153 あなざーさいど28
ポポロ
なんだか、です。
毎回毎回、参ったって言ってるような気がしますが、今回も参りました。
陛下と共にバンビー地方に出掛けた際に、こともあろうか、ルミナス城目掛けて魔物が現れるなんて…。
しかも、です。
城の中に不審者が入り込み、姫様達やカナコ様まで危ない目にあったとは。
最初に話が来た時の、陛下のご様子は、物凄いものでした。
話は遡ります。
城からバンビーまでは3日は掛かります。
やはり辺鄙な場所にありますね。
到着した時。
バンビーは悲しみにくれるというよりも、ざわついていました。
まだ犯人がわかってない状態でしたし、亡きリチャード様のお子様が1人残っていましたから、その警備が慌しく行われておりました。
その姫は、母親と少しの侍従とで、与えられた屋敷に閉じこもっておいででした。
正しい判断だと思います。
カツジ様とデイファ様の葬儀は、陛下がお着きなられた翌日に行われました。
2人共に別の母親がいらっしゃるのですが、大変は悲しみようでしたね。
取り敢えず、陛下がこれまで通りここで生活することをお許しになり、少しは安堵されたようです。
ただ、犯人がわからずのままです。
「何ですと?もう一度お願い致します」
町の責任者が意外な人物の名を述べます。
「ガナッシュからの姫が、もう1人のリチャード殿の娘ですが、共を連れて、ここに滞在なされてますのをご存知で?」
その件についてはアンリ殿から報告が来ておりました。
が。
「ドリエールの娘か?」
「はい、異母兄弟にお会いしたいとのことで、しばらくこちらに滞在すると」
「あれも母を亡くしたから、寂しくなったのか?」
陛下の声は、不機嫌でした。
あの親子のことを話される陛下は、常に不機嫌です。
「そうなのかも、しれませんが…。これは私の意見ですが、あの娘が怪しいのではないかと思います」
なんと歯切れの悪い回答でしょうか。
「うん?どういうことだ?」
「あの姫は余り感情の起伏がございませんでした。ご兄弟にお会いになった時の様子も、わざわざ会いに来たにしては、そっけない、そんな感じがいたしました」
「そっけない?」
「ええ。それに、連れの方々も、…」
「連れか?」
「この辺りでは見かけない、黒髪で。どうやら大陸を追われた人間のようにみえました」
ドリエール殿の娘に、大陸からの連れ。
ありえない組み合わせに、嫌な予感が漂います。
「その大陸からの男の様子は?」
「3人の男なのですが、その…」
「あまり素行がよさそうでないのですね?」
「まぁ、なんと言いましょうか、嫌に丁寧なのですが、後味が悪いといいますか…」
なんとなく伝わるな。
気味が悪いって奴だろう。
「後、病人のような男が2人いまして…」
「病人?」
「ガリガリに痩せて、目が血走って、言葉もあまりない感じで」
「とにかく、不審なんだな?」
「はい」
陛下が考え込まれることもない程に、怪しいです。
「ポポロ、直ぐにつれて来い」
「は!」
私は、部下にその責任者と共に、奴らの宿へ行くように指示を出しました。
ところが、です。
「誰も居なかった?」
「はい、慌てて逃げた様子でした」
「どうして、そう判断しました?」
「人の気配が残っておりました」
なんだろう、わかりやす過ぎるんです。
この幼稚な行動には、返って不気味さが増します。
「怪しいな?」
「もの凄く、ですね」
そして、部下が報告を続ける。
「あと、死体が」
「死体?」
「はい、それも、殺されたばかりのようでした」
「一体、誰でしょうかね?」
「一応リチャードに係わり合いがあるかもしれないので、確認させております」
「頼んだぞ」
私達は色々と調べに入ります。
陛下は残された家族と、これからについてお話をされました。
日は過ぎて行きます。
私達は報告を待ちながら、時を過ごすしかありませんでした。
