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ジャック兄ちゃんの部屋へ行った。






「珍しいな、フィー?」

「うん、ちょっとお願いがあったの」

「どうした?」


そう言って紅茶を入れてくれた。

ジョゼがいない今、私が1番ホッとするお茶はジャック兄ちゃんが入れてくれるお茶になってしまった。


「美味しい…」

「そりゃな、ジョゼさんから教わったんだから」

「だったね」


下積みの頃、お茶の入れ方で悩んで、ジョゼに教わったんだそうだ。

だから、ホッとするんだよ、きっと。


「で、?」

「特選クラスのビクラード君って、どんな子かしら?」

「マリウス・ビクラードの事?」

「そう」


ジャック兄ちゃんが少し考え込んでから、私に尋ねる。


「どうして、私に尋ねるんだい?」

「お兄ちゃんなら、本当の事教えてくれるもの」

「私の偏見が入っているかもしれないよ?」

「それは、ないわ。私の知ってるジャック兄ちゃんは、変わってるけど、誰に対しても平等だもの」


笑うんだ。


「フィーは兄弟を信用し過ぎだぞ?」

「え?いけないの?」

「いけなくないけど、もし、兄弟が間違っていたら、どうするんだ?フィーは王妃なんだ。国の真ん中にいるんだぞ?」


ああ、ジャック兄ちゃんだよ、まったく。


「もう、ジャック兄ちゃん。お兄ちゃんはね、考えすぎだよ?まったく何年ジャック兄ちゃんを見てきたって思ってるの?私が生まれた時から、ずっと見てきたんだ。良く知っているんだよ?だから、頼ってるんじゃないの。もうちょっと妹を助けてよ?いいでしょ?」

「フィー…」

「デュークさんも頑固者だけどね、お兄ちゃんは屁理屈こきだわ。もっと素直にならないとマサに嫌われるよ?」

「おいおい、そんな、身も蓋もない…」

「で、どうなの?妹を助けてくれるの、くれないの??」

「わかった、わかったよ」


お兄ちゃんは紅茶のお代りを入れてくれた。


「マリウス・ビクラードは、概ね、素直で活発ないい少年だよ。自分を抑える事も知っているし、人の話を聞く耳も持っている。裏のない人物だ」

「良い子なの?」

「まぁね、ただ、」

「なに?」

「経験が浅いから、これからどの様に成長するかは、分からないな」

「そうか、そうだよね」

「ああ。けれども、これは同じ年代の人間に共通していえることだと思うよ」


さすがだ、分析する能力は優れている。

優れすぎている、とも言うんだと思うけど。


「彼の事、調べてどうするんだ?ルイの部下にでもするのか?」

「それは陛下の考えることよ。私は母として、娘の心配をしてるだけ」

「娘って?あ、そうか…」

「何、それ?」

「セーラだろう?」

「なんで分かったの?」


学院の教授はニヤリと笑った。


「色んな場所で見かけたからな。図書館、廊下、校庭の隅、門の前…」

「あらあら、見られてるのね?」

「今のところは大丈夫だ。私が目ざといだけだからね」

「本当ね?」

「信じてくれよ。さっきは信じるっていったくせに」

「信じてるわよ、これは確認なの」


こうなったら、巻き込むしかない。


「あのね、実はあの2人を応援することにしたのよ。だって、私の残された時間、少ないでしょ?」

「そうだったな…、もう、そんな年になったんだな…」

「そう、だから、ね。学院にも強力な味方が必要なの。分かってくれるかしら?」

「ああ、分かるよ。可愛い姪っ子のために、一肌脱げばいいんだろう?」

「そういう事」

「で、何をしたらいい?」


うーんと、そうだな…。


「今の所は、2人の関係を誰にも知られたくないのよ。あの子達は内緒にしてるって言ってるけど、なんたって恋愛中だから見えてないわ。でしょ?」

「そうだな」

「だから、お願いね。なんか考えて」

「それを、丸投げって言うんだぞ?」

「いいじゃない、お兄ちゃんのやる事は間違いないから」

「それは、アンリ兄様に言う言葉だ」

「大丈夫、ジャック兄ちゃんも同じだわ」

「ああ、わかった。フィーには叶わないよ」


よし、これでいい。

あ、後、これもお願いしておかないと。


「ジャック兄様?」

「どうしたんだい、急に改まって?」

「これは、兄様にしかお願いできないことなんだけどね、ルイをお願いするわ」

「ルイを?」

「そう、いずれルイは特選クラスに入学するわ、でしょ?」

「ああ、間違いないな」

「兄様にルイを託すから、厳しく見てやって欲しいの」

「エリフィーヌ…」

「もちろん、愛情を持ってなんだけど、お願いするわ」


お兄ちゃんが固まった。


「それは、陛下も知っている話なのか?」

「もちろんよ。常々そうした方がいいって、話してきたことなの。時期が来れば陛下から依頼が行くと思うわ。けど、私の時間は少ないから、今お願いした方がいいと思ってね」

「いいのか、私で?」

「もちろんよ」


うな垂れてしまった。

兄ちゃん、頼むよ。


「お返事は?」


ちょっと王妃面してみた。


「妃殿下、私には荷が重過ぎます」

「いいえ、大丈夫です。陛下と私が決めたのです。頼みました」


ようやく諦める。


「畏まりました、妃殿下。ジャック・ハイヒット、微力ながらルイ殿下をお支えいたします」

「お願いします」


お兄ちゃんは顔を上げた。


「わかったよ、フィーの子供達のこと、任せろ。やれるだけの事はやるから」

「うん、ありがとう!」


こんなに長く話したの久し振りだな。

本当に、ジャック兄ちゃんはジャック兄ちゃんだった。







次に私は、マリウス君の母に会うことにしたんだ。

直球過ぎる、とマリ姉ちゃんには止められた。

けれど、アンリ兄様の調べを信じようと思う。

彼女は実直でおおらかな女性らしいから。





マリ姉ちゃんの最大の譲歩が、カフェ・マリーでの会食だった。

まぁいいけど。



恋愛相談所の所長は顧問に弱いんだ。 








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