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ベア島 上陸

 昼間、諾海を抜けバレンツ海に入った。

今の時期この海域は『極夜』といって、殆ど陽が昇らない日が続く。おおよそ一月後半あたりまでは、ずっと薄暗いままだ。

 航空機には不利な時期で、こっそり航行しようとするペンギンには有利だった。予想はしていたが、哨戒機は全く見かけず、太陽が見えない薄闇の昼間を我々は走っていた。

 僅かに明るい薄闇も、正午を回る頃には夜と変わらなくなり、六分儀で位置を割り出すことが出来ないので、遠くに見える諾国の北部、フィヨルドで浸食された複雑な海岸線を目印に、ベア島が存在する角度を割り出しながら、航海を続けていた。

 『北岬』という、そのままの名前の諾国北端の岬が見えると、我々は東北東に転針し、ベア島を目指した。


 かつて、炭鉱があったベア島だが、現在は無人島になっている。我々は、岩場にペンギンを隠し、武器庫から小銃と短機関銃を出して、ベア島に上陸した。

 荷揚げと物資搬入に使われた港がまだ残っていたので、ゴムボートを組み立てて上陸したのだった。

 Kar98Kライフルを背負った、装填手のバウムガルテン一等兵が、身軽に桟橋に上がり、ゴムボートを引き寄せる。

 続いて、世界的に有名な独国の短機関銃MP40を背負った砲手のクラッセン軍曹が桟橋に体を引き上げた。MP40は、戦車にストックを折りたたんだタイプの物が装備されているそうで、使い慣れているらしい。

 機銃手のバルチュ伍長もMP40。私は拳銃のワルサーP38を久しぶりに腰につるした。ベーア曹長はP-07に残って留守番をしている。

 P-08は、バウマン大尉と砲手のクリストフ・ボーデンシャッツ伍長、装填手のクリストフ・ブック伍長が同行していた。

 同じクリストフで紛らわしいが、綴りが異なるので、ボーデンシャッツ伍長を『Fの方のクリストフ』、ブック伍長を『PHの方のクリストフ』と、P-08の乗組員は呼んでいるらしい。

「まだ、揺れてるみたいっすね」

 戦車乗りであるクラッセン軍曹が言う。長い間、船に揺られ続けてそれに慣れると、陸に上がった時に脳が「まだ揺れているはずだ」と勘違いしてしまう。これを船乗りたちは『陸酔い』と呼んでいるのだが、なるほど、我々では当たり前すぎて考慮に入れていなかった。

「諸君らはここで待機。バウマン大尉、一緒に来たまえ」

 私は、ホルスターから拳銃を抜き、初弾を薬室に送り込みながら言った。

 足元がふらついている戦車乗りたちでは、万が一の時に不安だ。ならば、『陸酔い』が慣れている我々が動くべきだろう。


 懐中電灯で足元を照らしながら、かつて炭鉱の職員や工夫たちが歩いていたであろう海岸から島の中央部に向かう小道をたどる。

 ベア島は面積百七十八平方キロメートル。ここにはホッキョクグマが生息しているらしいが、この暗闇で出会うのは勘弁してほしいところだ。九ミリパラベラム弾では、仕留められないだろうから。

 今は無人の観測所が見えた。灯りはついていない。歩いてきた小道も、雑草が生えていて、人がしばらく通っていないことがわかった。

「今日は大地の上で眠れそうじゃないか? エーリッヒ」

観測小屋に向かいながら、私はバウマン大尉にそう話しかけたが、返ってきたのはため息だった。

「おいおいおい、アルフレード……気が付いたら、ホッキョクグマの腹の中とか、冗談じゃないぜ」

 私は、ワルサーP38を空に向け、二発撃った。

 恐々と周囲を見回していたバウマン大尉は、文字通り飛び上がるほど驚き、悲鳴を上げた。いつもタフガイ気取りのバウマン大尉だが、クマが苦手らしい。

「これで、クマ公は寄り付かないだろうよ。さて、小屋を見てみようか」

 

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