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HX-577 輸送船団

 年があけた。我々は、寒いフェロー諸島の寒い岩場の陰で、記念に貴重な珈琲を飲んだ。

 我々がラス岬まで送った姉妹の工作員は、闇の中であの岸壁を登りきるという偉業をなしとげ、英国本土に潜入している工作員のグループに、無事紛れ込んだらしい。

 これは、戦史には残らないが、ペンギンが確かに存在した証となる。この戦争で、何かの役割を我々は果たしたのだ。

 待機の日々はつらい。何もすることがないと、私の意識はあの救えなかった四百人の傷病兵たちのことに立ち戻り、私を責め苛む。こんな狭いところに五人もの男が押し込められているのだ。めそめそと悩むことすらできない。

 不眠はますますひどくなり、疲労は蓄積して、目の下には消えないクマが浮き上がっていた。

 風呂にも入っていないので、体が匂う。皮膚病にならないか心配だった。髪と髭は伸び、長い航海から戻ったUボートの乗組員の姿に我々は似てきたようだ。

 新鮮な果物を持ってきてくれるカエルのおかげで、脚気の心配はなさそうだが、P-07、08と違い、近くに連絡員がいない場所の割り当て地域のペンギンはどうしているのだろうと、他人事ながら気になる。

 

 カエルが情報を仕入れてきたのは、一月十五日の事だ。ボストンを極秘裏に出発した輸送船団がニューファンドランド島のレース岬を回り、氷国に進路を取ったらしいのだ。

 カエルの予想通り、輸送船団も米国、護衛艦隊も米国という編成で、フレッチャー級駆逐艦三隻、グリーブス級駆逐艦六隻、護衛駆逐艦の地位を他にに譲りつつある、『四本煙突』の愛称で有名なウィックス級駆逐艦が六隻という陣容だ。

 輸送船団も五十隻という大規模船団で、コードネームは『HX-577』というらしい。

 これには実験的に飛行艇が随伴するらしい。艦首にカタパルトを装着して、航空機を使い捨てにするケースもあったらしいが、今回は水上にクレーンで飛行艇をおろし、哨戒機として利用するテストケースを兼ねているそうだ。

 使用される機体は、哨戒爆撃機で『カタリナ』の愛称で呼ばれる飛行艇だ。輸送船のうち三隻が後部甲板に当該機を積み、作業用クレーンで水上におろし、飛行艇はそこから飛び立つ。

 哨戒任務を終えたら、着水後船が回収して積むという方式だ。これなら、貴重な航空母艦を使わずに済む。


 今回は、大規模な輸送船団ということもあり、Uボート部隊との共同作戦はもとより、他のペンギンも作戦に加わることになる。

 旗艦は『幸運の七番』ことP-07、僚機のP-08、その他故障で僚機がロストックに帰投中のP-09、P作戦第一群第二班のP-03、04の三機が加わる。

 Uボート部隊は例によって「頃合いを見て参加」という貴族様のキツネ狩りのような立場で、さしずめ我々はペンギンならぬ猟犬というところだろうか。

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