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次の日から、私は動いた。
まぁ、動くたって限られているんだけどね。
取り合えず、アンリ兄様を探した。
城の中の兄様の部屋へ押し掛ける。
「アンリ兄様、いいかしら?」
キチンと整理された部屋で、お兄様は書き物をしていた。
「フィーじゃないか、珍しい。どうしたんだ?」
「兄様にお願いがあって来たの」
「なんだい?」
「あのね、調べて欲しい家があるのよ」
「家?どうかしのか?」
どう言おうか。
ちょっと悩んだが、そこを伝えないといけないよね。
「実はね、セーラのことなのよ」
「セーラ姫?」
「そうなの。好きな人が出来たみたいで、それが、相手の方もセーラが好きなのよ」
「え…、フィー、簡単に言うが、彼女は王女だぞ?そうそう気軽に恋愛は出来ないだろう?しかし、相手は誰なんだ?」
「ビクラード公爵の長男のマリウス君よ」
アンリ兄様がホッと息を吐いた。
「ビクラード公爵の息子ならば、安心したよ」
「でしょ?私もマリウス君に会ったんだけどね、いい子だったから…。けど、一応調べた方がいいと思ってお兄様の所に来たの」
「そうだな、一応は調べた方が安心する。わかった。早急に調べよう。3日も掛からないと思うよ」
「そう、助かったわ」
私もホッとしたよ。
「けど、な。あのセーラ姫が恋してるのか…」
「本当にね。だけどね、私、娘の恋愛を見守れるって思ってもいなかったから、すごく嬉しいの」
「フィー?」
「アンリ兄様、私がいなくなっても、デュークさんのことや、子供達のこと、お願いします」
兄様は驚いたような顔をした。
「エリフィーヌ、本当に30年しか生きられないのか?」
「多分ね。だって、生まれ変わる事が奇跡なんだもの。だったら、何か代償はあるはずでしょ?」
「そうだけど…」
「充分だわ。デュークさんと濃い時間を過ごせたし、子供達も見守れた。オマケに娘の恋愛の相談まで受けたの。幸せな人生だわ」
「フィーはそうやって受け入れてきたんだな…」
「そうね、そうするしかなかったから、よ」
「陛下は大丈夫か?」
「大丈夫。ルミナスの王よ?きっと乗り越えるもの」
「そうだな、そうだ」
そうだよ、デュークさんは弱くなんか無い。
受け入れてしまえば、前に進むんだ。
「とにかく、ビクラード公爵の件、お願いね」
「わかったよ」
「デュークさんには気づかれないようにね?」
「あ、そうだな…」
「そうよ、セーラに恋人がいるなんて知ったら、大変よ?」
「うん、気をつけるよ」
そうそう、八つ当たりはポポロか兄様にしか行かないんだから。
しっかりとお願いするぞ。
そして、私は次に向った。
学院だ。
久し振りに中に入った。
変わりない筈なのに、何かが違うんだ。
ザックがいないからだろうな。
「王妃様!突然のお越し、如何致しましたか?」
グランガ学院長が飛んできた。
何処で見てたんだろうか?
相変わらず学院は、不思議だ。
「急にごめんなさいね。グランガ、いつも娘達の事、気に掛けてくれて、ありがとう」
「いいえ、王妃様。こんなところではなんですから、別の部屋へ」
「いいのよ、兄に会いに来たの。ジャック兄様はいるかしら?」
「はい、彼なら今は授業中ですが、もう直ぐ終りますので」
「なら、待つわ」
そう言ってグランガと行こうとしたんだけど、ちょっと思い直した。
「ねぇ、特選クラスの6年生って、今、何をしてるの?」
「確か、運動の授業中かと」
あ、体育の時間ね。
「見学してもいいかしら?」
「構いませんが、なぜ?」
「ルイの為に、ね」
これなら断れまい。
「それならば、是非に。特選クラスは人数が少ないので、5年6年と合同です」
「そう」
私はグランガの案内で、運動場へ出た。
少年達が、サッカーをしてる。
あ、少女も混ざってるな。
体力差は魔法で補っているんだね、きっと。
いたいた、マリウス君だ。
おお、頑張っているぞ。
さすが、ビクラード公爵の長男。
軽々と走ってゴールを決めた。
キャー!
なんだ、なんだ、この声援は?
良く見ると、女の子達が観戦中だよ。
いいのか、授業は?
「あの子達、授業はいいのかしら?」
グランガの言葉が濁る。
だろうな、ちょっとどうかと思うぞ?
「あ、はい…。おそらく自習のクラスでしょう。課題を提出してしまえば後は自由ですから」
「そう、…。あの歓声は?」
「ビクラード君への、その、声援です」
「声援?なに、ビクラード君には親衛隊がいるの?」
へえ、マリウス君ってもてるんだ。
「そういう事になります。彼は運動も勉学も、魔法も人より出来るので、目立ちます。それにお父上譲りの面倒見の良さが加わって、中々の人気者なんですよ」
先日も思ったけど、マリウス君はそれほどの美形じゃない。
まぁ、私の周りにはデュークさんを始めルイやアンリ兄様と言った美形揃いなので、私の感覚が麻痺している事は認めるよ。
その証拠に親衛隊が出来るくらいに、爽やかな笑顔が印象に残ってるんだから。
けど、親衛隊が出来るくらい人気があるなんて、中々の逸材かもしれない。
セーラの目も大したもんだ。
「そう言えば、時々セーラ様と図書室でお目に掛かる事がありました」
図書館デートか、いいな。
母の私でさえやったことがないのに…。
こればっかりは、デュークさんに強請っても、無駄だからな。
「そうなの…」
いいなぁ、なんて娘を羨ましがってどうする。
今、青春してるのは、セーラなんだから。
で、私の目はマリウス君を追っていた。
あ、またシュートを決めた。
キャー!
マリウス様!
こっちを、見てぇ!
キャー!
凄いなぁ。
と思って女の子達を見てみる。
良かった、セーラもアリスもいない。
姫が黄色い声援を送るなんてありえないんだからね。
ちゃんと立場を分かってくれている。
本当に良かった。
しかし、ここまでとは思ってなかったよ。
これでは、女の子からの嫉妬が凄そうだ。
まぁ、セーラは王女だから安心だけど、でも、用心に越した事はないな。
その辺もアンリ兄様にお願いしておこう。
そうこうしている内に、授業が終った。
グランガはジャック兄ちゃんの控え室に案内してくれたんだ。
ジャック兄ちゃんは、何処までも、ジャック兄ちゃんだった。




