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バーーーーーン!
ドアだけが、粉々に砕けて、向こうが見えた。
地下の人間が、呆然としてる。
魔法を見たことないのか?
私が魔法を使えると、知らないのか?
まったく、ふざけるなよ!
このくらい、なんでもないんだ。
虫の居所が悪いんだ、今の私は。
あ、とにかく、その、向こうだ。
いた。
見えた。
見たこともない女の後ろ姿だ。
そして、私は、デュークさんと目が合った。
その女を抱いているデュークさんと、tっと、と!
なんだ?
デュークさんが女を抱いてるぞぉ…、ぞぉおおお!
なんだ、なんだ!
どうなっているんだ!
デュークさんの目は私から離れない。
少し情けなくて申し訳なさそうな声が届く。
「カナコ、おまえ…」
おまえじゃ、ない!
なんなんだ!
なんだよ、どうなっているんだよ!
「デュークさん!!なんなの?その女?どうして、私以外の女を抱いているの!!」
私の怒りに満ちた声に、デュークさんは慌てて女から離れようとする。
けど、女が離さない。
あのデュークさんの振り払いを凌ぐなんて、なんて馬鹿力なんだよ?
「この、馬鹿!離せ!」
「いやです!離しません!」
ああ、私の声が低く、ドスが効いても、仕方ないよね?
そうだよね?
「陛下、一体、どういうこと、なのかしら?」
ようやく、デュークさんは女を振り払う。
デュークさんの力が強かったのか、女は床に転がった。
コロコロ転がって壁にぶつかった。
音が響いた。
もっと痛めつけてやっても良かったのに…。
「い、いや、なんでもないんだ…」
私は、部屋の中に入って、ズンズンと歩いて、デュークさんの前に立った。
そして、デュークさんの顔を見上げる。
「約束、しましたよね?私は守っておりましたのよ?」
「カナコ、俺だって、ほら、濃銀のままだ…」
それは本当だった。
デュークさんの瞳は、苦しそうな濃銀だった。
「じゃ、どうして、ここに、女が、いるのかしら?」
床に座り込んでいる女を指差した。
「カナコ、…それは、」
「いったい、この女、誰なのかしら?どちらの、どなた?」
その女性は、強かに笑った。
やっぱり、地下の人間だ。
訳がわからない。
この状況で、ゆっくりと立ち上がって、微笑みながら、喋るんだ。
「貴女こそ、どなた?私はここの長の娘、レイカですわ」
こんな女、見下すだけで、充分だ。
返答など必要ない。
したくもない。
私は、もう一度、デュークさんだけを、見つめて聞いた。
「ねぇ、この女と、寝たの?」
「寝る筈がない。約束したろう?」
「嘘じゃないのね?」
「俺がカナコに嘘を言ったことがあるか?濃銀なんだぞ、わかってくれないか?」
我慢したんだ。
苦しいのに、我慢したんだ。
私の為に…。
声のトーンを普通に戻した。
「そう、なら、許してあげるわ」
「ありがとう、カナコ」
デュークさんは私の頬に手を掛けた。
その手を掴んで握ってから、腹の底から声を出した。
「けど、この女は許さない…」
私は、大声で隊長に告げる。
「隊長!今すぐ、この女を、ここから、引き摺り出して!」
「は!」
「何を、何をするの?陛下!やめて!…陛下!」
「黙れ、さぁ!」
「いやよ!陛下!…、助けて!」
女はかなり抵抗したけど、部屋から引き摺り出された。
私は、直ぐにドアを魔法で元に戻すと幕を張った。
頑丈で外からは中の様子が見えない、音も漏れない、そんな幕だよ。
私達だけの空間が必要なんだ。
そう、私は、デュークさんに襲い掛かる。
唇を奪ってやった。
長い長いキスが終ってから、濃銀の瞳に、私は文句をぶつける。
「10日だよ?何の連絡もなしに、10日!どんなに心配したと思ってるの?どんなに、不安だったか、わかる?」
「悪かった」
「悪かったじゃない!なんで、連絡くれなかったの?」
「それは、その、だ」
「魔物の征伐が済んだら、直ぐに帰ってくればいいじゃない?なんで地下に戻ったの?」
「いや、その方が交渉が進むだろうって、思ったんだよ…」
今回はデュークさん、色々と尻込み中だ。
「もう!馬鹿!寂しかったんだから!」
「カナコ?」
「それなのに、あんな女と部屋にいるだなんて!デュークさんが、そんなことするんなら、私だって!」
「何をする気だ?」
「決まってるわ、カフェ・マリーにいって、みんなにチヤホヤされるの!」
「チヤホヤ?」
「そうよ、止めたたって、駄目よ!行くんだから!」
笑った。
こいつ、笑ったよ…。
「やっぱり、カナコだな」
なんか、悔しいから、私はデュークさんの首にキスをした。
そんな私に、デュークさんが言う。
「何をするんだ?おい?」
そう言いながら、私にされるがままになっていてくれる。
「だめ、止めないで」
「カナコ?」
「印をつけてるの!」
そうだよ、私のだって、印だよ!
