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ペンギンの採るべき戦法は

 小屋の中で暖を取り、ラジオを介して刻々と入る輸送船団の情報を集積しながら、我々は主に砲手との打ち合わせに時間を割いた。

 今回の襲撃計画のキモになるのは、砲撃戦。遠距離で艦砲射撃と殴り合うことになる。距離による貫通力の減衰がQF2ポンド砲に比べて小さい、ボフォース四十ミリ機関砲も二千メートルの距離では、ペンギンの正面装甲はともかく、側面や背面の装甲では油断できない。

 全長百二十メートルあまりのフレッチャー級駆逐艦が三十ノットで移動していると仮定して、二千メートルの距離で砲撃する場合の精度や弾道計算、そういったものが予め想定を立てておかないといけない。

 ペンギンには、レーダー測距儀もなく射撃管制装置もない。あるのは、熟練の砲手による経験に基づく手動による微調整のみ。

 海戦では時代遅れであろうとも、固定式の大型双眼鏡の設置を提案するべきだった。相手は大きな的であるという油断が設計段階からあったということだ。

 敵の機関砲の性能、レーダー測距儀や射撃管制装置の発達を考慮に入れなかった我々のミスだ。

 だが、幸いにして、東部戦線、北アフリカ戦線で戦った歴戦の砲手を我々は有している。使えるカードは全て使う。寡兵をもって圧倒的な敵に立ち向かうには、無駄な物などなにもないのだ。

 幸いにして、今まで出番が殆どなかった機銃手だが、今回はそうもいかない。最低三機の航空機が哨戒に当たってくるのだ。

 従来の様に、カタパルトから射出して燃料が尽きるまで飛び、着水して航空機は廃棄……などという、乱暴な艦載機ではない。海面を滑走路に出来る飛行艇がそれで、折りたたみ式のフロートを持つ最新鋭の機体だ。

 PBYと呼ばれる機体で、海軍用に銃座が作られたものをPBY-1と呼ぶ。愛称は『カタリナ』という。

 『パラソル配置』という主翼が胴体から離れた高翼単葉の独特なフォルムで、その主翼に双発のエンジンが積まれている。

 鈍重に見える図体にかかわらず、意外に機敏で、最高速度は時速二百八十キロメートル。さすがに戦闘機とドックファイトはできないが、哨戒機として艦船を追尾・攻撃するなら十分だ。

 爆弾を千八百キログラムまで搭載できるので、対潜雷撃樹としても機能出来る。七.七ミリ機銃弾を撃ち出す中機銃『ブローニングM1919』を機首に三丁、胴体後部左右にに十二.七ミリ機銃弾を撃ち出す重機銃『ブローニングAN/M2』を各一丁装備しているので、Sボートなどの小型高速艇にも対処できる。つまり、こうした船団に随伴しての行動は最適な機体だ。

 今回の標的、HX-577輸送船団には、三万トンクラスの大型貨物船、第二ロイヤル号・ボストン号・ヘカテ号の三隻が含まれており、後部甲板を露天駐機場に改良して、カタリナを輸送している。

 有事の際には、クレーンで海面に降ろし、そこからカタリナは出撃する。

 『軽空母随伴の輸送船団』という考え方で、今後のモデルケースとなる実地実験も兼ねているらしい。

 フェアリー・ソードフィッシュに続く、面倒な敵の登場だ。

 機銃手はこれと戦うことになるだろう。初速の速い七.七ミリ機銃弾は弾丸重量がないので、距離があれば装甲ではじくことが出来るかもしれないが、至近距離なら、薄い上面装甲は危うい。

 胴体後部のブローニングAN/M2重機銃はやっかいだ。第一次世界大戦末期から使われ続けているM2機関銃の航空機搭載バージョンで、威力、信頼性とも折り紙つきの名銃だ。

 木造のSボートはひとたまりもないだろう。ペンギンも、上面装甲ならスポスポと貫通してしまう。至近距離なら、正面装甲だって危うい。救いは、反動が大きいため、命中精度が悪い事ぐらいか。

 精密な艦砲射撃、航空機、その両面に気を配りながらの行進間射撃。ペンギンの採るべき戦法はこれしかなかった。

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