表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/192

119 あなざーさいど22

ザックの迷い。





カフェ・マリーの試食会の日。

あの事件が起きた。


サーシャがジョゼに魔法を放ち、カナコは自分を連れ去ろうとしたリチャードに魔法を当てた。

カナコの魔法はとても大きく、学院にいてもその音は聞こえたんだ。

私は直ぐにカナコの魔法だと気づいた。


「ジョゼ様が襲われました!」


急な知らせに、私は学院の部屋を飛び出した。

早く、行かなければ!

風のように駆けつけられない自分に腹が立った。


こんなことなら、カナコに、あの浮足を教わっておくんだった。


ようやく、その場所に辿り着く。


「ジョゼ!」


私は無我夢中で走り出した。 



なんで、なぜ、どうして?

ジョゼが狙われたのか?


報告に来たものはこうも言った。


「どうやら、狙った女性はエリフィーヌ様の姉君らしく…」

「サーシャか?なんで、サーシャが?」


私の理解を超えていた。 





取りあえず、ジョゼだ。

ジョゼを失うなど、私には考えられないんだ。


「ジョゼ!ジョゼ!」


ぐったりしている。

顔が白い。 


けれども、外傷は残っていない。 

カナコが手当てをしてくれたらしい。

助かった。


私はゆっくりと体の中を調整していけばいい。

血が正常に流れるように。

切断された神経が再び正常に機能するように。


その場で出来る限りの手当てをした後、城の病院に彼女を入院させた。




この世界の治療の基本は魔法になる。

治療魔法があれば、基本、治るんだ。


けれども、何事にも例外はある。


まず、怪我をした場合はその直後から治療を始めないと、間に合わない。

細胞が広範囲で死んでいくのを止めないと、後遺症が残るからね。

細胞が死んでなければ、進行を止めて、場合によっては新しく入れ替わる細胞の成長を促進させることを行う。

細胞は日々生まれ変わっているから、そうすれば、元に戻ることが可能だ。



内臓疾患などは、壊死してる部分を切り取る手術や、正常な細胞の成長を促す魔法を使ったりする。

この場合は、そんなに急ぐことはなくて、医師と相談して治療を行っていけばいいんだよ。


普通の人間は、治療魔法が使えても簡単な治療ができるだけだ。

やはり専門的に治療魔法を勉強した人間が、医師として認められて病院で治療をすることが多い。



今回、ジョゼは魔法で攻撃されたんだが、損傷した部分はカナコの、あの莫大な魔量のお陰で、瞬時に細胞が回復した。

けれども、カナコには専門的な知識などないから、そこまで。

後は私が救急的に治療して、専門に任せている状態なんだ。


要は、まだ、意識不明なんだ。



中の回復が外の回復に追いついていないから。


けどね、命に別状はない。

それは確かだから、安心している。




私は学院を休んで、ジョゼに付き添った。




3日後、ようやくジョゼの意識が戻った。


「ジョゼ?」

「あ、ザック?ここは?」

「城の病院だよ、君は入院中だ」

「そう…、ねぇ、カナコ様は?」

「無事だよ。今は城で軟禁中だ」

「軟禁?」

「陛下がね、外出禁止を言い出したんだよ」

「まぁ、相変わらずね?」


ジョゼが笑った。

私には、それだけで良かった。


「ジョゼの笑顔は素敵だ」

「まぁ、ザックったら…」


やっと安心できた。



安心できたら、いろんな考えが頭の中を回りだす。


「あなた?」


ジョゼは2人きりの時、時々、あなたって呼ぶ。

そう呼ばれることが、好きなんだ。


「ジョゼ、これから、いろんなことを考えないといけない」

「そうね…」

「君に魔法を当てたのが、サーシャだと聞いたけれども、本当かい?」


ジョゼは答えるのを躊躇った。


「事実を知らなければ、対応を間違えるからね?教えてくれるかい?」

「…、そうなの。カナコ様のお姉様のサーシャさんよ」

「…、そう…」


彼女は自宅で静養中の筈だ。

その彼女が、なぜ?


「私、家に帰れるのかしら?」

「まだだよ、しばらくは入院して、様子を見ないといけない」

「そう…」

「家の事は心配しないでおくれ」

「わかったわ」

「それに、城の事もね」

「大丈夫かしら?」

「ああ、ゆっくり休んで欲しいと、陛下からの伝言だ」


ジョゼがため息を零した。


「そう、けど、そう言われるのも寂しいものね…」

「そう?」

「ええ、我がままだけど、頼りにされてなかったのかなぁ、なんて」

「頼りにされてるよ。カナコは見舞うこともできないと、陛下に喧嘩を売っていたから」

「まぁ、カナコ様が?」

「そう、君がいないと生活出来ないって、叫んでいた」

「大げさね?」

「カナコだぞ?」

「そうね、ありがたいわ」


そんな会話をしばらく交わして、私はひとまず学院に戻った。


学院では、かなりの衝撃が走っていた。

サーシャがリチャード派の一員として、学院で色々仕掛けていたことが、明らかになったんだ。

すでに、残りのスパイを隔離している。


しかし、だ。


サーシャが私に想いを寄せていたなんて…。

気づいてもいなかった。

いや、気づいたって、どうしようもなかった。


あ、あの時の彼女の目。

あれはジョゼに嫉妬した目だったんだね。

女性になんかモテたことのない私に、どうして…。


今回の事は私が原因なんだろうか?

あの仲良かったハイヒットの兄弟を引き裂いたのが、私なんだろうか?




申し訳なくなってくる。



1人でいると、その考えが私を支配する。

私の存在が、この事件を起こした。






なんてことだ…。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