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127 あなざーさいど23

アンリの休日。





グレイスの群青の瞳が私を見つめる。


「アンリ?」


私の休日はグレイスの声から始まる。

そう、春風のように優しく私の耳に響くんだ。


「グレイス、おはよう?」

「ええ、いい朝よ?」

「そうだね、君と一緒の朝は、素敵な朝だ」

「まぁ」


私達は軽くキスを交わすと、身支度を整える。 





いい天気だ。

今日みたいな休みの日は、2人で出かけるんだ。 

日の光を浴びていると、健康になるような気がする。

グレイスが元気になるのならば、なんだってするんだ、私は。




グレイスは足が少し悪い。


それは、前の婚約者の家での躾と言う名の、暴力のせいだ。

彼女を階段から突き飛ばし、治療もせずにそのまま放っておいたんだよ。

そして、ダンスも踊れない女を嫁に貰うことはできない、と言って追い出したんだ。


その話を聞いた時には、どうやってその家に報復しようかと、いろいろ思案を巡らした。 

けれど、思うところがあって、直接手を下すのはやめたんだ。

直接手を下さなくとも、あんな家は自ら滅びて行く。


その兆候は既に見えているからね。


なんたって、グレイスはスタッカード夫人だ。

スタッカード家は、このルミナスの貴族社会で中心にいると言っても過言ではないんだよ。

サロンも当然、家で開かれることになる。

サロンとは、自宅でいろんな人間を集めて、お喋りを楽しむ時間だ。

貴族はそこで色々な情報を交換して、互いの地位を安定させている。

主催者の妻の経歴など直ぐにわかってしまうが、それがかえって良かった。


あの家は、元から評判が良くない。

そして、グレイスの人柄に触れた人間は、必ず、その虜になってくれる。

そんな彼らは、当然の様に、あの家から離れて行っている。

貴族社会の中では横の繋がりがないと、立ち行かない。


夫の昇進、子供の結婚、親族間の世話、どこにでも関わってくるんだ。


奴らの家は、孤立してしまった。

もう、何も手を下す必要はない。

放っておいても、落ちぶれて行くんだから。






さて、話を最愛の妻の足に戻そう。


その後、陛下の口添えもあって、素晴らしい医師に巡りあえた。


この世界には魔法を使える人間がいる。

けれども、魔法は万能な訳じゃない。

フィーみたいに魔量を豊富に持っていても、使いこなせなければ、無駄なだけなんだ。


どの分野においても、専門的に魔法を有効活用するように方向へ動いている。

それだけ、専門的な知識が必要なんだ。

フィーはそれをセンスと言うけれどね。 


でだ、このガブリエル先生は治療の魔法を使うセンスが抜群に上手い。

杖を突いて歩いていたグレイスの足は、1ヶ月で杖を必要としなくなった。

今では、休日に2人で散歩を楽しむまでになったんだ。




グレイスの腕が私の腕に絡んでいる。


「ほら、アンリ、見て?」


グレイスが指を指した方向には、リスがいた。


「可愛いわ」

「そうだね、でも、」

「また、言うの?」

「もちろんだよ。だって、君の方が可愛いから」


微笑むグレイスはとても美しいんだ。

グレイスという最愛の女性を得てから、私の台詞も一段とくさくなったようだ。




表面上は穏やかに時が過ぎていく。





が、ハイヒットの子供達は、みんな、サーシャ姉様を心配している。

当たり前だ。


姉様は幼い私達兄弟のヒーローだった。

常に私達の前に立って、私達を庇って、守ってくれた。

だから、姉様は強いんだって思っていた。

何があっても、姉様だけは間違うことなく進むんだって思っていた。

どんな事が起きていようと、姉様は自分で解決する。

だから私はそこから学ぼうって思っていた。


間抜けにも気づけなかった。

目を塞いでいたんだろう。

今にしてみれば、って思う瞬間はあった。

けど、姉様に限って、って否定してきたんだ。


私は、結局、目に見えるものしか守らないんだろうか…。





久し振りに、ハイヒットの家を訪れた。

父と母の顔を見る。


「アンリ、良く来たな」

「グレイスは?足の具合、良くなったの?」

「はい、陛下のお陰で、今では杖が要らなくなりました」

「そうか、」

「良かったわ」


最近では、少し顔が明るくなってきたので安心はしている。


「で、父上。姉様の具合は、良くなっているのでしょうか?」


父の顔が少し曇る。


「ああ、徐々にだがな」

「良かった…」


私は思わず安堵した。


「なぁ、アンリ」

「はい?」

「聞き分けの良い子は、本当はそうじゃないんだな…」

「父上…」

「私とヴィクトリアは、5人とも可愛い。同じように愛してきた。それはつもりではなくて、本当にそうしてきたんだ」

「知ってますよ、父上」

「だがね、アンリ。伝わらないんだよ。伝わらなければ、しなかったのと同じだ。私達には、その事がわからなかった」

「けど、伝わりますよ、必ず」


父は首を横に振った。


「いや、改めてサーシャと向き合っていると、いかに伝わっていなかったかを痛感するんだ」

「けれでども、父上も母上も、常に私達を慈しんで下さっていましたよ?それは、あのフィーでさえ、感謝しているではないですか?」

「アンリ。人によって、違うんだよ。だから、今、私達はもう一度サーシャに伝えているところなんだ」


あの姉様が?と思ってしまう。

いい加減、姉様だって弱い人間なんだって、理解したらどうなんだろうか?

私は姉様を色眼鏡で見たままだ。


そして、その色眼鏡のままで、思わず父に言ってしまう。


「しかし、それは、甘えではないのですか?」

「間違えばな、甘えになるな。だから、そこの所も見極めながら、3人で進めているんだ」

「父上、それでは子供ではないですか?姉様は、子供に戻られたんですか?」

「いや、それはないよ。サーシャはサーシャだ。だがな、薬の影響もあって、感情のブレ幅が大きいんだ」


あの姿を見てしまった私は、そう言われると、何も言えなくなる。


「そうですか…」

「けど、アンリ。サーシャはおまえ達の姉だ。あの、強くて、誰よりも頼りになる姉だよ」

「わかってます」

「だがな、時にはマリーやフィーよりも我が侭で弱いんだ。誰よりも傷つきやすいんだ」

「姉様が…、」


この期に及んで、私はまだそんな言葉を出してしまう。


「アンリ?」


母が言葉を出した。


「人って、目に見えるものは守れるけど、見えないものは見過ごすのね。後で後悔したって、見過ごした事は変わらないのよ」

「母上?」

「しばらくは私達3人でいさせてくれるかしら?」


そんな母の肩を父がそっと抱いた。


「アンリ、いつか、必ず、家族で会える日が来る。父と母、それにお前の姉を信じて待ってくれないか?」

「はい」

「信じていてくれ」


父も母も、悩みながら進んでいる。


子供を育てるって、大変なことなんだ。

思ったようには育たない。

そうなんろうな。


あの、マリーやフィーの方が素直に自分の道を歩いている。

まさか、姉様が道を危めるなど思いもしなかった。

ああ、まだ言ってるよ、私は…。







私も、その内に父になるだろう。

その時に、両親のように真摯に子供に向き合える親になりたいものだ。







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