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包囲完成

 四機のペンギンはまだ沈黙を保っている。時計を見る。蛍光塗料がついた腕時計の針は、戦闘開始からわずか五分しか経過していないことを示している。配置につくまで、P-07は持ちこたえなければならない。多方向から一斉に砲撃を加えるのが、寡兵である我々が採れる少ない選択肢の一つ。

 私の計算ではあと五分ほど。それで、ペンギンたちは配置につくはずだ。

配置についたら、無線封鎖を破る。HF/DFは、次々とペンギンの位置を感知するだろう。

 護衛艦隊はUボートの『群狼作戦』を連想するはずだ。何隻かでチームを組み、自信満々で撃沈にくる。それを遠距離から砲撃戦を挑む。

 最低でも釘づけし、出来れば損傷を与える。状況は無線を通じてUボートが受信し、効果的なタイミングを見計らう。

 ペンギンの役目は、護衛艦隊という鎧を剥ぐこと。それでUボートの活躍の余地を作ってやることだ。


 我々P-07はカタリナ一機、駆逐艦二隻を相手に孤軍奮闘している。重大な損傷は受けていない。

 重大な損傷を受けた時点でP-07は終わる。火力も装備も相手の方が上なのだから。

 艦名不明の駆逐艦から炎が出た。のらりくらりとストックトン号を躱しながら、更に三発の命中弾を浴びせていた。

 そのうちの一発が煙突の下の燃料タンクに損傷を与えたのかもしれない。

炎に照らされてナンバーが見えた。

 ウィックス級駆逐艦レイブン号。我々と遠距離から殴り合っていたのは、レイブン号だった。

「標的変更、ストックトン号を叩く」


 炎上するレイブン号の影から、ぬっと表れたのは一回り大きな艦影だった。この護衛艦隊の主力、フレッチャー級駆逐艦だ。

 赤い炎に照らされたナンバーからみると、ラ・ヴァラッド号だと知れた。

 大きな図体のくせに、ウィックス級駆逐艦より早い。最大速度は三十七ノットもある。

 ウイックス級二隻の苦境に出張ってきたのだろう。

 これで、鎧は更に一枚はがれた。上出来だ。

 三十八口径五インチ単装砲が五基。これがフレッチャー級の備砲だ。

 ラ・ヴァラッド号は、我々を視界に捉えるや、すぐに撃ってきた。小癪な小型艦にイラ立っている証拠だった。

 ストックトン号は、ラ・ヴァラッド号と十字砲火を加える位置に移動しようとしている。我々は、そうさせまいと、ラ・ヴァラッド号の射線の間にストックトン号を挟むように動きながら、距離をとっていた。

 着弾されて、上空に避難していたカタリナがまた高度を下げてくる。

 どうしても先んじることが出来ないことに苛立ったストックトン号が砲撃を加えてくる。レイブン号の様に静止しているならともかく、動きながらではこの小さな的であるペンギンには当たるはずがない。

 カタリナの機銃の斉射。加速して逃れる。P-07に二十ミリ機関砲の反撃は、バンクして逃げた。

 立て続けに艦砲射撃の音が響く。周囲百メートル以内に水柱が立つ。ペンギンが駆逐並みのサイズなら、何発かは当たっていただろう。

 だが、我々はまだほぼ無傷で生きている。七十五ミリ砲を撃つ。ストックトン号の舷側に火花が散った。

 もう少し着弾が低ければ、喫水線を貫通出来たのだが、惜しかった。射撃の直後に舵を切る。このまま、P-07が同じ進路で進んでいたら直撃だっただろう場所に水柱が立った。

「P-08、配置についた。砲撃を開始する」

 無線封鎖が破られた。HF/DFがP-08の位置を割り出しているだろう。

「P-09、配置につきました。砲撃を開始します」

 続いて、ボーグナイン少尉の声がした。P-08とは違った場所からの通信。護送船団は、次々と入ってくる情報に、対応を急いでいるころだ。

 寡兵を大勢に見せる小細工だが、敵は引っかかってくれるだろうか。

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