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「ははうえ?」
「ルイ?どうしたの?」
私は居間の横の部屋で寝ていた。
マサが可動式のベットを作ってくれたから、楽になる。
ベットが椅子みたいになるんだよ。
私は庭を見ながらウトウトしてたんだ。
「そばに行ってもいい?」
「いいわよ」
「うん」
そう言うと、ルイは内履きを脱いで、私のベットの上に乗った。
「ははうえ!」
私に抱きついてくるんだよ。
可愛いなぁ、もう。
「ははうえの、においがする」
「ルイは太陽の匂いがするわよ」
「ほんと?」
「ええ」
それから、ルイは通いだした学院でのことを話してくれた。
私たちの子供は全員特選クラスになった。
ルイの魔量はデュークさんを超えそうらしい。
「でね、ジャック伯父様がね、おしえてくれたんだ」
「そうなの?ジャック伯父様は、優しい?」
「うん、でも、きびしい」
「そうなの?」
子供達は概ねジャック兄ちゃんに任せている。
兄ちゃんなら、変に特別扱いしないから、安心なんだ。
「だって、友だちとしゃべってたら、おこられた」
当たり前じゃん。
と思うんだけどね、ルイは可愛いから許しちゃう私がいたりする。
「ルイ、おいで」
「うん!」
ギュッと抱きしめた。
後、何回抱きしめてあげられるんだろうか。
覚えてくれてるかな…。
「ははうえ?」
「なあに?」
「ははうえの病気、なおらないの?」
「ルイ…」
ルイには言わないといけないのかも知れない。
「ルイは王になる人間だから、知る権利があるわね」
「けんり?」
「そう、ルイ。母の病気はね、治らないのよ」
「しんじゃうの?」
「そう、死んじゃうの」
「やだ!」
ルイは私にしがみ付いてくる。
「そんなの、いやだ!ははうえ、いて?おねがい、しなないで?」
「ルイ」
私も力一杯抱きしめた。
ルイの涙が収まるまで、待ってあげた。
「ルイ、これは変わらないの。でもね、母は幸せだわ。ルイがいてくれるもの。ルイがお父上の後を継いで、ルミナスを守ってくれるもの。母は安心して、行けるのよ」
「ははうえ…」
「人間はいつか必ず死ぬわ。それだけは平等に訪れるのよ。だから、母は自分が死ぬ時期を知っているだけ、幸せなの。限られた時間を全部、あなた達に使うことが出来るから。わかる、ルイ?」
「よく、わからない」
「そう、それでもいいのよ。母の言葉を覚えていてね。ルイが大人になっても、思い出せるように、覚えておいてね?」
「うん」
私はルイの頬にキスをした。
なんて柔らかいんだろうか。
「お父上を助けてあげてね、ルイ?」
「おれが?だって、ちちうえは、強いよ?」
「もちろんよ、お父上はお強いわ。でもね、それでも時々は寂しくなられる事もあるのよ。人間なんですもの、わかる?」
「うん、すこし」
「それでいいの。ルイが生まれた日、お父上は誇らしげにあなたの名前を告げたわ。ルイ・デューク・ルミナス、ってね。あなたは私達の誇りよ。ルイ」
「うれしい…」
ちょっと照れてる姿が、デュークさんのミニチュアなんだ。
堪らない。
「さぁ、ルイの話を聞きたいわ。話して?」
「えっとね、アリス姉さまがね、セーラ姉さまのおかしを取ったんだよ!」
「まぁ、アリスは食いしん坊だからね、あ、内緒よ?」
「うん!ないしょ!」
「それで、セーラは怒ったの?」
「おこらなかったよ」
「あら、どうして?」
「だって、マリウスさんがいたんだもの」
あ、アリスの奴、考えたな…。
「それじゃ、セーラは怒らないわね?」
「うん、アリス姉さま、あたまいいよね?」
「ルイも、そう思う?」
「うん、思う」
私とルイは、クスクスと笑った。
「アリス姉さまは、さびしいんだと、思うよ?」
「そうなの?」
「うん、だからね、時々、イタズラをするんだ。でもね、」
「ええ」
「みんなのことが、好きだから、すぐにあやまっているんだ」
「そう。ルイは良く見ているのね?」
「だって、おれは男だから、姉さまたちを守らないといけないって、ちちうえが教えてくれた」
可愛いなぁ。
けど、こんな時間ももう残り少しなんだね。
マリウス君も加わっての夕食が賑やかに始まり、終った。
彼もすっかり家族の一員になって、デュークさんとルイの3人で男同士の団結を固めている。
セーラ、あんまり我が侭すると、デュークさんとルイが怒るぞ。
その位にマリウス君は我が家の息子になっている。
良かった。
夜は私達だけの時間だ。
「デュークさん、また、泣いてる…」
「あ、すまない」
最近のデュークさんは泣いてばかりだ。
「いいよ。私の為に泣いてくれてるんだもの。嬉しいよ?」
本格的に夜を禁止されてしまったんだ。
その位に、悪くなっていってる。
「カナコ、いなくなるのか?」
「そうだね」
「行かないでくれって、約束したよな?」
「うん、したよ」
「なのに…」
デュークさんだって、分かってる。
分かっているけど、飲み込んで冷静になるのは別なんだ。
だから、今は、私が死んだ時に、ちゃんと王様として冷静にいるための準備をしてるんだよ。
「ごめんね?また、先に行っちゃうね」
「カナコ、一緒に死ねないのか?」
「無理よ。分かっているくせに」
「…」
涙が綺麗だ。
「デュークさん、子供達のこと、お願いね?」
「俺にはカナコがいればいいのに…」
「上で待ってるから。ちゃんと約束するわ」
「待ってくれるのか?」
「うん、何があっても、デュークさんが来るまで、待ってる」
「カナコ…」
私を抱きしめると、キスをくれた。
そのまま、デュークさんが泣き止むまで、私はデュークさんを抱きしめていた。
「もう、大丈夫だ」
涙が止まったらしい。
私は願いを口にする。
「抱いて?」
「駄目だ」
「本当に抱いて欲しいの」
「いくら俺でも、そうすればカナコの命が縮むことは分かっている。子供達のために、出来ない」
正論だ。
「そう、ね…。けど、寂しい…」
「俺もだ」
抱きしめ合ったままで、途方にくれたデュークさんがつぶやく。
「カナコ、俺はお前がいなくなったら、どうやって生きていけばいいんだろうか?」
「ルミナスの王様よ?周りが支えてくれるわ。少しは周りに甘えてもいいのよ?」
「甘えるか?」
「子供達にも、甘えていいと思うわ」
大きな手が、私の頬を包む。
「そうだな、考えてみるよ」
「うん」
優しい声だ。
落ち着いたんだ。
「さあ、寝ようか?」
「うん、離さないでね?」
「分かっているよ」
月の光と夜の静けさ、そして、デュークさんの匂い。
私は安心して眠りについた。




