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30の年を迎えた。
あの神もどきの言った通り、私は段々と弱っていった。
けど、前の時みたいに突然じゃないから、覚悟はついてくる。
昼間は宮殿の日当たりのいい部屋のベットで横になったり、気分のいいときは散歩したりしてる。
けど、夜はデュークさんと一緒に寝てるんだ。
「デュークさん?」
「どうした?」
「キスして…」
「キスか?」
「うん、熱いキスがいい」
デュークさんの手が私のオデコに触れる。
「駄目だ。医師のいう事を覚えていないのか?」
ローランド先生が今の私の主治医だ。
そのローランド先生曰く、心臓に負担をかける行為はご遠慮下さい、ってことだ。
「遠慮でしょ?」
「ローランドが遠慮と言えば、禁止されたって事だぞ?」
「いや、」
「カナコ?」
私は思いっきり甘えた。
起き上がって、デュークさんの上に乗ったんだ。
「抱いて?」
「駄目だ」
「抱けないの?そんなに魅力ないの、私?」
「いつだって抱けるさ。だが、それとこれは、別の話だ」
「抱いて欲しいの。その為に生まれてきたんだから、でしょ?」
「カナコ…」
だから、私から、キスをした。
最初はためらっていたデュークさんだけど、凄く深くて熱いキスをしてくれた。
止められない。
「俺は、馬鹿だ。カナコのためにならないって、わかっているのに、カナコが、欲しい」
「それ、で、いいの。だって、私達、馬鹿ップルでしょ?」
またキスを繰り返す私達。
デュークさんの手が私の頬から、首へと、肩へと、移って行く。
デュークさんの手がゆっくりと私の服を脱がせるんだ。
けど、手が止まる。
「ああ、カナコ…やっぱり、だめ、だ」
「お願い、私に触れて?」
「カナコ?」
「触れて欲しいの、デュークさんに愛されたいの…」
月の光が部屋に差し込む。
デュークさんは起き上がって、私も起こしてくれる。
ベットに座ったままになった私達は互いの服を脱がせた。
夜着を脱がされて裸になった私の肌を、月の光が照らしてくれる。
「カナコ、綺麗だ…」
私の裸を見て、切ない顔でデュークさんが呟く。
泣きそうに見えた。
「どうしたの?」
「カナコが綺麗だから、だ。どんなに愛しても、愛し足りない」
「嬉しい」
私は手をデュークさんの方に伸ばした。
その手を掴んで口づけで触れてくれる。
なんて繊細に感じるんだろうか?
「感じる、デュークさんを、感じる、よ」
「カナコ、いいか?」
「いいか、なんて、聞かないで?」
デュークさんが抱きしめてくれる。
肌と肌がくっつく。
なんて、気持ちがいいんだろう。
私は、今、デュークさんに触れている。
デュークさんの肌と私の肌が一つになっている。
「愛してる、ずっと、だ」
「うん、」
互いを見る瞳が潤んでいる。
唇が触れた時、そっとデュークさんが私を寝かせた。
離れた唇が、体中を口づけてくれる。
優しい刺激なんだ。
そして、ゆっくりとデュークさんが私に触れる。
なんていいんだろうか…。
「あ、ああ、いい、」
いかされてしまうんだ。
「デューク、さん、」
「カナコ?」
一つになりたい。
「来て?おねがい、きて…」
「ああ、」
私に負担にならないように、ゆっくりと中に入ってくれる。
「ああ、」
デュークさんの声が、聞こえる。
刺激は激しくなく、優しくて、甘い。
「カナコ、!」
果てたデュークさんが、私の上に落ちてくる。
熱い。
「素敵だ、カナコ、愛してる、お前だけだ…」
息が上がっているデュークさんが耳元で囁いてくれる。
それだけで、嬉しい。
「このままで、いて?」
「カナコが望むなら」
「抱き合っていたいの」
「わかった、」
私達はこのまま、眠りにつく筈だった。
けど、デュークさんが泣いている。
「涙…」
「すまない、カナコ」
「謝るのは、禁止、でしょ?」
そうなんだ。
2人きりになると、最近のデュークさんは謝ってばかりいる。
