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ジョゼに任命状を渡してから、1週間が過ぎた頃。
私たちの居間に、ザックとジョゼが挨拶に来たんだ。
「じゃ、来週から出かけるの?」
「はい、行き先は決めないで、まずは馬でノンビリと進もうかと」
ジョゼの言葉にザックが頷いてる。
「ジョゼと2人きりなんて、嬉しいんでしょう?」
「もちろんだよ」
「まぁ、ザックも惚気が上手だわ」
相変わらず仲が良いんだ。
デュークさんは用事があって遅れている。
言いにくそうにザックが切り出す。
「カナコ…」
実はあの事件以来、ザックと会うのは片手ほどしかなかった。
別に避けてた訳じゃない。
なんとなく、なんだ。
「私はね、サーシャにしたことを考えると、どうして良いかが判らないんだ」
「ザック?」
「ハイヒット家にも迷惑を掛けた」
「気にしないで?私達家族はそれぞれに乗り越えて行ってるわ」
「けど、サーシャの未来を奪ったんだ、私は」
ザックの苦悩はここまで深かったんだ。
ジョゼは黙って見ている。
そうだよね、頷くか見てるかないもの。
気持ちを吐き出している人を支えるにはそれしかない。
「ザック。誰かのせい、ではないのよ。きっと」
「どういう事だい?」
「サー姉様のした事は、許されないことだったわ。けどね、姉様は罪を償った。それで、いいんだと思うの」
「私は関係ないと?」
「だって、ジョゼとザックが仕事を辞めて旅に出るのは、サー姉様のせいではないでしょ?」
「もちろんだよ」
「それと同じよ。サー姉様にとってもザックは原因だったかもしれないけど、今の姉様の進んでる道には関係ない、そうじゃない?」
「カナコ…」
私はザックの手を取った。
「私の自慢のサーシャ姉様はね、男に振られた位のことは、すっぱりと忘れて次へいける女性なの。もうザックのことなんか、思い出の奥の奥に仕舞い込んでるわよ?」
「…、」
「余りにも奥過ぎて、忘れてるかもしれないわ」
「そんなものかい?」
「ザック、私達、生きていかないといけない。前に進むしかないの」
ザックが涙を零した。
長い付き合いだけど、泣くところを初めて見たんだよ。
「ジョゼ、私、陛下をお呼びしてくるわね」
2人にしてあげたい、って思ったんだ。
そう言って、ドアを開けたら、いた…。
「カナコ?」
「いいから、こっち!」
私はデュークさんを引っ張って部屋から離れた。
仕方ないから、庭を散歩して、時間を取ってから部屋に戻ったんだ。
その間に、デュークさんには説明で忙しかったんだけどね。
ザックの顔は晴れやかになったように、見えた。
ジョゼが嬉しそうだったから、それでいいや。
「陛下、ガナッシュに向おうかと考えてます」
「ガナッシュか?こいつの姉がいるぞ?」
「はい、会ってみようかと…」
「しかし、向こうが会わないかもしれないな」
「それでも構いません」
ジョゼが話し出した。
「ザックも私も、一度サーシャ殿に会ってみたいのです。そうしたから何かがあるとは思ってません。けれども、私達夫婦も前を向くために、彼女に会ってきます」
「2人で考えた事なのね?」
「はい」
言い切るジョゼは、美しかった。
「よし、分かった。船を貸そう。いつでも好きなときに使えることを保証しておく」
「そんな、陛下…」
「いいの、陛下のしたいように、ね?」
ザックとジョゼはお互いの顔を見合わせて、笑顔で頷いてくれた。
良かった…。
そして、2人はルミナス離れた。
しばらく時が過ぎた頃。
夜だ。
私達は久し振りに、丘の上で2人きりの夜を過ごしているんだ。
「カナコ?」
「うん?」
デュークさんの肌は暖かい。
初めて会った時と一緒だ。
「おまえは、変わらない」
「え?変わらないって、良いこと?」
「良いことだ」
そんなこというデュークさんも、変わってない。
いつも優しくて、強い。
「俺はおまえに溺れている」
なんて憎いことを言ってくれるんだ。
「どのくらい?」
「おまえでなければ感じないくらいに、だ」
月の光が、夜を彩っている。
こんな夜はね、私を唆すんだよ。
「じゃ、感じさせてあげるわ」
ちょっと、淫らな私に火を付けて、夜が唆すんだ。
「カナコ?」
「絶対に、何も、しないで、ね?」
そう言って、私は、…。
「あ、カナコ、ああ」
デュークさんの声が聞こえる。
私、卑怯でしょ?
