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そうだった。

私は男ぐらい投げ飛ばせたんだ。

姉様に言われて、私は昔を思い出して、投げ飛ばそうとしたら…。


「お任せを!」


隊長の部下が男を後ろから羽交い絞めにして、そのまま掴みあげて地面に落とした。



ゥガァ!

 


男が転がった。

少女を捕らえたままのサー姉様が、転がった男に痺れを当てる。

動かなくなった、これで大人しくなるよ。


そうか、サー姉様にはこの部下の動きが見えていたんだな。

だからあんなトンでもない事を言って、気を引いたんだ。

凄い、姉様。


けど、良かったよ、これでも妊婦なんだ。

物事は穏便に済ませたい…。



隊長に殴られて大人しくなった男。

サー姉様に捕らえられ腕を捻り上げられてる少女。

隊長の部下に投げ飛ばされて、痺れを当てられた男。


犯人はこの3人だけ?

なんか腑に落ちない。


「た、たのむ、」


隊長が取り押さえていた男が、ううん、良く見るとまだ幼い感じがする、まだ少年なんだ。

その少年が必死に許しを請うんだ。


「カリーナは、何もわかってないんだ。許してやって…」

「ケイン、駄目、一緒でしょ?」

「カリーナ…」


この少年は、よっぽど、この少女が大切なんだろう。

心配そうに少女を眺めている。

うん、心配で堪らないんだね、この娘の事が。


隊長の部下達が3人を縛り上げて、私達に危害が加わらないところまで移動させた。

彼等は地面に頭を擦り付けている。




その間に、私は娘達の元に走り寄るんだ。


「亀さんは終わりよ」


娘達の幕が開く。


「お、おかあさま!」

「あーーん!」

「もう、大丈夫よ。頑張ったわね?えらいわよ?」

「うん!」

「あーーん!」


娘達はしがみついて来た。

強い力で私に、しがみ付いて来た。

怖かっただろうに、頑張ったね。



無事で良かった。

本当に良かった。




落ち着いた頃、私は顔を上げてサー姉様を見上げた。


「サー姉様!ありがとう!」


ちょっと照れた笑い顔。

日に焼けた姿。

健康そうに見えた。

安心できる。


「フィー…」

「お帰り!お帰りなさい!」

「うん」


こっちも良かった。

サー姉様が手を貸してくれたので、私も立ち上がった。

いそいで娘達を紹介する。


「姉様、セーラとアリスよ」

「姫様達は大きくなったのね?」

「うん。いい子達なんだ。セーラ、アリス、お母様のお姉様よ。ご挨拶は?」

「はしめまして、セーラです」

「アリスです」

「はじめまして、サーシャです」


なんか、どこか似てるのは血が繋がっているからだろうね。


「カナコ様」


ノンビリともしてられないみたいだ。

隊長が私達を急かす。


「あとの事はこちらで。早く、お部屋の方へ」

「そうね、サー姉様も一緒に」

「ううん、私はここで処理をするから」

「嫌よ!一緒に来て!」

「フィー、あなた…」


隊長が言ってくれる。


「サーシャ殿、カナコ様の仰る通りになさいまし」

「…、けど、いいんでしょうか?」

「妃殿下が、そう望まれているのですよ?」


姉様が私を見た。

ニッコリと笑った。


「わかりました、では、ご一緒に中へ」

「良かった。では、隊長、後のことを願いね」


侵入者達を隊長に任せて、私は娘達と手を繋ぎ、部屋へ戻ろうとした。





ところが、まだ続いていたんだ。




セーラが叫んだ。


「おかあさま、そら!」

「え?」


なんてことだ!

遠くのほうに、空を埋め尽くすほどの魔物がいるんだよ!

まだ遠くだ、けど、見えるんだ。

青い空の向こうは、真っ黒なんだよ!


