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今日、部屋の幕を強化してみた。
部外者立ち入り禁止だ。
強すぎるから、外の音もこちらには聞こえない。
拙いかもしれないけど、極秘裏な行動だから仕方ないんだ。
だって、豆腐の試作を食べるから。
あれから何度も試作を繰り返している、豆腐。
固さと味がかなり向上してきた。
やっぱり、テッドは優秀だわ。
けれども、豆腐がこんなにも抵抗を持ってルミナスに迎えられるとは思ってもみなかった。
誤算だ。
で、そんな試作の豆腐をジョゼにもお裾分けする。
恐る恐る口にしたジョゼの顔の変化が面白かった。
うん!って顔になってから、パクパクと食べ続けたんだ。
「これが大豆の味ですか…」
ルミナスではあんまり好まれていない大豆だ。
おそらく、枝豆以外の食べ方など知られてはいない。
「ほのかに甘くて、オリーブオイルと塩が合いますね?」
「でしょ?」
「食感も、不思議です」
テッドに言ったことを聞いてみる。
「これ、ルミナスでも受け入れられるかな?」
「そうですね、大丈夫だとは思います。が、大豆だと分かってしまうと、それは、難しいかもしれません」
「家畜の餌だから?」
そうなんだ。
大豆は家畜の餌として栽培されている。
それを人間が食べるなど、信じられない!って事だ。
それは食べず嫌いだから食べればわかるよ?ってレベルではないんだよ。
そんなものを食べるなんて人間じゃない、って軽い軽蔑が入るレベル。
それを食すどころか、生産して売ろうって言うんだから、無謀かもしれない。
けどね、大豆は育ちやすいんだ。
ある程度の保存もきくし。
いや、なによりも、美味しくて健康にいいんだよ?
気軽に買って食べたいじゃん!
「そうです。ルミナスの人間は、特に地上の人間は、保守的ですから」
ここでも地上と地下問題が出てくる。
地下の人間は意外に新しいものを作っている。
受け入れることに問題がない気質なんだ。
電気も隅々まで通っているし、地上と変わらない明るさを保っていられるくらいの電球もある。
けれども、地上の人は今までの習慣を変える事には抵抗を感じるようだ。
「美味しいから、では、難しいね」
「そうですね。けれども、私は、また食べたいです。テッドに頼めば作ってくれますか?」
「2日程掛かるから、早めに言ってあげてね?」
「ええ」
なんだ、ジョゼ、気に入ったんだ?
そうだ!
ちょっと、閃いてしまった。
「これね、トーフって言ってね、美容に良いんだよ?」
「美容に?」
「そう、お肌の張りに良い成分が沢山入っているんだ」
ちょっと、誇張した?
まぁ、いいじゃん。
「カナコ様、それを早く言ってください。そうなれば話は別です」
「やっぱり、そう?」
「女性は美容にいいと聞けば、試さない筈がないでしょう?」
「そうだよね?うん、商品化に向けて、ハイヒットに相談するよ」
「お願い致します」
なんだ、ジョゼも綺麗になりたいんじゃん。
ザックの為か?ご馳走様です。
どこの世界も、美容にいいものは直ぐに受け入れられるんだな。
その時だ。
ドアが勢い良く開いた。
何事か、と私達は振り向く。
けど、私の幕の中に入ってこられる人間は、ルミナスに1人だけ。
「俺だ」
デュークさんだけだ。
けれども、様子が変なんだ。
今朝は赤紅色だった瞳が濃銀になっている。
なにがあったの?
「ジョゼ、悪いが、外してくれ」
「はい、失礼致します」
「すまない」
ジョゼは何事もなかったように、部屋を出た。
2人きりになると、デュークさんは物凄い力で私を抱きしめた。
言葉も出せないくらいに、痛いほどに、抱きしめられた。
私は無言で、そのままで、いた。
どれくらいの時間が経ったんだろうか。
ようやく、その力が緩むと、今度は深い口づけだ。
荒々しい気持ちを抑えてはいるけれど、零れ落ちてくる。
何かトンでもないことが起きたんだ。
それでも…。
ようやく唇が離れたときには、私の理性は外れていた。
「このままで終らせないでしょ?」
どこか寂しげな濃銀の瞳が、答えてくれる。
「いいか?」
「決まってる、でしょ?」
私はデュークさんの手を引いて、寝室へと向った。
今、デュークさんの苦しみを取り除けるのは、私だけだ。
私だけが、デュークさんに触れるんだ。いや、触れてもいいんだ。
ベットの側に来たとき、私から口づけた。
それに応えたデュークさんは、私を抱きかかえながら、そっとベットに寝かせると、とても優しい声で、言う。
「カナコ、愛してるよ」
「うん、知ってる」
「いや、お前が知ってるよりも、深くだ」
「それは、知らなかったわ」
「そうだろう?」
「うん」
両手が私の頬を包む。
こんなに近くでデュークさんを見ている。
息が、私の肌に触れる。
熱さが伝染する。
何度聞いた言葉だろう。
何度言った言葉だろう。
それでも、今言われると、胸がドキドキするんだ。
「カナコ、愛している」
デュークさんの肌には慣れても、この言葉には慣れない。
後、何百回言われても、私はドキドキするに違いない。
「嬉しい…」
首筋に息がかかる。
もっと、触れて欲しい。
指で唇で、私の全てに触れて欲しい。
「おまえがいてくれれば、それだけで、いい」
濃銀で辛いだろうに、デュークさんは優しく愛してくれた。
とても大切に扱ってくれた。
だから、私は何度も応えた。
何度でも、応えたかった。
デュークさんの瞳が赤紅に戻るまで。




