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「あのね、お婆様?」
「なあに?」
セーラはお姉様らしくお淑やかにしてる。
珍しい。
どんな魂胆があるんだろうか?
一体、何を暴露しようとしてるのか?
捻くれた母親だな、娘の行動にそこまで警戒するなんてね。
「お母様のおなかの中にね、赤ちゃんがいるの」
「そうなの?」
「でね、動くのよ?」
「まぁ、凄いわね?」
「うん、でね、お父様はね、毎日、お仕事に行く前にね、おなかの赤ちゃんに向ってね、いい子にするんだぞ、っていうの」
おいおい、そんなに観察してるのか?
デュークさん、娘達の観察眼は鋭いぞ?
「そうなのね?」
「うん、お父様ね、お母様が大好きだから、赤ちゃんに、いい子にしろっていうのよ?」
「え?」
思わず、声が出たよ…。
私の捻くれた考えがあたったのか?
「どうして、そう思うの?」
「だって、赤ちゃんがあばれたら、お母様、痛いでしょ?」
「そうね」
「だから!そういうの!」
なんだぁ、一瞬あせったよ。
夜の方のことでも言い出すのかと思ったぜ。
子供は目が離せないなぁ。
セーラがお婆様、いや、お母様と話してるのは、城に来ているからだ。
私の体調の確認と、みんなで集まる日のことを決めるため。
これ以上いたら、こちらの体が持たないわ。
「さぁ、セーラ、アリス。アリエッタと遊んできてね?」
「はーい!」
「アリエッタ、本読んでくれる?」
「はい、姫様。ヴィクトリア様から戴いたご本をお読みしましょう」
娘達が部屋へ行くと、急に音がなくなるように感じる。
「静かになったわ」
「そうね」
「小さかったフィーが、すっかりお母様だわ」
「うん、そう?だけど、お母様にも、だいぶ心配を掛けたわ」
「そうね。けれどもね、フィーのは嬉しい心配だから、いいのよ」
そう言って、ため息をついたんだ。
「何かあったの?」
「いいえ、なんでもないのよ」
なにかあったんだ。
「そう、なら、良いんだけど。あ、そう言えばサー姉様の海の地図、陛下も国で買いたいって仰ってたのよ」
「そうでしょうね、これだけ魔物も落ち着いてくれば、外に目がいくから…」
「本当だよね。サー姉様も、そのパートナーって人も、よく思いついたね?」
また、ため息だ。
私の話なんか聞いてない。
「ねぇ、お母様、言ってよ?何を悩んでるの?」
無言だ。
意外にガードが固い。
「私には言えないの?」
諦めたように、口を動かす。
「ねぇ、食品研究所のマサって方、フィーも陛下も知ってて雇ったの?」
「知ってて?何を?」
「その、なんていうの、男の方しか愛さないって人…」
「ゲイ?」
「そう、そのゲイだって事」
「うん、知ってるよ。だって、ゲイだから陛下がお許しになったんだもの」
「そうなの?」
「私がマサと2人きりになっても、安心できるでしょ?」
「そうね…」
それが、どうかしたのか?
お母様は、はぁ、と、またため息だ。
「どうせ、ジャックが言うんだろうけど…、あのね、マサさんとジャックがね、お付き合いしてるのよ」
目の前が、歪むかと思った。
「な、なんて…?」
「マサさんとジャックよ」
「え?兄ちゃん、ゲイなの?」
「そうなのよ。学院を辞めた理由の一つは、それもあったそうよ。私も最近知らされたの」
「えええええ!」
じゃ、なにか?
妹の私は、兄を、わざわざ、マサに配達したのか?
