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閑なアルブレヒト・ホフマン中佐

 なにかというと、「総統閣下が」と言うことで、P作戦基地の将兵には『アドルフ殿』と仇名されている、武装親衛隊中佐で、元・ゲシュタポのアルブレヒト・ホフマン中佐だが、どうも私に目を付けているらしいという噂をバウマン大尉が仕入れてきた。

 理由は、私が風紀を乱しているから……だという。

 私は酒も飲まないし、バウマン大尉のように反抗的な態度はとらないし、操縦手のコンラート・ベーア曹長のように陰口もきかない。実に心外だ。

「何かの間違いじゃないのか?」

 私は情報を仕入れてきてくれたバウマン大尉にそう言ったが、彼はいやいやと首を振った。

「なんでも『服装身だしなみの乱れは精神の乱れ』らしいぜ。いい加減、床屋にいこうよ」

 そういえば、訓練の忙しさにかまけて、髪は伸ばしっぱなしだった。まるで、長期任務から帰ってきたUボートの乗組員のように。

「閑なんだな、あのおっさん」

 バウマン大尉がつぶやく。この基地にはモーリッツ・アーベライン大尉という海軍情報局出身の優秀な情報将校がいて、ゲシュタポ仕込みのアルブレヒト・ホフマン中佐の捜査、尋問の能力は使いどころがないのだ。

 P作戦に予算を獲得するため、武装親衛隊にポストを与えただけというのが、実状である。

「閑なんだよ、エーリッヒ。付け入る隙を作った私も迂闊だったけどね」

 要するに閑をもてあました『アドルフ殿』が、武勲を立てて凱旋した我々を叩くことで、自分が偉いんだとアピールしたいということなのだ。

 猿でいえば、力を示すためのマウンティング行動である。

「困ったなぁ。この港に一軒しかない床屋は、帰還してきた兵士で一杯だからね」

 ヨボヨボの爺さんがやってる床屋は、一日にこなせる人数は3人と言う話だ。丁度、第二作戦群が出撃の準備をする時期でもあり、同時に第一作戦群が帰還している時期でもある。

 出撃するまえにさっぱりしたい将兵と、髭も髪も伸び放題の帰還してきた将兵で、いつ行っても満員なので、つい行くのが億劫になってしまったのだ。

「私が切りましょうか?」

 不意に声がかかった。テレーゼだった。

 私たちは幸運亭の暖炉の前で、珈琲を飲みながら、『アドルフ殿』の話をしていたのだが、通りかかった彼女が床屋に行けない話を聞きつけたのだった。

「弟の散髪も私がやっているんですよ。短く刈り込んだ髪型しかできませんけど」

 そう言って、指でハサミを真似て髪を切る仕草をする。

 私はバウマン大尉と違って、髪型にこだわりはないので、お願いすることにしたのだった。

「それじゃ、準備しますね」

 鼻歌を歌いながら、彼女が部屋の奥に消える。

 にやにや笑いを浮かべているバウマン大尉が私の肩を乱暴に叩いた。

「このやろう。朴念仁かと思ったら、やるじゃない」

 などと言う。急に何を言い出したのか、さっぱりわからない。

「さて、野暮天は消えますか」

 もう一度、私の肩を叩いて、バウマン大尉が部屋から出て行く。

 私は謎かけは得意ではない。

 意味がわからなかった。

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