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直ぐに、ハイヒットの家に連絡をして、早々に家に向った。

久々のお出かけに娘達も、はしゃいでいる。


「おかあさま、おじいさまとおばあさま、いるの?」

「ええ、ハイヒットの家で待ってらっしゃるわ」

「ねえ、デビットもケイトもいる?」

「いるわよ」


マリ姉ちゃんのところの子供は2人。

デビットは3歳、ケイトは1歳だ。

セーラはすっかりお姉様気取りでたまに会う2人の従兄弟と会うのを楽しみにしている。

セーラとアリスの髪もだいぶ伸びたな。

アリスはちょっと長いオカッパ頭。

セーラは二つに分けて結んでいる。

毎日のリボン選びが大仕事だと、アリエッタがこぼしてる。




馬車がついた。


「ついた!」


アリスがはじけるように馬車から出ようとする。

まったく、危ないんだから。


「アリス、そんなに慌てては駄目よ?素敵な女の子はゆっくりと馬車から降りるのよ、わかる?」

「はーい」


そんなアリスの手を繋いで、セーラとアリスは2人でゆっくりと降りる。

けれど、お母様の姿を見つけると…。


「おばあさま!」

「わーい!」


ああ、結局走って行ったよ。

ルミナスの姫は、これでいいのか?

まぁ、走り回っていた私が王妃なんだから、いいんだろう…な。


「セーラ!アリス!」

「良く来たな!」


あれ、お父様いたの?

おいおい、セーラ、アリス。

ちゃんとお爺様も呼んであげてよ。打たれ弱いんだからね。

ってか、私の迎えは誰もいないの?寂しいなぁ…。

あ、マリ姉ちゃん。


「元気そうね?」

「マリ姉ちゃん!」


マリ姉ちゃんはケイトを抱っこして、迎えてくれた。


「ケイト、いい子にしてる?」

「はーい!」

「そう、いい子ね?」


可愛いなぁ。

マリ姉ちゃんにそっくりだ。


「ジャック兄ちゃんは?」

「いるわよ。陛下から直々に家にいろって連絡受けたんだもの。出かけられないわよ」

「あ、…、そんなことしてたんだ?」

「あら、聞いてないの?」

「うん」


デュークさんたら、もう!


「陛下はフィーには甘いからね」

「カルロス義兄様だって、マリ姉ちゃんには甘いよ?」

「当たり前でしょ?」

「…」


なんか悔しい。


「さぁ、とにかく、ジャック兄様と話してきて」

「わかった」



そうか、そんな事があったんだ。

私には我が儘で五月蝿い王様が後ろにいるからな。

ジャック兄ちゃん、ゴメンよ。



ジャック兄ちゃんは居間にいた。


「よう、フィー」

「お兄ちゃん、なんか、色々とゴメン」


私はお兄ちゃんの横に腰掛けた。


「なんで、おまえが謝るんだ?」

「だって、デュークさんから電話が行ってたんでしょ?」

「まぁ、な。けど、その電話は、こっちから掛けたんだよ」

「え?」

「仕方ないよ。陛下には色々と目を掛けて戴いてたんだから。それなのに自分から降りるって決めたんだし。それに、陛下に本音は言えないよ。フィーから伝えてもらった方がいい」

「お兄ちゃん…」


兄ちゃんは紅茶を入れてくれた。


「あ、美味しい」

「だろう?意外に上手なんだ。これでも鍛えられたんだから」

「鍛えられた?どこで?」

「学院に決まってるよ。あそこはな、こういう事に五月蝿いんだ。下の者が上の方の世話をする、そこからが始まりなんだ」

「えらく古臭いなぁ」

「仕方ないんだよ。権威が大切なんだから」


なんだか不思議。

私、学院の何を見てたんだろう?


「だって、ザックが院長してたのに?」

「あの方が規格外だったんだ。それに…」

「なに?」


兄ちゃんは、なんだか悲しそうに笑う。


「やっぱり、サー姉様の弟だからね、私は」

「あ、」


私まで悲しくなってきた。

忘れた頃に、サー姉様の名前が出てくるんだ。


「お兄ちゃん…」

「フィーは気にするな。学院でなければ大丈夫なんだから」


そうかも、ね。

あ、そう言えば、昔ザックが言ってたな。

魔法の癖の話。

あれが見えないと院長にはなれないって。


「ねぇ、ジャック兄ちゃん。お兄ちゃんは魔法の癖ってわかるの?」


プーっと紅茶を吐き出す、なんでだ?


