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集結したペンギン

 P-09がベア島に到着した。

我々より二日遅れの到着だった。若い艇長が多いペンギン部隊で、P-09の艇長は最年少の部類に入る。

 エルネスト・ボーグナイン少尉。それが彼の名前だ。僚機のP-10が故障したことにより、哨戒任務しかこなしたことがなく、まだ備砲を撃ったことがないらしい。

 それだけに、今回の任務への抜擢に張り切っており、極寒のベア島の強風も気にならないようだった。

「華々しい成果を上げた『幸運の七番』とご一緒出来るのは光栄であります」

 そういった、ボーグナイン少尉の顔にも無精ひげが覆っていたが、ひょろひょろとした細い赤毛で、かえって幼く見える。いきがった高校生がバンカラを気取った様にしか見えないのだ。

「ここでは、『です』『あります』は、無しでいい。糞寒い最果ての地だぜ。余計なエネルギーは使うな。ちょび髭伍長殿への賛辞も省略でいい」

 温かい珈琲を勧めながらバウマン大尉が言う。言葉づかいだけを見れば、うちの砲手のクラッセン軍曹など、上官への不敬でとっくに営倉送りだ。

「アルブレヒト・ホフマン中佐はおらんしな」

 誰かが、犬の鳴きまねをする。多分、うちの機銃手のエーミール・バルチュ伍長だ。どうも、うちは不敬な人物が多すぎる。

「ああ、ウド・ブフナー忠犬軍曹もね」

 やっと、ボーグナイン少尉が笑った。笑うとやはり少年のようだった。士官学校を出て、すぐペンギンに抜擢されたのだろう。

 私は、砲弾の直撃で肉片すら残らなかった哨戒艇副長のミヒャエル・ヤンセン少尉を思い出し、チクリと胸が痛んだ。

 私より若い連中が死ぬのを、もう見たくない。オーロラを見たがっている装填手のバルムガルテン一等兵も、皆。いっそ、私が死んだ方がましだ。


 ボーグナイン少尉は小屋に留まり、『トロールの投石』作戦の概要を噛んで含めるように説明した。

 ペンギンは作戦行動をとるといっても、めまぐるしく状況が変わるので各艇が自由裁量で動かねばならず、そういった意味では艦艇というより戦闘機の戦い方に似ているかもしれない。

 さらに、ペンギン内部でも、艇長の指示に頼らず砲撃・装填・操縦を行うケースも多く、事前のミーティングが欠かせないのだった。艇長は選択を迫られた時の道標。それくらいに考えれば丁度いい。

「二千メートルの砲撃戦……」

 まさかこんな作戦を考えていたとは思わなかったのか、ボーグナイン少尉が考え込む。交戦規定を堂々と破ることに二の足を踏んでいるのだろうか?

「わかりました。実戦を経験されたお二方に私は従います」

 ボーグナイン少尉の逡巡は一瞬で、すぐに覚悟を決めた。自説に固執しないのは、いい指揮官の条件だ。

 彼は、この実戦をくぐれば、一皮むけるだろう。

「早速P-09に戻り、周知徹底してきます」

 ボーグナイン少尉はさっと敬礼をし、小屋を出て行った。


 極夜で時間の経過がわかりにくいが、この日の夕方に当たる時間、P-03とP-04が到着し、『トロールの投石』作戦に参加するペンギン五機がそろった。

 折しもHX-577輸送船団は、グリーンランドの制空権を離れ、バレンツ海まであと三日の位置にいることが確認された。

 露国に差し伸べられた米国の手を切り落とす。

 われわれ、鋼のペンギンが。不屈のUボートが……。

 

 

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