あの女に見せ付けてやらないと、気が収まらない…。
散々、私にキスマークをつけられたデュークさん。
丸分かりな状態だ。
「なぁ、カナコ、許してくれ。お願いだから?」
ちょっと情けない声になってる。
「いや、だめ!ねぇ、デュークさん?」
「なんだ?」
「これ以上、私を怒らせたいの?」
「いや…」
「私以外の女が抱きついたのよ??」
「あれは、向こうが、勝手に…」
「言い訳は聞きたくない!」
「カナコ…」
しょぼくれた猫が、ちょっと、いじけだした。
「おまえと約束したから、俺は、我慢してたんだぞ?わからないだろうが、結構、辛いんだからな?それでも、我慢したんだぞ?」
不覚にも、可愛いと思ってしまった。
やっぱり愛してる、一番愛してるんだ。
「デュークさん?」
濃銀の瞳が、拗ねている。
「拗ねてるの?」
「おまえが、許してくれないからな」
「私が?」
「そうだよ、こんなに、愛しているのに」
「じゃ、教えて?どんなに、私を愛してるのか、教えて?」
「わかった、おいで…」
その大きな手が私を誘う。
私の手を掴むと、隣の寝室へと向った。
ゆっくりとベットに寝かされてしまう。
拒むなんて、しないよ。
「教えてやるよ。俺がどれだけ、カナコを愛しているか、を」
「うん」
濃銀の瞳が嬉しそうに私を見つめた。
再び交わされた深いキスが、私達をいつもの世界に引き摺り込むんだ。
衣擦れの音、荒い息、暖かい肌。
「おね、がい、」
いつもより少し激しい指先に、私の欲求が大きくなる。
「どうした?」
「もっと、もっと、つよく、て、いい、から…あ、」
「いい、のか?」
「うん、はげしく、して!」
私の欲望に火が付いた。
わたしの男なんだ。
他の誰にも、渡しはしない。
それを、刻んで欲しいんだ。
声が上がる。
初めての声だ。
「いい、か?」
「いい!」
あ、言葉が出せない。
息が、激しく、乱れる。
私の中に入ってきた、デュークさんが、いつもより乱暴に私を求める。
私の声が、叫び声みたいに、大きくなる。
「あああ!」
「カナコ!」
デュークさんの汗が私の上に落ちた。
「おまえは熱い。おまえだけだ、俺を熱くさせるのは」
「デュークさんだけ、あなただけ、いてくれたら、それで、いいの」
キスした。
まだ、息が乱れている。
「これからは、必ず、連れて行って」
「わかった」
「どこでへでもよ?」
「わかったよ、安心してくれるか?」
赤紅の瞳が私を見つめる。
やっと、私は安心できた。
「うん」
お終いのキスは、軽くて甘いんだ。
それは、私達には短い時間だったけど、外で待っていた人たちには長い時間だったらしい。
夏だから、日が落ちるのは遅いけれども、それでも、夜になってしまっていた。
いろいろと、すみません。