「フィー、お前、何で知ってるんだ?」

「ザックが教えてくれたよ?」

「ザック先生が?」

「うん、私がカナコだって見破ったのも、私の張った幕の癖を見つけたからだって言ってた」

「そうか…」


ジャック兄ちゃんは紅茶を拭きながら話し出した。


「見えてるよ、もちろんな。けど、いいもんじゃない」

「そうなの?」

「ああ、見え過ぎるんだよ、私は。誰の魔法か、どんなことを思っているのか、そんな事まで見えてしまう。余計な特技だ」

「そうなんだ…、何時からなの?」

「そうだな、サー姉様の事件の後からかな。急にわかるようになったんだ」


急にか…。

なんか、ジャックもそんな様なこと、言ってた。

詳しくは忘れたけどね。


「私には不必要なものさ」


苦々しく吐き出すんだ。


「もしかして、学院にいると、嫌でも見えるんだ?」

「まぁな…」


そっか。

きっと辛いんだね。

いいじゃん、次に行ってみれば、ね。


「ジャック兄ちゃん、これからは、何するか決めた?」

「なんにも。学院以外を知らないからな、私は、意外に世間知らずなんだよ」

「じゃ、お母様から聞いてるでしょう?私の所に来て欲しいんだ」

「ああ、フィーの所だろう?」

「うん、ルミナス食品研究所。人手が足りないの」

「研究所かぁ、私が役に立つことがあるのか?」

「もちろんだよ。魔法で生産効率を上げたいんだけど、思いのほか難しくって」

「魔法と食品を繋いで考える人間が少ないからな」

「そうなのよ、なかなか人がいなくって。それでなくても、この仕事って胡散臭く思われてるでしょ?」


実際のところは、そうなんだ。

始まりが家畜の餌の大豆から始まったからね。

それでもだよ、大豆からの豆腐と味噌、醤油。米や海苔までは順調だった。


けど、ここへ来て、漬物で躓いている。


熟成中のあの臭いが駄目らしい。

建物中が臭いと、職員からも不満が上がっている。

私とマサは全然気にならないんだけどね…。

わからないところで、問題が起きる。


そこで、魔法の消臭効果を手探りで調べているんだけど、私にはセンスと時間がない。


「で、ジャック兄ちゃんなら適任なんだよ。妹を助けると思って短期間でもいいから、お願い!」


ジャック兄ちゃんは苦笑い。


「給料は良いんだろうな?」

「任せて。一応、名誉所長だし」

「わかったよ、来週からでいいか?」

「うん!助かる。マサに言っておくわ」


そういえばジャック兄ちゃんはマサとは初対面だったな。


「学院以外にも、場所はありそうだな…」

「あるよ。お兄ちゃんはルミナスで1番魔法のセンスがいいんだもの。そんな人材を放っておくなんて、勿体無いよ?」

「フィー、ありがとうな?」

「妹に頭下げないでよ」

「いや、王妃だからな、私の妹は」

「何言ってるの?これっぽっちもそう思ってないくせに?」

「思ってるよ。ちゃんと国の為に動いている。みんな見てるよ」

「もう、変!」


どうしたんだ、ジャック兄ちゃん。

生活が変わって感傷的になったのか?


「フィーは、今の立場が重くなる時はないのか?」

「そうだね…、なんて言ったらいいのかなぁ、」

「うん?」


一呼吸する。


「あのね、ルミナスの王はいつも民のことを考えているんだよ。みんな知らないだろうけど、自分の事は二の次なところがあるんだ。だから、孤独だったの。私はデュークさんを孤独にしたくない。毎日を分け合って、子供達と笑って、もう独りだなんて思わせてくないのよ。そんなことばかり考えているから、自分が王妃だなんて忘れてることが、多いんだ。呆れるでしょ?」

「いいや」

「そう?ただデュークさんと毎日が過ごせればそれでいいなんて、王妃の威厳もないでしょ?」


お兄ちゃんが笑った。

凄く愉快な顔をして、笑った。


「フィーは子供の時から変わってないなぁ」

「なに?そこ、笑うところ?」

「ごめん、ごめん。けど、私はフィーの兄である事を誇りに思うよ」

「もう!」


私たちは笑った。

結局のところ、ジャック兄ちゃんが学院を辞めた本当の理由ははっきりしなかった。

きっといろんな要因が重なっての結論なんだと思う。





けど、それで、いいよね。

次の道が楽しければ、それで。






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