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防備を剥がせ

 遠くから七十五ミリKwK L/48戦車砲の砲声が聞こえる。我々に近い配置場所のP-09が砲撃を開始したのだろう。

 カタリナの機首のブローニングM1919がペンギンを追い抜きざま、掃射を加えてくる。反動の大きいブローニングAN/M2より、集弾性の高い三丁の機銃を真上から叩き込んだ方が効率がいいと理解したのだろう。

 ジグザグに走る。何発かは当てられたが、装甲で弾くことはできたようだ。

 ターンをする。束の間、機体が安定する。七十五ミリ砲が発砲するのはそのタイミングだ。

 フレッチャー級駆逐艦、ラ・ヴァラッド号は深追いしてこなかった。

 我々と殴り合った結果、火災が発生し、消火活動をしているウィックス級駆逐艦レイブン号を庇うかのようにその前に出て、間断なく砲弾を送り込んで来る。

 フレッチャー級駆逐艦の主砲、三十八口径五インチ砲の有効射程距離はおよそ十五キロメートル。二千メートルは近距離射撃の範疇だ。

 我々は、ラ・ヴァラッド号を釣るのをあきらめ、全速で我々に接近を続けるウィックス級駆逐艦ストックトン号に標的を変えた。

 レイブン号を叩き続けていた榴弾から、徹甲弾に切り換え、千五百メートルほどに距離を詰めてきたストックトン号の船首に照準を定めた。

 連装二十ミリFlak C/30機関砲がうるさく飛び回るカタリナを牽制していた。

 海面が沸騰したかのように小さな水柱が乱立するのは、ラ・ヴァラッド号のボフォース四十ミリ機関砲L/60が射撃に参加したから。

 砲塔の側面のシュルツェンを段ボールのように貫通し、砲塔に当たって火花を散らし、鈍い音を立てながら空中に跳弾していった。まぐれ当たりの一発だ。

 砲塔内部では、その衝撃を受けてペンキと結露の水滴がバラバラと砲手のクラッセン軍曹の上に降りかかり、彼は苛立った犬の様に唸った。

 ボフォース四十ミリ機関砲L/60の有効射程距離は七キロメートルと長い。初速が早く貫通力もあるので、至近距離だとペンギンの装甲でもスポスポ貫通してしまう。

 P-03と04も砲撃を開始した。

 輸送船団と護衛艦隊と我々を上空から俯瞰すれば、足の遅い輸送船団をガードするように護衛艦隊が周囲を固め、その外側に半円を描いてペンギンがいるという図式に見えるだろう。

 ペンギンは、護衛艦隊に砲撃戦を挑みながら、徐々に護衛艦隊と輸送船団を引き離してゆき、どこかに潜んで機をうかがっているUボートに攻撃の隙を与えなければならない。

 やっと、ウィックス級駆逐艦を一隻炎上させ、一隻釣り上げたところだ。

 まだ、防備は固い。たった五隻のUボートでは接近すらできないだろう。

 P-08が、戦列に参加したカタリナとの交戦を開始した。同時に、グリーブス級駆逐艦リヴァー号とウィックス級駆逐艦コナー号を引っ張り出すことに成功する。

 実戦慣れしたP-08が、カタリナを引き受けたことは、いい材料だ。

 まだ海上で砲弾を撃っていないP-03、04、09だと、カタリナと対艦戦の同時進行はキツいだろう。

 砲撃を続けている砲身から水蒸気が上がっていた。降りかかったバレンツ海の飛沫が過熱する砲身に触れたのだ。

 プロペラ音がする。二方向から。カタリナの増援はP-07を標的に選んだらしい。

 上空から、斜めに下降してきて、真後ろにつく。機首のブローニングM1919とペンギンの連装二十ミリFlak C/30機関砲が銃火を交わす。

 ペンギンの船尾のシュルツェン兼フロートに数発が命中し、金属の打撃音が響く。

「こなくそ!」

 食いしばった歯の間から、罵り声を絞り出して、操縦手のベーア曹長が舵を切る。

 小さな水柱の列はP-07の左舷側に逸れ、カタリナは高度を上げながら我々の上を走り抜けてゆく。

「気を抜くな! フリッパーターン!」

 私が叫ぶのと、カタリナから爆雷が転がり出てくるのは同時だった。

 船舶ではありえないV字の軌跡を描いて、ペンギンが走る。直進していたら丁度到達していたであろう地点に巨大な水柱が立った。

 潮風に火薬の燃焼する匂いが混じる。さぁっと霧雨の様に吹き上げられた海水が降ってきた。

 横波を受けて、P-07がふらつく。必死に操縦手のベーア曹長が機体の体勢を立て直そうとしていた。

 私はキューポラに叩きつけられ、双眼鏡を落としそうになった。鉄兜を被っていなければ、私の頭はバックリと割れていただろう。

 あの、揺れでどうやってバランスを取ったのか、機銃手のバルチュ伍長が引き金を引き続けていた。

 赤いキャンディのような曳光弾が、爆雷を転がり出したカタリナの後部ゲートに吸い込まれてゆく。

 カタリナは、グラっと傾いたまま、飛ぶ。

 バルチュ伍長が追い打ちをかける。カタリナの尾翼の一部が、はじけ飛ぶのが見えた。


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