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作戦名『トロールの投石』

 夜のうちにフェロー諸島を北上する。

目指すのはバレンツ海にうかぶ絶海の孤島、ベア島だ。

 ホッキョクグマが生息しているので『ベア』島ということらしい。歴史は古く、十八世紀後半、独逸帝国の探検家がこの島を発見、領有権を主張したが帝政露西亜と干戈を交えた因縁の島でもあった。

 それから二百年を経て、独逸帝国の末裔が、帝政露西亜を滅ぼして露国を作った者たちを助けようする補給船団を襲う足がかりにするのだから、因果なものだ。

 バウマン大尉と話し合った事柄を、頭の中で反復する。米国の駆逐艦は、英国のくたびれた駆逐艦や、漁船を無理やり改造した代用兵器とは異なり、初めから戦艦として作られたものだ。

 エンジンの性能も良く、一線を退こうとしているウィックス級駆逐艦でさえ、三十五ノットもの高速を叩きだす。これが、確認されているだけでも百隻以上就役しており、その三十隻余りがレンドリース法によって英国にも譲渡されている。

 対潜戦闘のベテランである英国海軍では、このウィックス級駆逐艦はタウン級駆逐艦となり、四本煙突の特徴的な外見から『フォーパイパーズ』と仇名されているらしい。

 速度を重視した結果、船幅は最大九メートル程度と細く、荒れる大西洋では居住性が極端に悪く『ニシンのはらわた』という蔑称まであった。

 二軸推進のシャフトであるが、回転方向が同じということもあり、操舵手からも扱いにくいと嫌われ、あまり評判の良い艦艇ではないようだ。

 こうしたウィックス級の欠点である航洋性が船体の大型化によって改良され、最も完成された駆逐艦と言われたのが、フレッチャー級駆逐艦だ。

 排水量は二千五百トンもあり、ウィックス級の約二倍ある。昨年までの建造計画では百七十五隻という数が噂されており、他の艦級の駆逐艦と合わせれば、

「米国の駆逐艦は、毎日一隻づつ生まれる」

 という独国海軍ジョークは、あながちジャークはではないのかもしれない。

 これらの艦が大量投入されれば、Uボートも、Sボートも歯が立たない。

 こんな時こそ、湾の奥で震えているポケット戦艦や大型戦艦の出番なのだが、出しゃばれば、敵航空部隊による集中攻撃で、軍隊蟻に集られる大型甲虫のような目に合うのだろう。

 ペンギンのような珍兵器に頼るのも、むべなるかな。


 我々は、護衛艦隊の鼻面を引きずり回して、防備に穴をあけるのが主目的だ。フラワー級コルベット艦のような鈍足なら、それも可能だが、三十五ノット以上の高速を誇る最新鋭の駆逐艦には通用するだろうか?

 そこで考えたのが、徹底したアウトレンジによる砲撃戦だ。

 交戦規定の四倍である二千メートルの距離を保ったまま、殴り合ってはどうかという作戦だった。

 相手は、全長百二十メートルもある大きな的だ。遠距離で殴り合うなら、ペンギンにも勝機はある。幸いにして、三隻の増援もあった。

 これらが分散して、輸送船団を中心とした半径二千メートルの輪を作り、外側から叩くのだ。

 追い払うため、当方を追跡してくれば、防備に隙間が出来るわけで、その際はUボートの出番だ。

 我々は無線封鎖を破って、一方通行で敵駆逐艦の位置を放送する。Uボートはその無線を受け取って、位置に着き機を見て雷撃を開始する作戦だった。

 通信を発信しなければ、UボートはHF/DFに補足されない。

 短波レーダーは、潜望鏡すら発見できるが、流木にに艤装したケーブル型の受信アンテナは発見できない。

 Uボートとは一切交信できないが、そこは彼らの歴戦の経験に任せるしかない。

 とにかく、かき回す。逆に言うと、状況をかき回すくらいしか、ペンギンにはできないのだ。それで護衛艦隊がイラつけばイラつくほどいい。

 冷静に防備を固められた方が、我々とってはやりにくい事になるのだ。

 作戦名は『トロールの投石』とした。

 我々が隠れ家にしているフグロイ島の伝説に因んだ作戦名だった。

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