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朝が訪れる。
デュークさんの赤紅の瞳が目の前にあるんだ。
「綺麗だな?」
「うん?」
「日の光に、カナコの肌が輝いている。美しい」
「嬉しい…」
キスをした。
「朝食を食べたら、城に戻ろう」
「うん、セーラも待ってるよね?」
「いい子で待ってるさ」
「そうだね」
深いキスをする、卑怯なデュークさん。
私は応えてしまう。
「どうしよう、感じちゃった…」
「責任は取るよ」
「ホント?」
「この俺が、最愛の妻を目の前にして、キスだけで終わらせるか?」
その口が、私の手の甲に触れる。
だから、デュークさんの胸に唇で触れた。
軽いキスで、体中を私の物にしたい。
しばらく、私のしたい様にさせてくれていたのに、私の手を引っ張って、顔を引き上げるんだ。
「見せてくれ、カナコを、俺に…」
「愛してるわ」
深いキスの後、私を持ち上げると、あああ…。
「どう、だ?いいか?」
「あ、んん!いい、よ、ああ」
私達は繋がったまま、感じ合った。
言葉にならない程の刺激に、私は、我を忘れて、デュークさんの名を呼んで、声を上げたんだ。
「あ、あ、デュークさん!」
「カナコ!」
「あ、ん…、」
昨夜よりも感じた。
いつもよりも、素敵だ。
私達は、まだ息が乱れているのに、キスを繰り返した。
「カナコが好きなんだ。愛してる」
「私も、だよ」
しばらく、そのままでまどろんでから、互いに魔法を掛け合って、服を着た。
支度が整い、朝食が運ばれる。
私達は2人で朝食を食べた。
もちろん、お互いが触れ合える程近くに座っているんだ。
デュークさんと一緒に食べる食事は美味しいから好きだ。
「なぁ、カナコは記憶を持って生まれてきたんだろ?」
「うん、そうだよ」
「なら、自分が赤ん坊の頃を覚えているのか?」
えーと、昔のことだから忘れてるかなぁ。
けど、普通は覚えてないものなんだよね。
それを覚えているって、凄いことだわ。
「あ、そうだね、うーん、覚えてるような…、ハイハイする頃までは、耳も目も、ハッキリしてなかったなぁ。焦点が合わない感じだった」
「じゃ、家族を認識できたのは?」
「えっと、お父様とお母様がわかったのはハイハイの頃かな…。けど、兄弟がわかったのは1歳くらいだったと思うよ?けど、どうして?」
「なら、セーラはまだ2ヶ月だ。耳も目もハッキリしていない、だな?」
「そうなるわ」
私を見る赤紅の瞳は優しいんだ。
「カナコ、だったら、もっと周りを頼ってもいいんじゃないか?」
そうだ、その通りだ。
素直に言葉に頷けたよ。
「うん。そうする。ジョゼにお願いして何人か探してもらうわ」
「そうしろ。俺はカナコが笑ってくれるなら、なんでもするぞ?」
「ありがとう、優しいね」
デュークさんの手に私の手を重ねた。
何があっても、2人で乗り越えればいいんだね?
だったら大丈夫だよ、これからも、ずっと。
「それから、時々、こうやって夜を過ごそう。いいな?」
「いいの?」
「ああ、いい。その内にセーラもわかるようになったら、ここに3人で来よう。ここは綺麗なところだから、きっと喜ぶぞ?」
「うん」
私からキスした。
だって、大好きだから。
私の一番愛してる人だから。
私の殻が割れた。
ようやく周りを見られるようになった。
お母様は、これで安心だわ、と言って家に戻り、ジョゼもホッとした様子だった。
直ぐにジョゼと相談して、2名の侍女を決めた。
ジョゼのツテを頼ったんだ、間違いはない。
私の気持ちが軽くなったのと、セーラが良く笑うようになったのがリンクして、この宮殿は明るくなった。
新しい侍女はアリエッタとエイミィ。
年齢は私の3つ上だ。
2人とも、ジョゼのように礼儀正しく、しっかりした仕事をしてくれた。
少しづつ新しいリズムに慣れてきた。
そんなころ、マサがここにやってきた。
「カナコ様、ご無沙汰しております」
「マサ、色々とまかせっきりにしてしまって、申し訳ないわ」
「いいえ、早々に場所が見つかり、建物の建設に入れました。陛下のお許しを頂き人も雇うことが出来ますし、計画は順調です」
「出来上がったら、私も伺うから」
「ぜひに」
マサはニッコリと微笑む。
本当に順調そうで安心する。
「ところで、醤油と味噌の方は?」
「もう直ぐ、第一弾の試作が出来上がります。出来次第、お持ちしますよ」
「大変でしょうけど、頼りにしてるわ。お願いね?」
「ええ、いい結果がでるように努力いたします。それよりも、今回のお土産は、これです」
そういって、差し出されたのは壷。
この形状は…、懐かしすぎる。
あれ以外入っていないって思えるほど、懐かしい。
「まさか、梅干?」
「はい、梅干です」
「え?そうなの?」
思わず蓋を開ける。
梅色をした、梅干がゴロゴロと入っている。
1個を取り出して齧ってみた。
「酸っぱい!」
顔が、酸っぱい顔になる。
「けど、美味しい!」
「良かったです。本来なら姫様がお腹にいるときにお持ちしたかったんですが、なかなか上手く行かなくて」
「気を使っていただいて、嬉しいわ」
「カナコ様のお陰で、今の自分があるのです。カナコ様の為ならば、なんでもしますよ」
「マサ…」
じゃ、鰹節、早く作って、の言葉を飲み込んだ。
物事は徐々にだ。
「落ち着いたら、日本食でパーティしましょう?ルミナスにも受け入れて貰いたいの」
「いいですね、醤油や味噌は販売もしたいですしね」
「ええ、これからも、お願いね、マサ」
「はい、姫様にもお会いできましたし、梅干も気に入っていただけた。来たかいがありました」
そう言って、マサは帰っていった。
私のして欲しい方向にマサが進んでくれる。
ありがたいものだ。