部下の報告が届いた時、その不思議さに私は戸惑いながら陛下にお伝えしたのです。
「一通りの調べからの推察ですが、」
「報告してくれ」
「まずですね、殺されていたのは、モンクというリチャードの元配下のものでした」
「モンク?聞いた名だな?…そうか、確か、ハイヒットの長女が関わった時の?」
そうなのだ、あの事件が甦る。
「はい、そのモンクと、おそらく彼の配下でしょう。ガリガリに痩せておりまして、人相も変わっておりましたが、間違いありません」
「そうか。しかしだ、そいつらが、なぜ殺されていたのだ?」
「殺したのは逃げた者達で間違いないですが、まったく理由がわかりません」
私と陛下の間には、不可解な空気が流れる。
「で、結論は?」
「全ては、ドリエール殿の娘である姫と、その配下の仕業かと」
「動機がわからないな…」
まったく判らないことだらけです。
「また、その娘の行き先が、掴めてません」
「ガナッシュに戻っていないのか?」
「港へは不審な人物が居ないかどうかを、調べさせてます。が、これと言って情報が出てきません」
「そうか…」
「これ以上はこちらにいても、無駄かと」
「そうだな…。ここの家族とは話が付いたし、あとは残す部隊に任せるしかないか?」
「そうですね、犯人がガナッシュの人間となれば、民の感情もそちらへ向くでしょうから」
そうして、色々と事後の処理が行われてまいります。
バンビー地方は絹の生産が有名です。
辺鄙な田舎ですが、この産業だけでなんとか生活が出来てます。
リチャード殿の家族は意外に謙虚な方々でした。
もしかしたら、陛下の恐ろしさをご存知で、ここで生きていくとお決めになったのかも知れませんがね。
彼等は、ここの土地の絹を使って産業を興そうとされてました。
それは、デイファ様が中心となって始まったことでした。
その中でもショールは光沢が美しく、発色も綺麗なものでしたので、陛下が迷わずご購入になった程です。
「この地は、これから発展するだろう」
と、残された唯一の姫、アンジェリカ様を当主として新しく家を興されることを認められました。
もちろん、カツジ様デイファ様の母君にも手厚い保護をお約束なさいました。
これで、遺恨は薄くなればいいのですがね。
人の気持ちは量りきれないですから、注意は怠らないことです。
自衛団の設置を命令されたのも、そのあたりのことを考えてのことでしょう。
ようやく目処がたったのです。
しかしながら、陛下が安堵したのもつかの間の出来事でした。
バンビーの陛下の宿泊所には当然のように電話があります。
頑張って用意しましたよ。
地下のケーブル網を使って、なんとか間に合わせました。
電話を引いておいて良かったです。
その電話は陛下がルミナス城を発ってから10日目のことでした。
電話の主はアンリ殿です。
「なんだと!!」
その大声は、側に居たものが全員凍りつく程のものでした。
「魔物が、だと!」
陛下の周りの空気が、とんでもないものに変化していきます。
とても、近くに居たくない気です。
「判った。とにかく、カナコは行かせるな、いいな!」
恐る恐る、伺います。
「陛下、いったい?」
「魔物が城に向っているそうだ」
「城に?そんな…」
「魔法を使える者が総出で食い止めるそうだ」
「大丈夫でしょうか?」
陛下は窓の外を、ルミナスの方向の空を見上げていいます。
「多分、カナコが出るだろう…」
「しかし、妃殿下は!」
「止めても、あいつは出て行く。そういう女だ」
しかし、カナコ様はご懐妊中。
しかも初期で体調は不安定です。
もしものことがあれば、ルミナスにとって、とんでもない不幸です。
「直ぐに戻ろう。夜通し掛けるぞ」
「は、直ぐに用意いたします!」
3日は掛かる場所。
夜通し掛けても、1日では無理です。
けれども、戻らなくてはなりません。
私は、陛下に挨拶をすると、慌てて部屋をでました。
急がなければ!




