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子供たちは別室へ集められた。
今頃保育園状態だろうな。
お爺様は曾孫たちの部屋から出てこない。
小さい子供の相手をしても疲れないって、パワフル過ぎる。
大人たちは、居間で互いに挨拶をし、言葉を交わしている。
「父は、すっかり年を取ってしまって。アンリとグレイスには迷惑を掛けているんですのよ」
「お義母様、大丈夫ですわ。ご心配なさらずにいて下さい」
「いいえ、たまに会う私達ですら、辛い時があるんですもの。グレイスはもっと辛いでしょう?」
グレイス義姉様はお母様の手を取ったんだ。
「お義母様、お爺様の我が侭など、可愛いものです。気にも留めておりません。だから、どうか、安心して下さいね?」
アンリ兄様が義姉様の隣に立った。
「母上、グレイスにとって、あの位はたいした事ではないそうです。信じて下さい」
うーん、そうなのかな?
グレイス義姉様は我慢することに掛けては耐性がありすぎるんだよ。
本当にそれでいいんだろうか?
「けど、アンリ兄様。グレイス義姉様だけが我慢するのって、変よ?」
「そうよ、たまには私達の家にも連れていらしてね?」
とマリ姉ちゃんが助け舟。
そうだ、そうだ。
みんなでお爺様を見守ればいいんだよ。
「それが、いいよ。城にも来ればいいんだよ。ね、デュークさん?いいでしょう?」
「いい。いつでも連れて来ればいいんだ」
お爺様が苦手なデュークさんだけど、即答してくれる。
苦手だけどお爺様が好きなんだ。
「ありがとう!」
そこに、だ。
現れたんだよ。
「噂に聞いてたけど、陛下はフィーに甘いのね?」
久し振りのサー姉様だ。
「サー姉様、来て!」
私はサー姉様の側に行って手を取った。
「こっち!」
「え?」
デュークさんの前に引っ張り出して言うんだ。
「デュークさん、私の自慢のサーシャ姉様だよ?」
「知ってるぞ?」
「知っててもいいの!ちゃんと紹介したかったの」
「もう、フィーったら!」
そう言ってるサー姉様は嬉しそうだ。
深々とデュークさんに臣下の礼を取ると、こう言った。
「陛下、私の愚かな行いに対して、寛大なご処置を頂き、感謝しております。すでに、ハイヒットを出、ルミナスからも去っておりますが、私の忠誠は陛下の下にございます」
「サーシャ、今の立場がどうであれ、お前がエリフィーヌの姉であることには変わらない。お前が望む時に城へ来て会うが良い。いいな?」
「ありがとうございます」
良かった。
凄く安心できたよ。
「では、私も紹介致します、ダグラル、来て!」
そう呼ばれてやってきたのは、黒人の男の人だった。
デュークさんよりもガタイがデカイんだ。
私は、この世界にも黒人がいるんだって、感心して見てた。
「私のパートナー、ダグラル・ダビットソンと申します」
「陛下、お目にかかれて光栄です」
姉様の隣で一緒に礼を取っているダグラルさん。
窮屈そうだ。
「ダグラルか?ダグラルの知識のお陰で先日の災難が無事に解決したと聞いている。すまない」
「いえ、サーシャの祖国の為ならば、この力惜しみません」
なんか、凄い惚気を聞かされている…。
「ダグラルさん、もう、これで身内だわ。楽にして?サー姉様も」
「そうだ、腰掛けて、ゆっくり話を聞かせてくれ」
「陛下のお望みであれば、」
そう言って、ソファに腰掛けて話が続いた。
「大陸というのは、1つなのか?」
「いいえ、違います。大きくは3つに分かれているようです」
「はっきりとしないのか?」
「はい、私どもの大陸も長い航海に耐えられる船を持っていないため、調査が進んでおりません」
「そうか…。先日の黒髪の男は?」
「ヤッポネですね。あそこは政変が起き易い国です。民の気性が荒いせいでしょう。故にあのような馬鹿げた事を考えます」
「ヤッポネはお前達の大陸とはどう関係なのだ?」
「付かず離れず、ですね。戦争状態ではありませんが、積極的には関わっておりません」
デュークさんは自分より大きいダグラルさんを前にしても、まったく動じない。
そのモノ珍しい話に身を乗り出してしまっている。
「陛下、私も同席しても?」
「ああ、アンリ」
アンリ兄様が参加した時点で、私とサー姉様は場を離れた。
だって、もっと違う話をしないとね。
「ねぇ、ダグラルさんって、暑いところから来たの?」
「そうよ、どうして?」
「うん?ほら、日本のある世界にもダグラルさんみたいな人種の人がいたの。時々街で会ったりしたけど、大概暑い国の人だったから」
「そうなの?ダグラルの故郷も暑くてね、雨が降らない時期が長いみたいよ」
「乾期と雨期があるんだね、きっと」
「らしいわ」
私は姉様を突いた。
「でで、何処で知り合ったの?」
「ガナッシュよ。海で遭難して、流れ着いてね。たまたま、私が通っていた病院で入院してて、それで」
「へー、で、何処がいいの?ダグラルさんの?」
「フィー、貴女、なに根掘り葉掘り聞いてるの?」
そこにマリ姉ちゃんが参戦する。
「姉妹で恋バナなんて、そんな楽しいこと、私も混ぜなさいよ?」
「いいよ、いいよ!」
「もう、2人して、からかうんだから!」
私とマリ姉ちゃんが組むと強いぞ?
サー姉様、諦めて下さいね?
「マリ姉ちゃんは聞いたの?」
「なにを?」
「サー姉様はダグラルさんの何処がいいのか?って?」
「聞いたわよ」
その自慢げな顔…、悔しいけど、仕方ない。
「フィー、聞きたい?」
「当然じゃん、聞かせてよ?」
「サー姉様ね、自分より大きな男の人が良いんだって」
「そうなんだ…、サー姉様、なんで?」
そこにいた恋する乙女が、顔を赤くして話し出すんだ。
「もう、だって、安心できるじゃない?だって、ね、抱かれるとスッポリ中に納まるんだもの」
凄い惚気だよ…。
「あら、ご馳走様ですこと!」
「うんうん」
サー姉様の顔が益々赤くなる。
「もう、何言わせるのよ!」
「だって、それが恋バナだよ!楽しいじゃんか!」
「そうそう、サー姉様。今日の餌食はお姉様だからね?」
私達、ハイヒットの3姉妹は久し振りに話をした。
真っ赤になって話すサー姉様は可愛かった。
食事が始まり、ジャック兄ちゃんとマサが加わる。
お爺様は淡々と認めたんだって。
本当に凄い人だな。
だけど、ね。
お母様が、独りで暴れている気がする。
黒人の人なんて、このルミナスでは見たこともないし。
息子の恋人だって、中年の男性なんだもんね…。
けど、ああやって、デュークさんや兄様と対等に話してる姿を見て、少しは考えを変えるかもしれない。
賑やかな食事会は予定の時刻を過ぎても終らなかった。
私達家族は夜遅くに宮殿に戻ったんだ。
デュークさんが寝ている娘達を部屋に運ぶ。
その役は誰にも譲らないんだよ。
だから、どんなに時間が掛かっても、私は馬車の中で大人しく待っているんだ。
そして、最後に私の手を引いて、気遣ってくれるんだ。
「カナコ、楽しかったな?」って最高の笑顔と一緒にね。




