覧下さい、ルミナスは安泰です。
お2人のお子様は頼もしくご成長なさりましたよ。
もう直ぐ私もそちらへ参りますが、待ってて下さいますかね?
きっとお2人で惚気合うのに忙しくて、それどころではないんでしょうね。
私なんかが、ノコノコ行っても構っていただけるかどうか…。
まぁ、それでも私はお2人のお側に行けることを楽しみにしております。
ポポロ・ライゲルはルミナスの民で幸せでした。
自分でもまだ名残惜しい気がするのですが、明日、完結です。




