18
いい感じで夜は進む。
酔った勢いだ、なんでも聞いてやれ。
「デュークさんは、リリさんが初恋ってわけじゃないんでしょう?」
王様はグラスを持ったまま、固まった。
「あ、いやあ、嫌なら答えなくていいです」
「嫌な訳じゃない。いや、うん…」
あ、照れたりニヤケたりするところを、人に見せたことがないのかな?
王様だしね、抵抗があるんだ。
そうに違いない。そうしようっと。
「惚気ても大丈夫ですよ?人の恋バナは聞き慣れてますから」
そうそう、後輩のクセして、次々に相手を変えやがって…。
「こいばな?」
あ、知らないよね。
「恋愛の話ですよ。どれだけ相手のことが好きか、どんなに自分が相手を愛してるかって、誰かに言いたくなるじゃないですか?で、私は聞き役でしたから」
「惚気るって、みっともないだろ?」
「そうですか?可愛いじゃないですか。いいですよ、惚気て」
それでも、ためらいやがって。
強情な奴だ。
「さぁ、早く?」
おお、顔が赤くなったぞ?
「初めて会ったのは1年前だ」
「へぇー、リリさんは可愛かったですか?」
「ああ、美しかった」
目の前に体だけはいる状態で聞く恋バナは、不思議な気分にさせる。
さすがに、デュークさんは目線を下にして、照れ気味に話す。
「声も、髪も、何もかも。一瞬で妻にしようと決めた」
「うんうん、デュークさん、何歳の時ですか?」
「俺は17歳だった」
「え?」
なんだって、1年前に17なら、今は18か??????
「じゃ、今、18歳?」
「そうだ」
「え?年下なんだ!やだ!見えない!」
「いや、おまえ、体はリリだろ?」
「あ、そっか。自分じゃ見えてないんで…」
「そうだな」
18で国王か…、そりゃ、格好をつけないといけないわな。
「意外に苦労してるんですね?」
「うん?」
「そんなに若くて王様だなんて、ご両親を早くに亡くされたんですか?」
「母上は10歳の時に。父上は1年前に亡くなった。魔物征伐で、ヤラれた」
魔物征伐で?死ぬの?
「え?魔物征伐って、死ぬんですか?」
「運が悪いとな。当たり前だろ?」
「デュークさんは、怖くないですか?」
「怖い?分からないな」
「だって、死ぬんですよ?いなくなるんですよ?」
「魔物征伐は王家の勤めだ。それが出来なければ王の資格などない」
さすがだ。王様なんだ。
「凄いな…」
「どうした?」
「いいえ、ささ、飲んで下さい。今夜は飲むんでしょう?」
「そうだな、飲むぞ」
2杯立てつづけにグラスを空けた。
目、据わりかけてませんか?
けれど、不思議な状況だ。
私達はテーブルを挟んで椅子に座って、飲んで喋ってる。
もう、どの位、そうしてる?
私はカナコ全開で、デュークさんは素直で。
けれども、嫌じゃないんだ。
「私達、飽きないですね?」
「飽きない、不思議だ…」
「不思議ですね」
デュークさんが、ちょっと困ったようにボトルを持った。
「飲め」
「はい」
飲んじゃお、飲んじゃますよ?
「カナコは拒まないな?」
「ええ、お酒は好きですから」
「そうか…」
うん?どうした?
目が泣きそうだぞ?本当は泣き上戸か、デューク?
「なぁ、カナコ?」
「どうしました?」
そんな縋るような目でみても、何にも出ないよ?
「拒まない拒絶ってのもあるんだぞ、知ってるか?」
「複雑ですね?嫌なら拒めばいいのに?」
お、今度は嬉しいのか?
「そうだな、そうだよな?」
「そうですよ、そんな思わせぶりな態度は許せませんね」
「許せないか?」
「そうですよ、デュークさん、怒らないと?」
愉快そうに笑う。
「ハハハ!」
けど、どこか悲しそうでもある。
うん?私も酔ったか?
「カナコ、飲め!」
「はい!」
最後のボトルが空になりそうだ。
「その顔が、言うんだ…ハハハ!」
悲しそうなのに、嬉しそう、うん?
「おまえは、リリじゃないな、本当に、リリじゃないんだな…」
「え?デュークさん、酔ってます?」
「俺が酔う?酔う訳ないだろう!」
あ、酔ってる。
「なぁ、カナコ、俺はルミナスの王なんだぞ?」
間違いない、うん。酔ってる。悪酔いしてる。
「はいはい、デュークさん、もう、寝ましょう?明日も早いんでしょう?」
「寝る?俺と寝るのか?」
「いやー、それは…」
「寝るぞ、ほら、来い!」
って、立ち上がったのはいいけど、あなた、フッラフラですよ。
「あ、危ない!」
思わず、支えます。
「こっちですから、はい、いいですか、そうそう、いいですよ」
ベットまで何とか運びました。
もう目が閉じかけてますよ?
「カナコ…」
「はい?」
「俺は、馬鹿なんだよ…」
「え?」
「リリが忘れられない…」
「そうでしょうね?普通ですよ?大丈夫です」
「カナコ…」
「はいはい、寝ましょうね?」
早く寝てくれ。酔っ払いは面倒だ。
「どうして、リリは俺を愛してくれないんだろうな…」
へぇ?????????
「え?なんて言いました?」
「…」
寝たぞ、寝たぞ、こいつ…。
寝やがって、肝心なときに寝やがって!
気になって寝れないじゃないか!
なんか悔しい。
自分だけ、サッパリして寝よっと。
ついでにアルコールもなくなれっと…。
ヒョイ!
寝巻きに着替えて、テーブルの上も魔法で片付けて、うん?
後片付けって、魔法を使えても面倒だ。
しかし、飲んだなぁ。
案外、私達、仲良く出来るのだろうか?
喧嘩するよりは、いいだろうけど…。
寝室から、声がした。
「カナコ、」
うん?なんだ、寝てたんじゃないのか?
扉の向こうを覗いてみた。
デュークさんが目を開けて座っている。
こっち見てるぞ?
「起きてるんですか?なんですか?どうかしたんですか?」
「…隣に来てくれ」
え???まだ、酔ってるよ。
「寂しいんですか?」
「いや、…」
この際だ、苛めてやれ。
「正直にいった方がいいですよ?」
それは、拗ねたような声。
「寂しい…」
おいおい、照れてる、照れてるよ、この人!
「仕方ないですね、隣に寝るだけですよ?何もしないで下さいね?」
「ああ…」
「お酒って怖いですね。獅子が猫になりましたもん」
「いうな…」
デュークさんの隣に潜り込んだ。
暖かい、人の肌って魔物だ。
「お休みなさい」
「ああ、お休み」
本当に何もしなかった。
紳士なんだな、デュークさんは。
長い夜が過ぎた。
こんな夜は、ルミナスに来て、初めての夜だなぁ。




