116 あなざーさいど21-2
事件の詳細が語られます。
サーシャの言葉や状況が、かなり暗くエグイ話になりますので、苦手な方は飛ばして下さいませ。
飛ばしていただいても、本編に支障はありません。
城に戻ったら戻ったで、色々とある。
取りあえず、リチャードの家族には謹慎していただくことにした。
この場所から遠い所、辺鄙な場所。
地下は駄目だ。用心するにこした事はない。
この後のことだが、陛下においでいただこうかとも考えたが、カナコ様があのような目にあった後だ。
陛下にはカナコ様のことをお頼みしよう、と電話で報告する。
「あの、叔父が?カナコを?」
「ええ、間違いありません」
「で、なぜ、その場所に、ハイヒットの長女がいたのだ?しかも、ジョゼを狙うなど?」
「今から、吐かせます」
「俺も行こうか?」
「いえ、それよりも、陛下はカナコ様の側に」
「…、すまん。実はうなされている。魔物の止めを刺したことはあるんだが、人間を殺したことがなかったんだ。起きたら怯えるだろう。側にいてやりたい」
「それが、宜しゅうございます。こちらはアンリ殿と行いますので」
「任せたぞ」
「はい、それでは」
気は進まないが、アンリ殿が待つ牢へ急ぐ。
しかし、すっかりアンリ殿はトーマス殿の後釜になりつつあるな。
私にとっても、国にとっても、良いことだ。
牢に着いた。
案の定だ。
彼女は暴れていた。
「出せ!ここから、出して!」
髪を振り乱し、口から唾を出しながら、わめいている。
これが、女性のやることなのか?
カナコ様の姉なのか?
「アンリ殿…」
彼の心中を思うと、何も言えない。
「ポポロさん、私がすることを、見ていてくれますか?」
「ああ、いいよ」
アンリ殿は牢に近づいた。
彼の姉は、驚くほど細く、血色も悪い。
ゆっくりと言葉を発した。
「サー姉様、憎いですか?」
「…」
「ハイヒットが憎いですか?」
「ここから、出して、もう、…」
「言ってください、マリーが、フィーが、憎いですか?」
「憎いわ!憎いわよ!あの子達は家族が守っているのに、私は守ってもらえなかった。私だって、ハイヒットの娘なのよ!」
「姉様がハイヒットの娘だなんて、当たり前ではないですか!」
「アンリ、あなたがいったじゃない!お父様が、マリーとフィーを嫁がせるのをあなたに頼んだって。お父様の頭の中の娘は、あの2人だけなのよ!」
「それは、あの2人は人目を引き過ぎるからです。父上はサー姉様の事も、2人と同じ様に心配しているんですよ?」
「それが、なによ?どうせ、私は、あの子達と違うわ。祝福もされたことない。愛されたことものないのよ」
彼女は弟を睨んでいた。
その瞳には憎しみが籠もっている。
「そうよ。ただ、男にやられただけよ。最初の男には無理やり犯されて、その男を殺してしまって。次は、次は…」
「姉様??」
「どうせ、私は、もう、犯罪者なのよ!、は、はやく、ここから、出して!」
「殺したって?人をですか?」
「嵌められたのよ、もういいじゃない!苦しいの、だして!」
「なにが、そんなに、苦しいんですか?」
「…」
私には見覚えがあった。
昔、罪人の取調べをみた時に、一度だけ、彼女と似た女性を見た。
その時、取調べをしていた友人が教えてくれた。
媚薬の存在を。
「アンリ殿?」
私は非情かもしれないが、牢にも聞こえるようにアンリ殿に告げた。
「君の姉は、薬を飲まされているようだ」
「やめて!」
「薬?」
「やめてよ!」
「媚薬だよ、これを飲まされると、女でも男でも、相手の奴隷に成り下がるんだ」
「イヤーーー!!!」
もの凄い声が牢中に響く。
アンリ殿は呆然とした。
けれども、私は続ける。
「苦しくて堪らないのはね、納まるんだよ、抱かれればね」
「え?」
「誰でもいいんだ、今、抱いてくれればね」
「抱くって…」
「そして、奴隷に成り下がる。抱いてくれる相手、もしくは、相手を与えてくれる人間の奴隷にね。だから、アンリ殿、提案だ。君の姉に…」
「やめて、ください!」
「アンリ殿?」
「私の姉は、今はそうだとしても、そんな人じゃなかったんです!姉ならば…」
その時、恍惚とした表情の彼女が叫ぶ。
「だれでも、いいの、すぐ、だいて、おねがい!」
その顔を見た、アンリ殿の顔に絶望が浮かんだ。
「つれてきて、おねがい、くるしいの、おねがいよ、おとこを…」
彼の声が、余りの衝撃に、微かにしか出ないようだ。
「ねえさま…」
「アンリ殿。後は私に任せてくれるね?」
「そうでね…お願いいたします」
これ以上は、残酷な事実しかないので、割愛する。
ただ、男性は悦楽の館から連れてきた。
アンリ殿は配下の知らせを受け、リチャードの手下を捕縛した。
男が去り、少し、平常に戻った彼の姉、サーシャは無表情のままで、ポツリポツリと語り出した。
「…、気づいた時には、抱いて欲しくて、なんでも、やってました」
「学院の裏に魔物を隠したのは君の仕業?」
「いえ、それは、モンクさんに言われて、言いつけどおりに…」
「モンク?」
「リチャード様の部下で、連絡係りです」
「彼の指示に従って?」
「はい。マリーからの招待状も、彼に見つかって。リチャード様が、前から、妹に、フィーに目をつけていたのは知ってましたので、で、」
「従ったんだね?」
「はい、学院長の奥さんを殺してもいいと言われて、そのことで、心が一杯で…」
「いっぱい?」
「…、だって、邪魔でしたから」
ああ、もう、心が壊れたんだね?
「本当は妹に痺れをかけるつもりだったんですけど、奥さんに放ってしまいました」
痺れだけではなかったね。
明らかに殺す意志を持った魔法を人に当てている。
しかし、実の妹に、それも、妃殿下になられる方に、魔法を当てるつもりだったなど…。
「君は、妹に魔法を?」
「ええ、だって、眩しい過ぎるんです。彼女は。だから、いなくなれば、眩しくなくなるから」
不思議な笑顔で彼女は言い終える。
私は、それから、しばらくは牢で放っておくことにした。
薬をある程度抜かないと、彼女は人間であることも忘れてしまいそうだったのだ。
酷いように見えるかもしれないが、牢の中の方が安全なんだ。
時間が解決してくれることを祈るだけだ。