でも、いいんでしょ?
だって、こんなに感じているんだもの…。
熱さが伝わってくるよ?
私の舌に、デュークさんの熱さが。
ねぇ、私がこんな事をするなんて、思わなかったでしょ?
愛おしいんだよ。
私、デュークさんの全てが、欲しいんだ。
「あ、駄目だ!あぁ、」
「いい、よ、」
デュークさんは熱を放った。
そのまま、時が過ぎる。
しばらくは、動けなかったみたいだけど、ゆっくりと私を引き寄せた。
魔法が掛けられる。
私を綺麗にしてくれる魔法だ。
そして、何も言わないで、キスをする。
そのキスは少年のようなキスだった。
「初めて、だ」
「うん」
「驚いた…」
瞳が少年のように揺れる。
「はしたない?」
「いや、良かったよ」
もう一度キスされた。
初々しいキスなんだ。
「けど、カナコ、どうして?」
「全部が欲しかったの。デュークさんの全部を私のモノにしたかったの」
デュークさんの瞳が潤んでいる。
「俺はカナコには叶わない。こんなにも愛しているのに、おまえの方が深いんだからな…」
「デュークさん、もう、足りた?」
「今な…。けれども、俺はまだ、カナコの声を聞き足りない」
「ほんと?」
指がやさしく肌に触れる。
この優しさが、たまらなく感じるんだ。
「俺が鳴かせてやる。カナコを感じさせてやるよ」
「あ、うん、」
「聞かせてくれるか?」
キスが体を熱くさせた。
腰が、もう、熱くて、堪らない。
デュークさんのキスは、理性を失わせるんだ。
「ああ、あぁ!」
刺激に声が出てしまう。
熱いよ、熱いんだ。
指が、舌が、吐息が…。
いつもよりも、少し激しく、けど、優しく、甘く。
デュークさんは私の体の全てを知り尽くしているから、もう…。
私を溶かせていくんだ。
「カナコ、感じろ?」
「ああ、い、いい」
「まだだ、もっとだ」
「あ、、ぁ!」
駄目だ…、もう、もたない…。
力が抜ける。
息が、上がって…。
「まだだ、まだ、俺は足りない…」
「デューク、さん、け、ど」
私の息が上がっているのに、容赦がない。
「カナコ、愛してる。俺だけがおまえを愛せるんだ。そうだろう?」
デュークさんの舌が私刺激する。
もう、感じ始めたんだよ。
「あ、もう!ああ、」
「もっと鳴いていいぞ?聞かせてくれ?」
「あー、あ!」
「カナコ?」
「デュークさん!あーーー!」
もう、駄目だ。
体中から力が抜ける。
動けない…。
「カナコ、どうだ?」
「うん…、素敵だった。もう、離れたくない」
「わかった、いいな?」
「あ、」
ゆっくりと足を持ち上げられて、私とデュークさんが一つになる。
刺激が熱い。
汗が流れる。
私は、まだ、感じることが出来るんだ。
だって、デュークさんだから。
互いに果ててしまった私達は抱き合ったままだ。
「私を離さないで…」
「ああ、ずっと側にいるから」
夜は、時々私達を煽り立てる。
それは、とても甘美な時間なんだ。
そして、私たちに必要な時間だった。




