170 あなざーさいど32
計略家ポポロと策士アンリの作戦。
急に執務室に呼ばれたのは、陛下とポポロさんがトリミダの視察から帰った翌日だった。
「お待たせいたしました…、陛下?どうかなされたのでしょうか?」
そこにいた陛下の様子は初めて見かけるものだった。
お疲れと、怒りと、やるせなさが混ざっているような…。
2人共、ため息ばかりをついて、途方にくれていたんだ。
きっと、何か大変なことがあったに違いない。
「アンリ、俺達は嵌められた」
嵌められたって、一体、何に?
「嵌められた?」
「はい、トリミダは恐ろしい場所です。何か手を打たねばなりません」
「トリミダで何が起こったんですか?」
「ポポロ、話せ」
「陛下の許可が出ましたので、お話致します」
そう言ってから、ポポロさんが語り出した。
その内容に驚くしかなかった。
視察先のトリミダは最近になって大きくなってきた町だ。
当然、住民は地下出身者が多い。
いや、殆どが地下から上がってきた人間だ。
そんな町は大概地下の空気が漂っている。
その習慣をそのまま持ち込むんだ。
だから、トラブルが続出する。
けれども、トリミダはまだ穏やかだとの報告であった。
それどころか、自分達で産業を興して町を発展させようと考えているとのことだ。
なので、今回の視察になったんだ。
ここの町長からの依頼で、農作物の栽培の許可のために、現地を見に行った。
普通ならば王が出向くこともないんだが、なぜか、陛下は行かれると仰った。
どうやら、側にある街の、木工細工の職人に用事があったらしい。
で、視察が順調に住み、晩餐に招待された陛下とポポロさんは席に着き、食事を楽しんだ。
ところが、だ。
召し上がったワインに眠り薬が入れられていたとの事だ。
陛下とポポロさんはそれぞれの部屋に連れられて、そして、だ。
事件が起こったんだ。
陛下は目覚めた時には女性が裸で上に乗っていたそうだ。
ポポロさんは、あ、とにかく、致してしまったそうだよ。
恐ろしい。
下手に泊まりで視察になど行けないなぁ。
これからの視察には軍隊と毒味役と給仕が付いていくことになってしまうだろう。
余分な費用の発生だ、まったくあいつ等のせいだ。
トリミダには何か処分が必要だな。
余分な費用が発生するんだ、税を取らないと。
あ、これは後回しの事案だ。
それで、どうなったんだ?
「それで、トリミダでは処分無しに?」
「ああ、俺が誘ったと言い張ってな…」
「私が連れ込んだと言われまして…」
怖い。
怖すぎる。
私が行かなくて良かった、あ、いや、ポポロさん、すみません…。
「それでも、その場でトリミダから脱出したんだ。なぁ、ポポロ?」
「さようでございます!あいつ等から逃げるのが、どれだけ大変だったか…」
「下手に少ない人数で行ったのも拙かったな、あれは」
「あれは、って…」
話によると、次々に女性が襲ってきたそうだ。
男ならば強固な手段にも出られるのに、よりによって女達が引き止めにきたんだそうだ。
恐怖だな。
そう、男ならば、問答無用で処罰してくるんだけれど、こちらの人数が5名しかいなかったこともあって、ワザと女をけし掛けて来たに違いない。
陛下もポポロさんもウンザリした様子だ。
いつもの陛下ならば、その場で処分を決めてくるのだが、今回は歯切れが悪い。
あれだな、フィーを裏切ったっていう罪悪感が、判断を狂わせたんだろう、きっと。
そういう事にしておこう。
そこは突っ込んではいけない部分だ。
「アンリ殿。この件はカナコ様に内緒で進めたいのです」
そうポポロさんが言う。
「それは、…、妹に知れると拙いことが起こりますか?」
「はい、カナコ様も騙さないと、あいつ等を嵌めることなど出来ませんから」
「やはり、嵌めるのですか?」
陛下が重い声でお決めになる。
「当然だ。俺を嵌めたんだ、このままにしない」
じゃ、決まりだな。
しかし、フィーに内緒にしたままで罠を仕掛けるなんて…。
後でバレたら怖いことになる気がしてならない。
しかしだ、それでもやるんだ。
それほどまでに、陛下の怒りは最大になっているんだ…。
陛下の無言が怖い。
たしかに、そうだよな。
やはりトリミダには何か制裁が必要だ。
あそこの長を替えるだけでは駄目かもしれない。
あ、これも別の機会に考えればいい。
しかし、私まで巻き込まないで欲しいよ、まったく。
「しかし、なぜ、その女がカナコ様の侍女に?」
「それは、俺もポポロも知らなかったんだ、なぁ、そうだろ?」
「ええ、まったく知りませんでしたよ!知ってたら書類を突っ返してましたよ!」
うん、本当だろう。
あの悔しがりは、心底腹を立てているんだな。
とにかく、奴等を処罰するために泳がせることは決まっているみたいだ。
「罰するには罪が必要だからな…」
最近のルミナスは、変わりつつある。
無条件での王家に対する尊敬は地上の人間は持っているが、地下から来た人間は少し違う。
王のする事でも、自分たちが納得しない場合には、城に向って声を上げるんだ。
悪いことではないよ。
けど、変わりつつあるんだ。
「そうですね、必要です。陛下、必ず罰しますから」
ポポロさんと陛下の決意の固さは、良くわかった。
行かなくて良かった…。
「その女を利用する訳ですね?」
「ええ。取り敢えずは黒幕とその意図を探りたいです」
「どうやって喋らせます?」
「私は賄賂に弱い人間だと、噂を流します。賄賂さえ貰えれば陛下に会うことも可能だってね」
ポポロさんは、使えるものは身内でも使う人だった。
「それでも、やり過ぎではないですか?そんな噂を流すなんて」
「あの女を誘うために、ですよ。大したことではありません」
「そうですが…」
「奴等が持って来る物は、全部、国に収めればいいのです」
らしいな。
何でもかんでも、ルミナスの物にしてしまうところ。
さすが左大臣だ。
「その噂に縋りつきたくなるように、王と王妃の不仲も広まります」
「それは…、いいのですか、陛下?」
「良くはない、だが、あいつ等を罰せねばならないんだ」
苦虫を噛み潰したようなお顔だ。
この事件が解決した後には、もっと凄い修羅場が起こるんだろうな…。
整理すると、ポポロさんが賄賂を受け取る人だと知って、安心したあいつ等は早速にポポロさんに接触する予定、と。
当然、私の所にはフィーが来るだろうが、シラを切るんだな…。
ごめんよ、エリフィーヌ。




