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敵影見ゆ

 我々は全員小屋を出た。少なくともこれから十時間以内には、警戒線のどこかに輸送船団がひっかかるはずだ。

 極夜の薄闇の中、P-03とP-04が桟橋から離れて行く。

 P-03のキューポラからは艇長のヌーバーク・ヘンセン少尉が、04からは艇長のカルヴァン・ランツクネヒト少尉が、我々に敬礼しつつ持ち場に向かってゆく。

 続いて、P-09のボーグナイン少尉が敬礼を送りつつ出て行く。

「アルフレード、俺もいくよ。幸運を」

 P-08のバウマン大尉が、そういって去ってゆく。

「君たちに幸運を」

 私は数秒祈り、機内放送用のマイクに言う。

「エンジン始動。持ち場につけ」

 神様、彼らに祝福を。


 私と機銃手のバルチュ伍長は、水を被ることを警戒して、防水用のフード付きコートを着用していた。

 機内にいる三人はともかく、開けっ放しのキューポラの私や、露天銃座の機銃手は、砲撃の水柱や旋回時の水しぶきがふりかかる恐れがある。

 夏場ならともかくこの季節、水を被れば低体温症になるし、凍傷にもなる。他の機も同じようにフード付き防水コートを艇長と機銃手は着用しているはずだ。

 暗視双眼鏡を覗く。私の後ろの銃座では、機銃手のバルチュ伍長が双眼鏡で周囲を警戒しているはずだ。

 極夜なので、煙突の煙は目印にならない。その代り、艦隊行動を密集した状態で行うので、最小限の照明をつけている場合が多い。

 それを探すのだ。護衛艦隊の指示を無視して、煌々と明かりを点ける反抗的な商船乗りも多い。

 全く言うことを聞いてくれない徴用商船の愚痴を、駆逐艦乗りになった予備役仲間から聞いたことがある。

 これは、英国も独国も米国も同じらしい。

 寒風吹きすさぶバレンツ海。鋼鉄のペンギンの機体は白く凍りつき、近々という凍結の音を立てる。

 時折、細かく砲塔が動くのは、砲塔用の転輪が凍結するのを防ぐためだ。この点は、他の砲手にうちの砲手のクラッセン軍曹が注意喚起していた。今回の作戦のキモは砲撃戦。肝心な時に「砲塔が動きません」では目も当てられない。

 極夜の闇に灯りを探す。少なくとも、Uボートを警戒して短波レーダー搭載の哨戒機の飛行艇『カタリナ』は飛ばしているのは確実だ。Uボートの脅威は英国、米国にとってトラウマに近いものがあり、だからこそ技術の粋を集めて対潜技術と戦術を練ってきたのだ。

 哨戒機『カタリナ』の探照灯が見えるか、エンジン音が聞こえるはずだ。

 空を見上げる。ここ数日、オーロラは見えなかった。極夜は、オーロラが最も良く見える季節だというのに、装填手のバルムガルテン一等兵はよっぽど普段の行いが悪いらしい。

 強風に吹き払われて、暗天に広がる雲の隙間から星が見える。

 はっと胸がすくほどの美しい星空だった。

 星が流れる。流れ星かと思ったが、それがカーブしたのを見て、私は思わずマイクを鷲掴みにしていた。

 通信機のスイッチをひねる。無線封鎖を破る時は今。

「敵影見ゆ! 敵予測ポイントB-8! 各機戦闘態勢に入れ!」

 P-03、04、08、09は、私のこの無線連絡を聞いただろう。

 この海域のどこかに潜むUボートもこれを受信したはず。

 そして、敵の護衛艦隊のHF/DFも、無線の発信源を割り出している。

「全速前進! 取舵10ポイント!」

 哨戒機の灯火が見えた方向に走る。海図は頭に叩き込んである。哨戒機は艦隊の前方数キロメートル前方を探査する。

 輸送船団が進行してきた方向、向かう方向、カタリナの位置、それらを総合すると、海図上のおおよその地点が類推できる。

 無線封鎖を破った今、護衛艦隊が我々の方向に舵を切ったはず。

 クラッセン軍曹が、砲塔の作動を確認していた。

 ベーア曹長は、肩を回してリラックスしようとしている。

 バルムガルテン一等兵は、砲弾庫か砲弾架に七十五ミリ砲弾を移している。

 私の後ろで、バルチュ伍長が、連装二十ミリFlak C/30機関砲の弾帯をはめ込む作動音をさせた。

 私は軍帽を脱ぎ、鉄兜を被った。

「くそヤンクスに思い知らせてやれ」

 無線に向かってしゃべる。

 さあ、割り出せ。我々はここにいるぞ。

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