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凍てつく海を走る

 風待ちで接岸しようとした船を、岸壁からトロールが投石して追い払ったという伝説がフグロイ島にはあった。

 船を追い返したという部分の縁起がいいので、採用した作戦名だった。適当につけた名前だが、改めて見るといい作戦名のような気がしてきた。

 果たして、我々ペンギンたちの投石は、輸送船団を追い返す事が出来るだろうか?


 極寒の海をペンギンは走る。

たまに、流氷があるので、暗視双眼鏡による不断の監視は必須だ。

 凍傷を防ぐため、私は顔をマフラーで巻き、防寒用の毛糸の帽子を被って、その上に鉄兜を被っている。

 ゴーグルが無ければ、目も開けられないほど空気は冷たく、吹き抜ける風は剃刀の様だった。

 パリパリと音がするのは、私の吐息で湿ったマフラーが凍る音。キューポラも砲塔も白く凍りついていて、素手で触ればくっ付いてしまい、大変なことになるだろう。

「砲塔は動くか?」

 私が言うと、砲手のクラッセン軍曹が、砲塔を回転させるハンドルを回す。ついで、砲身の仰角を変えるハンドルを回した。

「まだ、大丈夫っすね。でもまぁ心配なんで、定期的に動かしますぜ」

 海のうねりが変わった。諾国海盆に入ったのだろう。海嶺や大陸に囲まれた平らな海底の盆地を『海盆』という。

 ここは、横の海流に加え、冷たい深海から太陽で温められた海面との間で対流が起き、縦の海流とも言うべき流れがある。

 Uボートがこの対流に巻き込まれると、深海に引きずり込まれ脱出出来なければ圧潰という結果になる。

 ベア島まで、補給のために『乳牛』が来てくれるらしいのだが、またあの練習艦なら、訓練生は貴重な体験をすることになる。


 五十ノットの快速で、ペンギンは走る。

 何もない海だ。荒れた海面だが、妙に静かな海に感じるのは、ここが最果てのうみだからだろうか。ベア島があるバレンツ海は、もう北極海と隣接している。

 海底と水面の対流によって、プランクトンが豊富でいい漁場なのだが、哨戒機にみつかると、スパイ船と勘違いされて銃撃をうけるので、漁師もなかなか海に出ない。

 そもそも冬は命知らずの蟹採りの船以外、こんな危険な海には出ないのだ。

 人目につかないのは幸いだ。ペンギンの襲撃の話は、英国海軍を通じて米国海軍にも伝えられ、情報共有しているだろう。

 そのうえで、前回我々が襲撃したコースとほぼ同じコースをあえて通ろうというのだ。それ相応の備えがあると考えていい。

 監視の当直を機銃手のバルチュ伍長と交代する。

 操縦手のベーア曹長は装填手のバウムガルテン一等兵と交代した。

 我々はたった五人でこのペンギンを操作している。全員が他の仕事をこなせるように、訓練を受けているのだ。

 テントは使えないので、操縦手席の横、機銃手の待機場所のベンチにベーア曹長が横になり、私は砲弾庫と食糧庫の防水ケースの上に横たわった。

 砲手のクラッセン軍曹は、砲手席を目いっぱい後ろに倒して、窮屈な姿勢で眠っていた。

 ベア島までは遠い。一昼夜走り続けなければならない距離だ。輸送船団からはかなり先行しているが、これでバレンツ海のどこを通っても、我々の手がとどくことになるのだ。

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