「あ、すまない」
「もう、…」
子供みたいって言葉を言おうとしたんだけど、少し、胸が痛くなってしまった。
顔に出てしまう。
「痛いのか?」
「少し…」
魔法を掛けてくれた。
楽になる。
「どうだ?」
「うん、楽になった」
けどね、楽になるだけで、治る事はないんだ。
それでも、デュークさんが欲しかったんだ。
愚かでもいいんだ。
愛されたかったんだから。
「凄く楽になった、だから、話してたい」
デュークさんは髪を撫でてくれる。
「なぁ、カナコ」
「なあに?」
「初めて、リリの体の中に入ったのは、何処からだったんだ?」
「え?今頃聞くの?」
本当だよ。
今さらだよね。
「ああ、今聞く」
「そう…、えっとね、あのね、真夜中だったんだ」
「俺が抱いていた時か?」
「そう…」
手が頬に触れた。
「やっぱりな…」
「気づいてたの?」
「そうだな、どう言ったらいいんだろう…、違っていたんだ、リリとは」
「そうなんだ」
「とても戸惑っていたし、慣れてもいなかったな」
そうだよ、あれが私の初めてだったんだもの。
「でもな、可愛かった」
「恥ずかしいよ…」
「どうしてだ?」
「だって、初めてだったんだもの」
「俺はおまえの初愛の男だからな」
「うん」
月の光は、デュークさんも照らす。
初めて会った時より、皺が増えた。
緑の髪でも、白髪になるんだよ。
白髪が増えたもんね。
けど、変わらないのは、赤紅の瞳だ。
私を見るときは、特別に優しい。
「さぁ、寝ろ?」
「うん」
抱き合ったままなんだ。
どんな上質な布団より、デュークさんの肌に触れている方が良く眠れるんだよ。
こうして日々が過ぎる。
マサが宮殿に来た。
「まぁ、これって?」
「飲んでみて下さい」
間違いない。
「カルピスだわ」
「乳酸菌です、元気になりますよ」
「そうね、毎日頂くわ」
「はい」
私達は互いをみた。
「マサも、年を取ったわ」
「カナコ様は変わりません」
「そんながお世辞、嬉しいのよ」
「お世辞ではありませんよ」
そこへ、料理が運ばれてきた。
最近食欲がない事を聞いたらしく、上品な懐石料理を作ってくれたんだ。
「まぁ、しんじょ?」
「そうです、鰹節の出汁で取ったんです」
「美味しい。懐かしいわ」
「良かった、これも、どうですか?」
「茶巾寿司?お寿司大好きなのよ」
マサはニコニコしてくれてる。
「ようやく安定した味の出せる鰹節と昆布が出来ました」
「間に合ったわね」
「はい」
私は今後のことを話さないといけない。
「マサは兄から何処まで聞いているの?」
私の事は伏せられている。
「全て聞きました。カナコ様のお命の事も…」
「そう。なら話が早いわね」
私はゆっくりと話し出した。
「マサ、研究所だけど、マサはどうしたい?」
「あれはカナコ様が作られた施設。いずれ閉めるべきかと」
「そう…」
大方の日本食は食べられる様になった今、これ以上の開発は無意味だと、私は思っていた。
けど、そうしたらマサ達職員は路頭に迷う。
「ねぇ、ルミナスには特許って概念がないわよね?」
「そうですね、研究所には使用料という事で支払ってもらってますからね」
「そこよ、研究所を特許管理センターにするの。そうしたら、職員も働けるし、食品に拘らないでいろんな開発を続けることも可能だわ。どう?」
「なるほど、それもいいかもしれません」
「じゃ、その方向で進めてくれる?ポポロとアンリ兄様の意見も聞いてね?」
「はい、分かりました」
「私は、もう、降りるわ」
マサは驚いている。
「カナコ様!」
「もうね、自分で分かってるの。だから、後は、家族のために生きたいの。許してね」
「ですが、」
「マサ、貴方には研究所を見届けて欲しいの。お願いしていい?」
「カナコ様…」
「断るのは、駄目よ?」
笑ってる。
「分かりました。見届けましょう」
「お願いしたわ」
これで、肩の荷が降りた気分だ。
後、どれくらいなんだろう?




