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アンリ兄様の結婚式は中止になってしまった。
けれども、アンリ兄様とグレイス義姉様は、スタッカードの屋敷でお爺様と一緒に生活を始めている。
今日はその報告を兼ねて、城で食事会だ。
メンバーは大勢になる。
デュークさん、私。
アンリ兄様、グレイス義姉様。
お爺様、お父様、お母様、ジャック兄ちゃん、マリ姉ちゃん、カルロス義兄様。
グレイス姉様のご両親。
12名だ。
「本当に、中止なの?」
「フィー、それでいいんだよ」
「けど、…」
お母様が私の言葉を継ぐ。
「グレイスには申し訳ないのよ。こちらの理由で中止になるんだもの。ごめんなさいね?」
「いえ、アンリとも話し合ったのですが、それが一番いいと思いますので」
「けど、お義姉様の花嫁姿が見たいわ。ね、そうでしょ?」
マリ姉ちゃんが同意を求める。
「見たいわ。きっとお美しいに決まってるもの。ねぇ、アンリ兄様は見たくないの?」
「そりゃ、」
といって、グレイス義姉様を見つめる。
こんな優しい顔が出来るんだ。
「もちろん、見たかったさ。けど、私達は式など挙げなくてもいいんだよ。それでいいよね?」
「ええ、アンリ。それで、いいわ」
なんだよ、ご馳走様。
「しかし、それは、面白くないな?」
出たよ、王様の駄目だしがでたよ。
「けど、陛下。しかたない事情ですので…」
この中止は、やはりサーシャ姉様の事件から始まった。
事が大き過ぎて、アンリ兄様は中止を決めた。
けど、ね、グレイス義姉様は、良かった、って言うんだ。
「陛下、それで良かったのです。あまり人前に出たくありませんでしたから」
まだ、足のことを気にしているみたいだ。
「娘の足のことで、皆様にご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません」
「ジェイネル殿。そんなことは気にしなくてもいいぞ。なんせアンリの嫁だ。ワシの孫だからな」
「そうです、御義父上、私の妻のことです。何よりも優先すべき問題です」
スタッカード達が声を大きくして喋ってる。
「なぁ、アンリ?」
「なんでしょうか、陛下?」
「せめて肖像画くらい持っておいたらどうだ?」
「肖像画ですか?」
「ああ、グレイスが着飾って綺麗な姿を見たくはないのか?」
「それは、見たいです」
「なら、そうしろ。公爵、いいな?」
「は、陛下のお申し付けならば。直ぐに準備しましょう」
「なら!」
と、私とマリ姉ちゃんは顔を見合わせた。
「グレイス義姉様のドレスは私達から贈らせて?ね、マリ姉ちゃん、そうしよう?」
「いいわね、ね、カルロス?」
「もちろんだよ」
「デュークさん、いいよね?」
「ああ、わかった」
「じゃ、決まりだ!ねえ、明日、アリの店にいきましょう?アンリ兄様、いいわよね?」
アンリ兄様が、少しホッとした表情で笑う。
やっぱり、中止には引っかかるところがあったみたいだ。
「グレイス、妹達の好意を受け取ってくれるかな?」
グレイス義姉様はアンリ兄様を見てから頷いた。
そして、私とマリ姉ちゃんを見て、穏やかな声で言うんだ。
「フィー様、マリーさん。私の為に、ありがとうございます。喜んで受け取ります」
「よかった!」
嬉しかった。
だって、断られるかと思ったんだ。
グレイス義姉様は人には優しいんだけど、自分に向けられる優しさには厳しかった。
だって、あんな思いをしてきたんだ。
きっと慣れてはいないんだよね。
だから、最近になってやっと、素直に受け取ってくれるようになった。
「それでは、グレイス義姉様。明日はアリの店でお会いしましょう?」
とマリ姉ちゃんがすましていう。
「ええ、伺います」
私は念を押す。
「デュークさん、いいね?私も行っても、いいよね?」
ちょっと弱った顔をして、直ぐに普通の顔に戻すんだ。
「いいぞ、けどな…、いや、いい」
自己完結するな。
その後の言いたいことはわかっているから!
「大丈夫、女子会が終ったら、直ぐに戻るから」
こんな2人きりの時の会話になっちゃって、もう。
でも、身内だから、いいだろうね、きっと。
「まったく!」
マリ姉ちゃんが呆れてる。
「このお2人は、毎日惚気ても飽きないのかしら?」
相変わらず、ストレートだな。
ほら、グレイス義姉様の両親が驚いているぞ?
「まったく、仲が良いにも程があるぞ?」
「あら、お爺様。陛下に私を大切にしないと承知しないと言ったのは、お爺様よ?陛下はそれを実践しているだけなんだから」
「うっ、フィーや、この爺よりも、陛下の肩を持つのか?」
「お爺様、ごめんなさい。陛下の方が大切なの」
デュークさんが笑った。
「フィー、あまりスタッカード公爵を責めるな?年よりは大切にしないといけないぞ?」
あ、こいつ、さりげなく反撃してる。
「陛下、ワシはそんなに年寄りですかな?」
「あ、いや、…」
「なら、この年寄りが死なないうちに、早く曾孫の顔を見せてくださいませ?なにせ、年寄りですから、な」
ああ、負けてやがる。
けどね、これでも、この2人は楽しんでいるんだよ。
この言い合いが続いてる限りは、お爺様は大丈夫。
「そうよ、アンリ、マリー、フィー。貴方達、早く私たちに孫を見せてよ?」
いかん、お母様に飛び火した。
しかし、アンリ兄様がサッラっとかわす。
「母上、孫はいずれ生まれます。それより、ジャックの心配を?」
「ブ、兄様、なにを…」
「こいつは放っておくと、研究ばかりで、出会いすらいないのですから」
「そ、それは…」
お母様の目が光った。
「アンリ、今ね、何人か候補に上がってる方がいるのよ。けど、ジャックたら、会おうともしないで」
「それは、いけない。兄からも忠告だ。ジャック、直ぐに母上に従った方がいい」
「兄様、しかし、…」
「なんじゃ、ジャックにも初恋の女性がいるのか?」
なんだ?ハイヒットの男共はウブ揃いか?
「いませんよ!」
「なら、諦めろ」
ジャック兄様は渋々な顔。
まだ結婚したくないのかな?
「もう少し、静かに研究に没頭したいんです。妹達みたいに五月蝿いのと…」
おいおい、ジャック兄ちゃん?
「どういう事からしら?」
「ええ、そうよ?」
「いや、悪気はないんだ、本当だよ?許してくれよ?」
「あら、悪気がなければ何でも言っていいの?」
「そうだよ!それって、悪気はないけど、悪意はあるって奴?」
「ああ、悪かった!すまん!」
まったく、賑やかな食事会だ。
この後、ジャック兄ちゃんのおごりで明日のお昼はカフェ・マリー貸切が決まったから、私達は大人しくなったんだ。




