173 あなざーさいど33
デュークの忍耐とポポロの苦境
陛下に呼ばれ執務室に入った途端、でした。
「ここまでしないと、いけないのか?」
陛下の声は不機嫌です。
「はい」
「もう3回も会ったぞ?」
「そろそろですから」
回りくどい策だとは分かっています。
しかし、あの女達は、いい気になって箍が緩みだしている。
一気に行くために、仕方が無いんです。
「なぁ、ポポロ…」
数日前、カナコ様から辛い言葉を聞かされた陛下は、落ち込んでおいでます。
何でも、会わないようにワザと遅くに帰っている陛下を、待っておいでになっていたそうです。
「カナコに、側にいて欲しい、って言われたんだ。俺だっていてやりたかった」
陛下がカナコ様の願いを振り切ったなんて、もう二度とないことでしょう。
「しかし、陛下。あいつ等のやり様をみていると、カナコ様も騙さないと…」
「わかった、わかってる」
私に言い寄った女と残りの部下に言い寄った女達は、ルミナスの女性牢に入れました。
こちらに来てからの行動を全て観察して、言いがかりとも思える罪状で収監したのです。
強引だって構いません。
事が終われば、彼女達は釈放される予定です。
充分なお仕置きを据えてからになりますがね。
今のところ、あいつ等には彼女達の居所は知られていません。
あいつ等は未だに、全てが上手く行っていると信じているのです。
堪えて頂かないと。
「もう直ぐ、あの女が、来ますから」
「わかっている!」
陛下は深呼吸をして、平静を保ちます。
さすが、王です。
素早く平常をよそおいます。
女が入ってきました。
「陛下!お会いしとうございました!」
「元気か?」
「はい、早く、陛下のお情けを受ける事だけを考えて参りましたのよ。待ち遠しいんですもの」
「そうか」
もうちょっと愛想を振りまいて欲しいものです。
「そうだな、わかっているだろうが、今は難しい。問題があるのだ」
「問題、ですか?」
「そうだ。知っての通り、ルミナスでは王妃の評判は物凄く良い。その王妃の存在があるからな…」
女は下を向いて考え込んだ。
「その問題が片付けば、私は陛下と過ごせるのでしょうか?」
私達の目が合った。
今だ。
「レジーナ様」
と私はワザと仰々しく名前を呼んだ。
「陛下はとてもお悩みになっております。貴女様との出会いが出会いなので、大っぴらにする訳にもいかないので…」
「そ、そうです…」
「けれども、貴女様が、何か解決策をお持ちなのであれば、話は別です」
「別?」
「はい、この件は私達が関わる事は出来ません。お分かりでしょう?」
「まぁ、そうですわね、何か出来るかもしれません」
「それは良かった。計画が決まりましたら、教え下さい。こちらで力を貸せることがあれば、お貸し致します」
「よろしくお願いします」
女は少し頭を下げた。
なんて、礼だ?
まったくなっていない。
カナコ様はヴィクトリア様が躾けただけの事がある。
完璧な礼儀作法で陛下の元に嫁がれた。
雲泥の差だ。
「私、父に相談いたします。そういう事が得意な部下が何人もおりますから。父は私の願いならば、聞いてくれますもの。いえ、私と陛下の願いですわよね?」
陛下は声を出さずに、浅く頷いた。
「じゃ、早く父に知らせて参ります。陛下が1日も早く、私と一緒に暮らしたいと仰ったって!」
そんな事、誰が言ったのだ?
でも、私たちは無言を貫いた。
勝手に勘違いすれば、いい。
この会話を良く思い出せば、陛下は決定的な言葉は言ってないことに気づく筈です。
そうです、勘違いする方が悪いのです。
「陛下、」
と女が陛下に近づきます。
「レジーナ、今は、このままでいよう。疑われるのは嫌なのだ」
「…、そう、ですね、。わかりました」
悔しそうな様子が伺えます。
でも、なんとか堪えた様子です。
そんなにしてまで、側室になりたいのでしょうか?
「早く、陛下に可愛がって頂きたいですわ」
無言でホンの少しだけ頷かれる陛下です。
「それに、王妃付きの侍女の間でも、陛下と王妃の不仲は噂の的になっているんですのよ」
「そ、それはレジーナ様が流されたのですか?」
「まさか!私はだた、認めただけですもの。もう直ぐ陛下の側室になるんだってね」
馬鹿だ。
馬鹿がいる。
「ご自分で?」
「ええ、嬉しくて我慢できないんですもの」
墓穴を掘る。
そのことわざを贈りたい。
「そうですものね、陛下?」
あ、怒ってる。
拙い。
「レジーナ様。少しお言葉をお慎み下さいね。これからは」
「そう?でも、本当になるんですから、いいんじゃないかしら?」
「いいえ、城は住まう者に品格を求めます。側室になられるならば、相応しい品格を身に着けて頂かないといけません。お分かりになりますか?」
「え、ええ」
「ならば、もうお時間です。計画が決まりましたら、また、いつもの様に私に連絡を。よろしいですね?」
「ええ、わかりました」
渋々と引き下がって行きました。
いなくなった途端、陛下から、物凄い負のオーラが漂います。
「ポポロ、これでいいんだな?ちゃんと解決するんだな?」
「も、もちろんです。このポポロ、必ずや、あいつ等を牢獄へ送りますので」
あ、陛下の目が怖い。
もしも、上手く行かなかったら、どうなるんだろう…。
胃が痛い。
「本当だろうな?だいたい、俺とカナコが、不仲などと…、いったい、誰のせいでこの様な状況になっていると思ってるんだ!まったく何時まで掛かるんだ!冗談じゃないぞ!」
「申し訳ありません…」
「ポポロ、俺がカナコを泣かせてるんだ。こんなことしたくもないのに…」
「お堪え下さい。この件が解決すれば、あいつ等への処罰の大きさに驚く事となりましょう。そうなれば、こんな馬鹿なことを考える人間はいなくなりますので」
ドン!!!
机を叩きつける陛下。
「分かった。堪えよう」
陛下の腕が震えています。
「俺はもう、視察などに行かん!」
「陛下…」
「悪いが1人にしてくれ」
「畏まりました」
廊下に出た私ですが、胸が痛みます。
胃も痛むんです。
帰りに医者に寄って、治療してもらいます。




