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すっかり、夜になっている。
ポポロはその時間を利用して、今回の同行者全員を絞り上げていた。
私とデュークさんが教えられた場所に着いたとき、全員の目が死んでいたもの。
「ポポロ、すまなかった」
デュークさんを見るポポロ。
まったく、って顔をしてる。
私も謝った。
「ごめんなさい」
けど、デュークさんの瞳が赤紅に戻ったのを見て、安心してくれたみたいだ。
「陛下が謝るなど、そんな事、なさってはいけません。とにかく、お気になさらないでください。落ち度は、こいつ等にありますから…」
そういう目が、据わっている。
私はデュークさんに小声で囁いた。
「デ、デュークさん、ポポロが、怖い…」
「ああ、怒らせてしまったな?」
「うん…」
ポポロが、周りに威嚇する。
「貴方達、城に戻ったら覚悟することです。いいですね?」
誰もはっきりと返事をしなかった。
「返事がない!」
慌てて声があちこちから聞こえた。
ポポロって、部下に厳しい。
「けど、なんで、デュークさんが、こんな目に合ってたの?」
「本当ですよ、まったく!」
ポポロの怒りは収まらない。
不甲斐ない部下に腹が立っているんだろうね。
違う?
いやいや、そういう事にしておこう。
「陛下と既成事実を作って、側室にでもなるつもりだったんでしょね。どうせ、そんなことぐらいしか、考えられない人たちですよ」
「なんて古臭い手…」
ポポロは気持ちを落ち着けて、デュークさんに進言する。
「陛下、一旦、この交渉は打ち切ります。大体、電気はこの部落以外にもあるのですから。こんな部落に用はありません」
そうなんだ、ここの部落とは地上に電気を送る話をしに来たんだ。
当然その対価は、支払われる。
馬鹿だよね、自分達でその芽を摘んだんだ。
「陛下!」
さっきの女が走ってきた。
私達の前に立った。
度胸があるな、無謀だけど。
女は私を睨むと、デュークさんに飛びつきそうになる。
「何するんだ!」
デュークさんが振り払い、女はまた転がって行った。
コロコロと。
慌てて、隊長が女を押さえ込んだ。
それでも顔を上げて声を出す。
「陛下、私のどこが、お気に召さなかったのでしょうか?私は陛下にお使えしたいのです。どうか、どうか、私も城にお連れ下さい!」
その後ろには太ったおっさんがいた。
「陛下、何卒、娘の願いをお聞き届け下さい!」
おいおい、デュークさんがここに来たのは、電気の為だぞ?
側室を探しにきたんじゃないぞ!
勘違いするなよ!
それとも、なんだ?私じゃ駄目だとでも言いたいのか?
もう、頭にくる!
だいたい、なんだよ?
私が来たっていうのに、自分の立場を知れよ!
私の怒りが伝わったのか、ポポロが大きめの声で言ってくれた。
「いい加減にしてください!これ以上、陛下を怒らせるつもりですか?貴女方がどうなっても、私は知りませんよ!」
「え?」
本気で驚いている…。
状況を分析してから行動しろよ。
「分かってないんですか?もうすぐ妃殿下になられる方が、ここにいるんですよ?どうして、貴女が必要なんですか?いらないでしょう!」
「こんな子供なんかよりも、私の方が、いいに決まってます!!」
なんだよ!この女、許さん。
もう、許さんぞ!