隊長が指示を出す声が響く。


「直ぐに幕を張れ!1隊、皆様をお部屋へ、2隊、お屋敷を守れ、3隊は罪人達を牢へ、以降は軍と合流して指示を仰げ!」

「「「「「「は!」」」」」


慌しく人が動く、隊長が叫ぶ。


「カナコ様、早くお部屋へ!」


その時だ。

あの少女が、大声を出したんだ。


「魔物が来たわ!」

「え?」

「みんな、死ぬの!みんなで死んだら、寂しくないわ、ね?」

「魔物って、あなた達が仕掛けたの?」

「ワンが言ったの、ルミナスを乗っ取るには1番いい方法だって!」

「ワン?」


サー姉様は、最後に現れた男の痺れを解いた。


「貴方、名前は?」

「ワン」

「その髪、大陸の人間ね?」

「そうだよ…」

「もしかして、ヤッポネのワン、貴方がそうなのね?」

「何故知ってる?」

「どうだっていいわ、そう、貴方が…」

「お前、誰だ…」


けれども、会話はそこで終る。

男は隊長の部下によって押さえつけられた。

サー姉様はワンと呼ばれた男に、もう一度聞いた。


「魔物を仕込んだの?」

「そうだよ、ここを襲うようにな」

「どうして、そのやり方を知ってるの?」

「聞いたんだよ、そんな事をした事がある奴に」

「その男って、まさか、モンク?」

「そうさ、」


ええええ!

モンクって、あいつじゃん。

サー姉様を地獄に落とした奴じゃん!


「そいつは?」

「死んだ」

「アナタが殺したの?」

「まぁな…」

「そう…、ヤッポネの人間らしいやり方ね」


姉様はそう言ったきり黙りこんだ。

そこへ、アンリ兄様が駆けつける。


「フィー!怪我はないか?」

「うん、」


子供達は私の手を強く握ったままだ。


「姫様、大丈夫ですか?」

「うん、アンリ伯父様。ね、アリス?」

「だいじょうぶ」

「良かった…」


アンリ兄様はサー姉様を見た。


「姉様、助かりました」

「いいのよ、話は後ね」

「そうですね」

「なら行くわ」

「ええ、お願いします。私も行きますので…」


魔物征伐へ出かけるんだ。

それなら、ば。


「私も征伐へ出ます」


私も、だ。

私も出る。


「駄目だ!」

「行くから!」


しゃがみ込んで、娘達に視線を合わせて、優しく言う。


「セーラ、アリス。お母様は魔物の退治に行って来るわ」

「おかあさま、いくの?」

「ええ、でも、大丈夫。必ず帰ってくるから」

「ほんと?」

「ええ、約束よ。だから、部屋で大人しくしていて?」

「うん、」

「なら、いい」


よし。


「アリエッタ、エイミィ、ここをお願いね」

「しかし、」

「そうです、カナコ様が行かれるなど…」

「お体が、」

「直ぐに戻るから、心配しないの」


アンリ兄様が怒鳴る。


「フィー、我が侭が過ぎる!おまえを守るために、皆が頑張っているんだ!」


そんなこと、分かってる。

けど、ね。

私はルミナスの王妃だ。

デュークさんの居ない時に、先頭に立たないで、どうするの?


「私は王妃なのよ!それに、ルミナスで1番魔量を持ってる私が出ないで、あの魔物達から、誰がルミナスを守るの?」

「おまえがいなくても、大丈夫だ!」

「駄目!被害を少なくしたいのよ。戦っている皆の家族のためにも、早く終らせたいのよ!」

「確かにおまえは王妃だ。だが、懐妊中なんだ、考え直せ!」


ところが、サー姉様がアンリ兄様を止めた。


「アンリ、王妃様に対して失礼よ。妃殿下がルミナスを守ると宣言されたのだから、私達は妃殿下をお守りするだけ。そうでしょ?」

「しかし、姉様…」


サー姉様は私の前で跪いて、こう言った。


「妃殿下、参りましょう。このサーシャ、必ずお守り致します」

「姉様、いえ、サーシャ、お願いするわね?」

「はい」


良く考えたら、ガウンを羽織ってドレスのままだよ。

魔物征伐には変な格好だけど、そんなこと気にしてる時間はないんだ。


歩きながら、私はお腹に手を当てて、子供にお願いした。






ごめんね、さっきから色々あったね。

お母様はもう少々暴れるけど、心配要らないからね?

落っこちないように、しがみ付いていてね?

その代わりに、ちゃんと魔物の征伐を終えるから。


だから、あなたも頑張ってね。


産まれておいで。

皆が待っているからね。






それだけを祈って、私は城を出た。






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