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米国の駆逐艦たち

 ペンギンはその高速機動性を生かして、諜報活動にも使えることが証明できた。

 英国本土と監視のゆるいフェロー諸島を結ぶルートが完成すれば、工作員を送り込んだり、逃がしたりする事が出来る。

 仮に巡視船や哨戒艇に追跡されたとしても、それを撃沈できる火力をもっていることも利点だ。

 ネックはやはり航空機だが、飛行艇でもなければ臨検はできない。対航空機の場合は、逃げ切るか撃沈されるかの二択なので、捕虜になるわけにはいかない工作員の場合、都合がいいということになる。

 工作員が捕虜になった場合、そこから芋蔓式に工作員のチームが摘発されることがあり、捕虜になるくらいなら死んでくれというのが、諜報作戦本部の本音らしい。恐ろしい世界だ。

 我々に二度目の給油を行って、補給用Uボート『乳牛』は去って行った。

あと数日で一九四三年になるが、はじめから輸送用に作られた『乳牛』が四隻ほど進水するらしいが、この練習用『乳牛』の訓練生は、その乗組員になるのだろう。


 また、岩陰に隠れる生活になった。カエルの話によると、再び露国に向けたランドリース法に基づく輸送が行われることが決定され、米国で輸送船団が編成されているそうだ。

 今度は、輸送船団も護衛艦隊も米国一手で行うらしく、我々は充実した武装でしかも最新鋭の装備をもつ護衛艦隊と対戦することになりそうだった。

 米国のソナーは改良型アズディックを参考にしたQCアクティブソナーを備えていて、約二十ノットの速度で航行しても失索しない性能があるらしい。海中でせいぜい五ノットしか出せないUボートは、一度発見されたらしつこく追い回され、殆ど勝ち目はない。輸送船団への雷撃どころではないだろう。

 浮上すれば、短波レーダーに見つかる。今や、レーダーの性能も良くなって、潜望鏡すら出すことが出来ないらしい。

 HF/DFで通信もできない。浮上もできない。見つかれば、ずっと頭を押さえられてしまう。もう、『群狼作戦』は過去の遺物になってしまった。しかし、華々しい初期の活躍が古くなってしまった作戦に固執させる。

 今後はペンギンとの併用で、再びUボートの活躍の場が出来ればいいのだが……。

 カエルから補足資料として渡されたカタログを見る。おそらく米国護衛艦隊の主力となるだろう『フレッチャー級駆逐艦』の性能表だ。遅れて参戦した米国は、疲弊する欧州を相手に軍需品の輸出で大儲けして、独国と共倒れになり始めた頃に、横から欧州の戦線に殴りこんできた。

 北アフリカの戦線で、独国の機甲師団と対戦したのが本格参戦の皮切りだが、結果は散々だったらしい。

 独国のお家芸『パックフロント戦術』という待ち伏せ戦法で、一方的に叩かれて総崩れの醜態をみせたそうな。

 米国のすごいところは、それを教訓としてあっさりと従来の戦術や指揮官を変え、柔軟な対応を見せたところだろう。

 加えて豊富な物資と組み合わせて、戦えば戦うほど相手は強くなるという不気味さもある。

 圧倒的な火力と物量で圧倒するのが、米国の戦法の基本。豊かな米国にしかできない『米国ドクトリン』ともいうべき戦略だ。

 『フレッチャー級駆逐艦』は、その象徴ともいえる。まもなく一九四三年になろうとする現在、一九三九年から建造を始めた、排水量二千トンクラスの同級の艦だけで、もう二十隻、これよりやや小型の排水量千六百トンクラスのグリーブス級駆逐艦は四十隻も就役しているのである。

 火砲は、我々が対戦した英国のハント級駆逐艦とはくらべものにならないほど充実している。

 QF2ポンド砲の後継機、ボフォース四十ミリ機関砲が全ての艦に装備されているのが不安材料だ。初速が早く貫通力が高く射程が長いこの機関砲は、ペンギンにとって脅威になるだろう。

 そして、高速で動く航空機を補足するための射撃指揮装置GFCSの存在も侮れない。

 米国は海戦の経験の浅さを最新鋭の装備で確実に補足してきているのだ。

 

 

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