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崩れゆく戦線

 訓練の日々は続いた。

 クセのある大砲である『百五ミリKwk L/28』は、当たれば威力はあるが、着弾がブレるなどの欠点があった。

 独国軍では、それをカバーするのが熟練の砲手の腕で、機械によって手順をシステム化することによって、兵の練度を自動的に底上げするという米国軍の考えたかとは真逆のベクトルをもっている。

 私は『カニ眼』に慣れるように心がけていた。

 実戦経験のフィードバックによって、交戦規定が改正され、適正交戦距離が五百メートルから二千メートルに改められたからである。

 砲手の照準器では捉えきれない情報を、私は砲手に伝えなければならないのだ。

 通信手も艇長、観測手も艇長、誰かが負傷したら、それにとって代わるのも艇長の役目になる。

 指揮官というよりは、何でも屋みたいなものか。ペンギンは小さな世帯だ。小さな世帯は、互いに何でも屋にならないと、運用できないものだ。

 例外は砲手である。求められる技量が特殊すぎて、代用がきかないのだ。

 要するにペンギンの核は、艇長ではなく砲手ということだ。


 座学を終えて、実機を使った研修に第二作戦群が入る頃、一足先に後期型ペンギンを受領していた我々は、だいぶ仕上がってきていた。

 P-03と04は、徹底的にシゴき、行進間射撃はもちろん、偏差射撃といった基本の反復、機体操縦法ではペンギンの生命線になる『フリッパーターン』を体で覚えるほど何度もやらせた。彼らがペンギンから降りた時、立っていられず桟橋でげぇげぇ吐くほど。

 二月も半ばを過ぎ、我々は出撃地を定める命令書……といっても、カタツムリ岩を過ぎるまで中身は読めないが……を、待つばかりになっていた。

 国営放送のニュースは、相変らず景気のいい快進撃をアフリカ戦線、東部戦線で続けていることになっているが、実状は厳しい。

 スターリングラードで、泥沼の戦いをしていた我が国の第六軍十万人は、露国軍の包囲を破ることが出来ず、物資の欠乏もありついに降伏してしまっていた。

 これにより、東部戦線へ予備兵力の殆どを振り向けなければならなくなり、中央軍集団と南方軍集団が辛うじて戦線を支えているという有様らしい。

 アフリカ戦線でも、地中海の制空権を次いで制海権を失った影響で、伸びきった独国軍の兵站線の背後に相次いで上陸作戦が敢行され、チュニジアまで撤退を余儀なくされていた。

 初めて本格的に相まみえた、独国軍機甲部隊と米国軍戦車部隊の戦闘で、戦慣れした独国軍の『パックフロント戦法』が、壊滅に近い形で米国軍を打ち破るなどの局地的な勝利はあったが、ジリジリと戦線は後退し、アフリカ軍団が最終防衛ラインに定めていた『マレス防衛線』まで下がっていたのだった。

 今年の夏まで戦線を維持できるか、微妙なところいうのが、情報部の予想だった。


 反攻作戦に向けて、輸送船団も活発に行動することが予測されていて、もはや通商破壊はペンギン一手にゆだねられたといっていい。

 

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