「ちょっと…、え???」
心の整理が出来ていない。
周りの人間がそういう人間でも構わないけど、身内がそうとなると、話は別になってしまう。
弱い人間だよ。
「そのね、ジャックが、その、ゲイなんじゃないかってね、マリーが言い出したのよ」
「そ、そうなんだ」
「一度、街で2人を見かけたんですって。やっぱり、男2人が買物をするなんて、ね…。変よね?」
「まぁね、そうだよね…」
「で、ね、マリーがね、皆がいる時に、いえ、大人だけよ、いる時に聞いたのよ」
「マリ姉ちゃん、ジャック兄ちゃんに聞いたんだ…」
「そうよ、聞いたのよ。そしたら、ジャックったら、『そうだけど、』って平然としてて…」
おいおいおい!
そんなカミングアウトの仕方は、どうなんだよ?
「こっちの方が、アタフタして、もう、馬鹿みたいだったの…」
お母様のため息が深い訳だ。
ジャック兄ちゃん、あんたは、もう…。
「けど、先日、研究所に行った時は、普通に同僚だったわよ?」
「それは、仕事を失いたくないからよ。貴女に知れたら仕事辞めさせられるかなって、ジャックが心配してるの」
無職が怖いのか?
まぁ、そうだろうなぁ。
「え?あ…、そうね、陛下にお聞きしてから判断するわね、きっと」
「お給料、良いんだって?」
「もちろんよ。ジャック兄ちゃんのセンスを買ってるんだから。当然よ」
「そう、なのね」
お母様、子育てで苦労してるなぁ。
私もきっとそうなるんだろうね…、って、私はあと10年程しか生きられないんだ。
その後、一体、どうなるのかな…。
いやいや、それよりも、私もこんな苦労をするんだろうか?
「フィー?」
「え?」
「どうしたの?顔が暗いわよ?」
「ううん、なんでもないよ」
そうそう、目先の問題はジャック兄ちゃんだよ。
「陛下には言うわよね?」
「うん、言わないといけないと思うよ」
「そうよね…」
「ねぇ、まさかサー姉様のパートナーの方って女性ってこと無いわよね?」
「もちろん、男性よ。だけどね、大陸の方なの…」
「あ、そう…」
そっちも問題かもね。
この間の事件もあったばかりだしね。
「この事も、陛下には言うわね?」
「仕方ないわよね…」
そう言ってため息をつくお母様。
でも、頑張って育ててくれたよ?
5人もいるんだ。
変なの、いや、変わったのも出てくるって。
「ねぇ、お母様?」
「なに?」
「お父様とお母様は、立派に子供を育てたわよ?けれど、人数が多いから、いろんな子供がいるだけ。そうでしょ?」
「フィー…」
「それに、みんな独立したんだもの。思った方向じゃなくても、それぞれに生活してるわ」
「そうね」
「それで、充分じゃない?これからはお父様と2人で旅行でもして、笑って過ごして?」
お母様の目には涙が浮かんだんだ。
苦労しっぱなしだなぁ。
それに、多分、私が先に死ぬんだろうから、親不孝するよね…。
「嫌なことがあったら、城に来て泊まればいいわ。セーラもアリスも楽しみにしてるから。それに、生まれてくる子もよ?」
「ありがとう、フィー」
「起こった事は変わらない。だったら、楽しんで許してあげて?きっと、サー姉様もジャック兄様も、自分の力で生きていくから」
「ええ、そうするわ」
「うん」
私はお母様の肩に手をかけた。
あれ、どうしてだろう?
少し小さく感じたんだ。
記憶の中にあった、そう、この手が覚えている、お母様なのに。
私は早速、デュークさんに報告した。
「まぁ、そうだな…」
と言葉を濁してしまったけれど、ジャック兄ちゃんは研究所にいて良い事になった。
サー姉様のパートナーの件は、知らなかった事にするそうだ。
「どうして?」
「海の地図は国としても欲しいからな。その為には多少の事は見なかったことにする」
「そう、けど、ありがとう」
「気にするな」
気になるよ。
気にするよ。
けどね、…、そうか、親孝行、しないといけないなぁ。
脱字発見。訂正しました…、なんか、反省です。




