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その日からまた2週間が過ぎた。




「それは、そのままにしておいて?」

「はい…」


その侍女は私の指示に渋々したがったんだよ。

侍女の癖になんなんだ?

私に対して挑戦的なんだ。


「えっと、あなた?」

「はい、なんでしょうか?」

「名前は?」

「レジーナですわ」

「そう…」


なんで自慢げなんだよ?

雇用主は私なんだぞ?


「なにか?」

「いえ、なんでもないのよ。手を止めて悪かったわ」

「いえ、それでは失礼します」

「…」


睨んで行きやがった。

信じられない。





私の彼女に対する違和感は大きくなっていくばかりだ。





例の3者会談の時に、思い切って聞いてみることにした。


「ねぇ、エイミィ、アリエッタ…」

「カナコ様?」

「どうかなされましたか?」

「誰にも言わないで欲しいんだけど、いい?」

「「もちろんでございます」」


2人の口が堅いことぐらい、知ってるよ。

それでも、そう言いたかったんだ。


「新しく入った侍女のレジーナって、私が嫌いなのかしら?」

「カナコ様を嫌う?」

「そんなことが?」

「何かがあった訳じゃないのよ。けどね、時々、目が怖いの」


2人が黙り込んだ。

そして、互いに目で合図してる。


「何か、知ってるの?」

「いえ、知ってると言う訳ではないのですが、」

「彼女は、そう、変なのです」

「変?」

「先輩達に尊大な態度で接するといいますか、ねぇ?」

「ええ、思わせぶりな態度を取るといいますか…」


言い難いのか、2人の言葉が、止まる。

私は彼女達が話し出すまで待つことにした。


すると、意を決したように、エイミィが顔を上げた。


「カナコ様にお聞かせするかどうか、迷っていることがあります」

「なにかしら?」


エイミィの言葉にアリエッタが頷いた。


「彼女は、どうやら陛下をお慕いしているみたいなのです」

「陛下を?どういう事?」

「いずれは側室になる、と公言しております」

「それも、侍女達の前で、平気な顔をして、です」

「申し訳ございません、何度か注意をしてはいるのですが…」


絶句だ。

どういうことだ?

私だけが知らないのか?


「冗談でしょ?」

「それが…、」

「なに?」

「彼女が王の執務室から、出てきたところを見たものがおります」

「執務室から?」


執務室?侍従がいるじゃないか?

侍女には用事はない筈だ…。


「誰が見たの?」

「陛下の侍従が、です」

「侍女の中にも何人か、おります」


背中に冷たいものが走る。


「1度ではないって、そういう事かしら?」

「…はい」

「カナコ様?」


2人が心配そうに私を見た。

よっぽど青い顔をしてるのかな…。

ショックがデカイと、妙に冷静になれるんだね…。


「レジーナは、誰の推薦だったのかしら?」

「スムージィ伯爵です。あの方の新しい奥方がトリミダ出身ですから」

「じゃ、彼女も?」

「はい」

「あそこは、最近地上に出てきた部落の町だったわね」

「そうなります」


トリミダはデュークさんが単独で、以前に視察に行った先だ。


ルイが生まれてからは、私が同行して視察をすることが減っている。

長い時では、一週間以上も離れていることがあるんだ。


けど、これって、何かあったのかしら?ってなレベルじゃないよな…。

そうだ、あの真夜中に帰ってきたのは、トリミダからじゃなかった?


「陛下がトリミダに視察に行ったのは、いつだったかしら?」

「確か、1ヶ月程前です」

「その直ぐ後に、彼女が来たのよね?」

「…、はい」


最悪だ…。

キスを拒まれた、あの夜だ。

私は言葉を出せないまま、考え込んでしまった。

充分な時間を置いて、エイミィが話しかける。


「カナコ様、」

「…」

「陛下がカナコ様を裏切る筈は御座いません。この事もなにか事情があっての事です。もうしばらく様子を見られては如何でしょうか?」

「そうでございます。陛下に限って裏切るなど、ありません」

「貴女達、そう思う?」

「はい、私達がカナコ様にお使えして、7年が過ぎました。この7年間、陛下のカナコ様に対する愛情は増す事はあっても、なくなる事はありませんでした」

「そうです、きっと何か訳がおありになるのです。そう思えて仕方ありません」

「そう…」


2人は必死でデュークさんを弁護する。


「私達は誰よりもお側でお2人を見て参りました」

「そうです、どんなに陛下がカナコ様を愛されてるかを、ずっと見てきたのです」


そうだよね、私達の年月があるんだもんね。

ヒステリックに喚くことは、やめよう。


「そうね。事が終わったら、陛下が何もかもお話くださるわよね?」

「そうです!あんな噂は直ぐに消えますので、ご安心下さい」

「私達も、配下の者にキツク言っておきますので」


そうだよね?

って、どんな噂になってるんだ?


けど、聞くのを止めよう。

聞いたら気になるんだもの。


「分かったわ。それまで、待つことにするわね」

「「はい」」







だから、何も知らない振りを続けた。

だって、私は、その事を聞けないでいた。

怖かったんだ。


けど、だ。


知ってしまった。

レジーナが執務室に入り浸り、王と王妃の仲が険悪になっているって…。

そんな噂の存在を、ね。


だってデュークさんの帰りは遅く、城に留まる日も多い。

そりゃ、私達だって、毎日愛し合ってる訳じゃない。

体調の悪い日や、アレな日、寝不足の日、明日が早い日。

何もしないで、それでも、手を繋いで寝るだけの日だってあった。


けど、こんなのは無かった。

デュークさんは私の髪にすら触れてないんだ。






こんなの、初めてだ。






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