と、その時。
デュークさんが私の腰に手を添えて、女に向って大声で怒鳴ったんだ。
「エリフィーヌを侮辱する奴は、この俺が許さん!おまえ等、この俺に切り殺されたいのか!」
「そ、…」
「誰か、剣を持て!」
「は!」
デュークさんの手に剣が渡された。
その剣が一瞬光を反射する。
「ひ、ひぇーーー!」
もういい。
これで懲りただろう。
私はゆっくりとデュークさんを見上げた。
このゆっくりとした仕草は、恐ろしく優雅に見えるらしい。
そして、必殺の甘い声だ。
「あなた?」
「うん?」
私は、全員の目の前で、ちょっと深いキスをデュークさんに仕掛けた。
しかも、長めにしてやった。
それから、ゆっくりと唇を離して、他人に聞こえるか聞こえないかの微妙な大きさの声で甘く囁く。
「早く帰りましょう?私、まだ、足りてない、から」
デュークさん、陥没。
「あ、そ、そうだな」
良し。
これで、見せ付けてやっただろう。
私は微笑む。
とっておきの笑顔で微笑むんだ。
「ね、帰りましょう?」
「わかった」
デュークさんは私の腰を抱いて、皆に号令を掛ける。
「交渉は中断だ。改めて、他の手段を探ろう、皆、いいな?」
「「「「「は、」」」」」
「今回の件に関しての人事は、後日行う。ポポロ、任せたぞ?」
「はい、畏まりました」
「ここの長はいるか?」
さっきの女の後ろにいた奴が、前に出て答える。
「はい、ここに」
「言っておくが、俺は一度だって女を求めたことはない。必要ないと断ってきた。それをおまえ達が勝手に寄越したんだ」
「は、ですが、」
「言い訳はいい。聞きたくもない。そんな姑息な手段を使う民には協力できない。いいな!」
「へ、陛下!」
これで、当分、この辺りの魔物征伐は行われないな。
仕方ない、自業自得だよ、まったく。
デュークさんが私の頬に手を掛けた。
いつもなら、絶対に人前でここまでしない。
「カナコ、信じてくれ?」
「大丈夫よ。いつも信じてるから」
「ああ、俺にはカナコがいれば、いいんだ」
「ありがとう、あなた。わかってるわ」
これで、もう、大丈夫だろう。
しかし、トドメを刺さなくては気がすまない。
気がすまないんだよ!
最後に禁止された微笑を皆に残しておこう。
「それでは、参りましょう?失礼、皆様」
周りの地下の人間達が凍り付いたように、固まってた。
しばらくして、私の名を呼ぶいろんな声が後ろの方でした。
けど、気にしない。
私はデュークさんと一緒に地上へのエレベーターに乗り込んだ。
「カナコ、あれは、禁止だ…」
「ルミナスの王の隣にいる女性は誰よりも王に愛されているんだよ?愛されて当然なんだよ?わかる?あんな女なんかより魅力的でなきゃならないんだから!もっと、あの女に見せ付けてやらないと、気がすまない…。もう一度、見せつけに行きたいくらいなんだから!」
「カナコ…」
弱り果てた王が左大臣に聞いてる。
「ポポロ、何か、問題になりそうな行動はあったか?」
「いえ、ここには、多分、ないかと。しかし、ですね、」
「もういい、そこから先はいうな」
「畏まりました」
「え?なに?」
「いえ、カナコ様を怒らすと怖いと、思いまして…」
「ポポロ、余計なことを!」
「あ、申し訳ありません!」
怖い?
当たり前だ、怒ってるんだから!
なんか怒りが収まらない。
ついでだ、おねだりもしておこう。
「上に戻ったら、好きなところに行ってもいいわよね?」
「それは、カナコ、」
「たまには、海にも行きたい。行ってもいいでしょ?」
この際だ。
この立場を利用してやる。
海苔だよ、ワカメだよ、昆布だよ!
「俺と一緒なら、な」
「デュークさん?」
「なんだ?」
「私のこと、愛してる?」
「もちろんだ、愛してる」
「なら、信じてるでしょ?」
「もちろんだよ」
「じゃ、たまには他の人と、行ってもいいでしょ?」
「カナコ…」
「日帰りするから」
もう少しだ。
トドメには、って、あの!
地上に着いた瞬間、抱きかかえられた。
「ちょと!ちょっと!」
「ポポロ、俺達の馬車は?」
「あちらです」
「そうか」
そのまま、馬車に、だ。
ゆっくりと動き出す。
私達しかいない。
「デュークさん?」
「カナコ、おまえ、どうして、地下に来た?」
「不安だったもの」
「城から出ないって、約束だったな?」
「え、けど、」
「今回はおまえのお陰で助かった。だから、見逃そう。けど、俺以外の人間との遠出は駄目だ」
「デュークさん?」
「どれだけ俺がおまえを愛しているか、知ってるか?」
「知ってる」
「いや、わかってない。だから、そんな取引をしようとする」
「あ、怒ったの?」
「少しな。でも、今回はおまえが来なければ危なかった。ありがとう、カナコ」
「危なかったんだ?」
「ま、まぁ、危なくても、堪えたから」
ちょっとシドロモドロになる。
そこが、可愛いんだ。
「愛してるよ?」
どうだ?
「カナコ、それは…」
「デュークさんだけを、愛してるのよ?」
「あ、あ、降参だ」
そこから、深いキスで始まるんだ。
私は、溶けてしまいそうだ。
あ、馬車の中だった…。
降りるとき、恥ずかしい…。




