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ガナッシュのあの人が国に帰ってしばらくしてのこと。
私とデュークさんはとんでもない人と対面している。
豆腐の質は格段に良くなっていった。
テッドはあれからも試行錯誤してくれたからだ。
ところが、大量に生産するためには、どうしてもミキサーがいる。
これ以上の質を目指すためにも、テッドを腱鞘炎から守るためにも、だ。
今までは爺にお願いすれば、なんとかなったが、さすがに産業用の機械となると許容の範囲を超える。
そこで、電機製品を作れる人間を雇いたかった。
爺には前にテッドが行っていた部落に知り合いがいるらしい。
そこで、爺が人柄を見極めた人物を紹介してもらったんだ。
マサと呼ばれる目の前の男性だ。
白い髪に群青の瞳。
スラッと背が高く、いい男だった。
年齢は30くらい。
デュークさんの警戒っぷりが半端無い。
「マサというのか?」
「はい、そう呼ばれています」
「どうして、地上に来ようと思った?ここは地下の人間には辛い場所だぞ?」
マサが、ツラツラと語り出したんだ。
とんでもない事を。
「実は私、以前の記憶を持ったまま生まれまして、どうにも、地下の暮らしが、合わなかったんですよ。なんか、あの短絡的な考え方が、合わないんですよね。なので、こうやって地上で働けるのが、それだけで、ありがたいんです。」
と、サラッというんだ。
私とデュークさんは顔を見合わせた。
「前世の記憶なの?」
「はい、なので、機械を作れちゃうんですよ」
なるほど、と思った。
つい、言ってしまう。
「あなたも、なの?」
「え?も、って?」
「実は、私もなの。前世はどこの国?」
「日本です」
「え?私も!」
「ええええ!」
私達はそれから機関銃のように会話を始めた。
デュークさんはそれを、ただ、見ていた。
「日本?どこ?」
「東京です」
「あ、私、金沢」
「金沢、いい所ですよね。魚が旨い」
「東京、いいなぁ、ライブとか美術展とか演劇とか、なんでも、沢山あるでしょ?」
「ありましたね」
「で、マサは何してたの?」
「私ですか?白物家電の設計をね、少しやってました」
「え?家電?」
「なので、簡単な家電なら、こっちでも、作れちゃいましたよ」
「凄い!私なんか、ただの事務員だから、何の知識もないままで…」
「いやいや、野菜の水切り器、懐かしかったです」
「そう?」
どうやら、住んでいた時代も似たような時代だったらしい。
「なんか、昔食べてたものを作りたくなるのよ」
「なるほど、日本食って無償に食べたくなりますよね…」
「そうなのよね、私、日本で最後の食事が鍋だったの」
「私は、イタ飯でした。高輪のいい店でした」
「いいなぁ、デート?」
「はい、彼氏が良く連れて行ってくれた店で…」
ここで、私とデュークさんは、再び、顔を見合わせた。
「おまえは、男だな?」
「はい、そうです」
「彼氏って?え?」
「あ、私、前世もゲイで、今世も、またゲイなんです」
「あ、ゲイなんだ?」
「ゲイって、なんだ?」
「男しか愛せない男の人…」
「おまえ、マサ、女性は?」
「駄目ですね、今世で1回試してみたんですけど、駄目でした」
「そうか!」
デュークさん?なに、その嬉しそうな顔は!
「よし、マサ。俺が直々に雇う。おまえなら安心だ」
「本当ですか?良かった!これで、のんびりと暮らせます」
「本当に女性には興味ないんだな?」
「ありません。上は美男子が多いんで、天国ですね」
へーそうなんだ。
けど、女子を敵に回すようなことはしない方がいいよ?
「ねぇ、ちなみに、デュークさんはタイプなの?」
マサの目つきが変わった。
あれは、獲物を狙う鷹の目だ。
デュークさんがブルっと震えた気がした。
「まぁ、タイプといえば、タイプですが…」
「駄目!絶対に駄目!デュークさんは私のモノなんだから!マサ駄目よ!!」
「わかってますよ。それに、今、彼氏いますから」
「よ、よかった…」
デュークさん、なに、笑ってるの?
