131
お祭り騒ぎの広場を後にして、私達は城内に戻る。
今はジョゼと3人だ。
「さぁ、絵師がお持ちです」
絵師の前に連れて行かれた。
せっかくだもの、白いドレス姿を残しておかねば、という事らしい。
あ、こんなとき、カメラがあると、いいな…。
自撮りもしたいな。
「キスする時間ぐらいあるだろ?」
よ、我が侭な王様!
「え?」
いきなり、キスされちゃった。
「こんなに綺麗なカナコを前にして、何もしないなんて、辛いな」
「陛下、お気持ちはわかりますが、ご支度を」
「わかった、カナコもいいか?」
「うん!」
さっと、素描するだけで、後は記憶を頼りに書くんだって。
絵師って、凄いね。
それが終ると、着替えだ。
デュークさんと別れて、ジョゼと別の控え室に向う。
そこには、アリが手ぐすね引いて待っていた。
どうやら、このドレスが本番のドレスらしい。
薄い紫紺の色の薄手の生地を何層にも重ねて、その重ねた部分がフリルになってる。
そのフリルが前から見えるようにと、スリットが入っているんだ。
ウエストはかなり絞られてて、そこには幾つものアメジストとダイヤが、私のウエストを細く見えるように配置されている。
少し深めに開いた胸元には、産地から掘りたての大粒のダイヤがメインのネックレスが輝いている。
肩が、凝るんですけど…。
いかん、マリ姉ちゃんの忠告を思い出すんだ。
たかが石ころに着られてたまるか!
支度が終った。
「カナコ様、」
「どうしたの、アリ?」
「アリは光栄です。こんなにも素晴らしい機会に立ち会えたなど…」
アリが泣き出したよ…。
泣かないで!お願い!
「アリ、泣いちゃだめだよ?明日も違うドレスが待ってるんだから、ね?」
そうなんだ。
ポポロの企みで、私は今日から毎日違うドレスを、しかも、全て初めて袖を通すドレスを5日間着続ける。
着せ替え人形になってしまうんだよ。
そうして、毎日人の前に出る。
舞踏会ももちろん、毎晩ある。
ワルツしか踊れないけど、毎晩踊るらしい。
なんて、大変なんだよ。
「いいか?」
デュークさんが入って来た。
もう、夫婦だから、いいよね?
私はデュークさんを見た。
なんか、言ってよ?
「…」
「デュークさん?」
「あ、」
「なんか、いって?」
まだ、何も言わない。
苦笑いのジョゼが先に話し出した。
「陛下は、言葉が出ないようです」
「どうして?」
やっとデュークさんが喋った。
「それは、カナコが綺麗だから、だ」
「ほんと?」
「ああ、今までもカナコが一番綺麗だと思っていたが、今日のカナコは特別綺麗だ」
なんか、満足。
そうでなくっちゃね。
結婚式の主役は花嫁だもんね。
「マリ姉ちゃんがね、花嫁はキラキラ輝いてお嫁に行くもんだって、いったから、ね」
「その通りだな。おいで、カナコ?」
「うん?」
デュークさんの側に行った。
「ジョゼ、キスしても口紅は取れないか?」
「軽くで、お願い致します」
「わかった」
なんの確認してるんだ?
可愛い奴め。
「愛してる」
「私も…」
軽いキス。
ジョゼの言いつけを守るいい子の私達。
それを見守るジョゼの発言。
「今宵は早々に引き上げても大丈夫ですから」
ジョゼの言葉に、顔が赤くなった。
「どうした?」
「え?だって、恥かしいもの」
「今さら、何を?」
おまえ、恥ずかしくないのか?ええ?
今夜、やっちゃってもいいですよ、って、ジョゼに言われたんだぞ?
恥かしいだろう、普通はさ。
あ、普通じゃない、王様だった。
支度すんだ私達は、会場へと向う。
もう、宴が始まった時刻だ。
夕方から夜になる頃。
この時間にしたのには意味があった。
この時の空が、私の瞳の紫紺に似ているから。
ポポロも、いろんなことを考える。
大広間の布は全て、紫紺の色にしたそうだ。
そして、普通は銀食器のところを、金にしたんだと。
さっきまでデュークさんにポポロが熱く語っていったらしい。
いいのかなぁ…。
いいんだろうけど。
とにかく、この華やかなな空間は、今日の招待客を虜にしてるらしい。
そこに、薄い紫紺のドレスの私と、揃いの正装姿のデュークさんが現れれば、浮かび上がったように目立つみたいだ。
ポポロって、意外にこういう事をノリノリで行っちゃう人なんだな…。
城の前の広場も、あれからまだ、お祭り状態らしい。
今日のルミナスの人は寝ないつもりなんだろうな。
あ、人事だよ、まったく。
「なに考えてるんだ?」
「本当にお祭り騒ぎだなって、凄いな」
「俺達の結婚など、口実だろう。お祭りは皆が好きだからな」
「そっか」
ジョゼが、扉を開けた。
「さ、参りましょう」
「ああ、行くぞ?」
「うん!」
私達は、まるでステージに上がる役者のように、優雅に大広間に続く廊下を歩いていった。
ファンファーレが鳴って、扉が開く。
私はデュークさんの少し後ろをついていく。
音楽が終ると、静けさがそこに残った。
上座中央に着くと、デュークさんが立ち止まる。
皆がデュークさんの声を待つ。
デュークさんの良く響く声が、会場に広がる。
「皆、よく来てくれた!ルミナスは良い民を持った。皆に感謝する!」
「「「「「「「「「「「おおお!」」」」」」」」」」
「さて、私の婚姻の儀式も無事に終った。今日から、このエリフィーヌ・カナコ・ルミナスは王妃として、常に私の隣にいる」
デュークさんの手が私の腰に回された。
私を見る目が優しい。
「伴侶を得、これまで以上に、私はルミナスに尽くすことを誓おう。我が忠誠はルミナスの為にある!」
この宣言が終ったあとの歓声が凄い。
デューク!ルミナス!デューク!ルミナス!デューク!ルミナス!
地響きを感じるくらいの迫力だ。
思わず、目頭が熱くなる。
「さぁ、今宵は私達を祝ってくれ!飲み物も食べ物も充分に用意した。思う存分、楽しんでくれ!いいな、ルミナスの民よ!」
「「「「「「「「「「「おおおおおおお!」」」」」」」」」」」
これをキッカケに音楽が流れる。
私たちも用意された席に座った。
あ、本当に金の食器だ。
晩餐会が始まる。
よくテレビで見た宮中晩餐会みたいだ。
一斉に給仕が現れて、食事が運ばれる。
なんか、夢の世界だな。
夢のような日々が過ぎた。
それは、御伽噺にある王子様とお姫様の、めでたしめでたしの話みたいな時間だった。




