フレッチャー級駆逐艦との殴り合い開始
最初にP-07と砲撃を交わしたウィックス級駆逐艦レイブン号は、まだ火災を鎮火できずにいた。
正体不明の我々に勇敢にも接近を試みたウィックス級駆逐艦ストックトン号は、喫水線の損傷が大きくなり浸水によって船体が傾き始めている。
穴を塞ぐ応急処置と排水作業で、一時間は行動不能になるだろう。我々の目的は撃沈じゃない。足止めだ。結果はこれで十分だろう。
うるさかったカタリナは幸運なことに一機を撃墜出来た。もう一機にも手傷を負わせた。エンジンを撃ち抜いたのだ。戦線への復帰は難しいだろう。
ストックトン号から大きく距離をとる。
大回りして、火災を起こしたレイブン号と輸送船団の前に出て、盾になっているフレッチャー級駆逐艦ラ・ヴァラッド号とサシでの殴り合いをしなければならない。
極夜のバレンツ海に、殷々と砲声が響く。他のペンギンも戦っているのだ。P-07の機体は傷だらけだが、まだ致命傷は受けていない。まだ、戦える。
Uボートの雷撃が始まるまで、我々は護衛駆逐艦と砲火を交え続け、注意を引きつけなければならないのだ。
二千メートルの距離を保ち、敵の主力フレッチャー級駆逐艦ラ・ヴァラッド号に挑む。
最新のレーダー測距儀と新技術の射撃指揮システムを搭載したラ・ヴァラッド号の照準は正確だ。
対して我々は、小さな機体をもっと小さく見せるためと、厚い正面装甲を向けるために、常にラ・ヴァラッド号に機首を向ける事としていた。
我々の幅は五メートル。機体の左右のフロート兼シュルツェンを除けば、本体は三メートルだ。
高さは、砲塔も入れて海面上に出ているのは二メートルもない。
いかに精度を誇る最新装置でも、二千メートル先のこんな小さな的に当てる事は出来ない。
しかも、P-07は、前進と後退と斜めスライドといった変則的な動きを繰り返す事で的を絞らせないようにしている。
高速で動く航空機の到達する進路を予測して、偏差射撃に最適な地点を計算する射撃指揮システムは、ペンギンほどの速度で、自在に動き回る標的にするように設計されておらず、有効に機能しているとは言えないようだった。
しかし、レーダー測距儀の測量は正確で、距離は合わせてくる。
五門もある三十八口径五インチ砲の砲弾は、ペンギンを中心に百メートル以内の着弾が多く、艦対艦砲撃なら恐ろしいほどの命中率を誇るだろう。
当たらないのは、ペンギンが小さすぎるからだ。
面倒なのは、ボフォース四十ミリ機関砲L/60だ。距離を合わせると、弾をばら撒いてくるのだ。五百メートルというペンギン設計当初の最適攻撃距離の場合、正面装甲でも弾けるかどうかの機関砲弾だ。
念のため二千メートルまで距離をとったのは正解だった。