「カナコ、そんなに俺のことが好きか?」
「もちろんよ!知らなかったの?」
「ああ、知らなかった」
「馬鹿!」
マサも笑っている。
「噂通りですね、仲がいいんですね?王様と妃なんて、政略結婚かなにかだと思ってました」
「そう?私達、馬鹿ップルなの」
笑いが、苦笑いに変わる…。
なんだよ、まったく。
「ああ、そんな言葉ありましたね」
「ねぇねぇ、マサの彼氏って、どんな人?」
「年下です。可愛いですよ。一緒にご飯作ったりしてます」
「まぁ、ご馳走様」
ゲイで良かった。
これで、大手を振って家電の製作に励める。
「でね、マサには、ミキサーを作って欲しいの」
「自宅用ですか?」
「違う。店舗用くらいに大きいのを」
「規模がデカイなぁ」
「豆腐よ。夏の冷奴、食べたいでしょ?」
マサは大きく頷いた。
「豆腐には、醤油ですね」
「マサは、醤油の作り方、知ってる?」
「ええ、趣味で作ったことありますから…」
いま、いま、なんと言いましたか!
「マサの趣味って?」
「自作です。なんでも作りましたよ。自分で作った方が美味しいですから」
「ああ、デュークさん!」
私の興奮に、デューク、驚く。
「どうした?」
「ねぇ、どこでもいいから、マサのために施設を作ってもいいかしら?」
「どんな施設だ?」
「絶対に、商売に繋げるから、ルミナスに損はさせないから。土地だけでいい。建物や諸費用はハイヒット商会に出してもらうから」
瞳ウルウル、マックス状態です。
もう、絶対に私には逆らえないでしょ?のポーズですよ。
「お願い?」
「か、カナコ、おまえ…」
「うんって、言って?」
力なく、頷くデュークさん。
「好きにしろ。ただし、始動は結婚してからだ。いいな?」
「うん!」
やったよ!夢は広がる。
「マサ、何を作れるの?」
「味噌、麹、豆腐、どぶろく、ビール、燻製、干物。そんなところでしょうか」
「鰹節は?昆布は?」
「うろ覚えですが、その内に」
「日本酒は?」
「なんとか」
「マサ、本当に、よろしくお願いね!」
ハイテンションにもなるってもんだ。
「いや、嬉しいなぁ。今世でやっと趣味が役に立った」
私もだよ。
「私も、もう、胸が躍ってるよ」
「カナコ様、出会えて、本当に良かったです。これからも、よろしくお願い致します」
「マサ、こちらこそ、お願いね。って、大丈夫?この関係、耐えられる?」
「私は前世の記憶を持っていますが、ここで生まれて育った人間です。ルミナスの王家を尊敬して当たり前なんですよ。気にしないでください」
「ありがとう、そういって貰えると、嬉しい」
私、テッド、爺、マサ。
この4人なら、どんなアイディアも形にできる。
そこにハイヒットの販売能力が加われば…。
富国ですな。
そこに、真剣な顔で、デュークさんが釘を刺した。
「雇うにあたって、マサ、俺から一つ命令だ」
「な、なんでしょうか?」
「前世のことだ。誰にも記憶があることを言うな。いいな?」
「しかし、もう既に言ったものもおります」
「それについては、仕方ないとしよう。が、広めないように釘を刺せ」
「はい…」
「もちろん、カナコについてもだ。カナコのことは、絶対に喋るな」
「畏まりました」
やっぱり王様だ。
怖い。
「おまえについては、信用しよう。だがな、妙な真似をしたら、俺は許さんからな?俺はいろんな部下を持っている。心に留めておけ」
すっかり怯えているマサ。
私も、ビビッてしまった。
いつから、暗殺団の団長になったんだ?




