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工作員、アマラとカマラ

 妙に若い乗組員が多いと思ったら、練習船だったとは。さしずめ、今回の任務は実地訓練を兼ねた任務なのだろう。

 彼らのうちの一群は、いかだのようなものを組み立て、ポンプで膨らませたゴムボートをその下に固定し、浮き桟橋を作っていた。

 別の一群は、前甲板にある搬入・搬出用の大型ハッチを巨大なバールのようなもので固く閉められたハンドルを回そうと、悪戦苦闘している。さっきまで海中にあった甲板はつるつると滑るのだ。

 別の一群は、クレーンを操作しようと、その重機にかけられていた覆いを外し、バッテリーとの接続などをチェックしていた。

 唯一の武装、艦橋の後部につけられた機関砲銃座には、やや年配の下士官が機銃手として配置につき、緊張した面持ちの訓練生が、予備の弾倉を抱えて傍らに待機している。

 目の前に珍奇な兵器が二機もあるのだから、一人ぐらいは物見高いお調子者がいても良さそうなものだが、訓練生は全員目の前にある自分の任務をこなすだけで精一杯のようだった。

 この搬入作業の奇妙な点は、最小限の照明しか使わないことだ。闇の中で作業するのが、『乳牛』のポイントなのだろう。何もない海上では灯火はいかにも目立つ。

 さぼる者もいなければ、無駄口を叩く者もいない。よほど厳しく躾けられているのだろう。まぁ、これくらい緊張感をもって事に当たってくれないと、困る。なにせ、ここは敵の勢力圏の真っただ中なのだから。

「では、ご婦人方を紹介しよう」

 グスタフ館長が指差した先に、艦橋のタラップを降りてくる2つの小柄な影があった。ご婦人方だって?

「そう、君たちが移送するのは、彼女らだよ」

 カエルが口をはさむ。男装した女性が二人、グスタフ艦長の脇にならぶ。

「ここから、目的地まで送り届けてくれるのが、彼らだよ。こちら、アルフレード・シュトライバー大尉、こちらはエーリッヒ・バウマン大尉」

 私は、よろしくお願いしますといって、軍帽を小脇に抱えて、握手の手を差し出す。私よりよっぽど社交的なはずのバウマン大尉は、フリーズしてしまったかのように、動きを止めていた。

 バウマン大尉が放心していたのはほんの三秒ほどで、あわてて軍帽を脱ぎ、手をズボンでこすって汗をぬぐい、手を差し出す。

 まるで、初めてダンスパーティに女性を誘う初心な学生のような仕草だった。洒脱なバウマン大尉らしくない行動だった。

「若くて素敵な大尉さんたち、よろしくお願いしますね」

 夜目にも、美しい女性であることは分かった。彼女はアマラとカマラと名乗った。カエルと同じく、どうせ本名ではない。「アマラとカマラ」といえば、狼にそだてられた狼少女の姉妹として有名な名前である。科学的には眉唾物の物語ではある。

 彼女ら二人は良く似ている。本当に姉妹なのかもしれない。長いブロンドを三つ編みにして背中に垂らしているのが、姉のアマラ。ショートの髪型にしているのが、妹のカマラと記憶したが、髪型を隠されるとどっちがどっちだか判別出来る自信は無い。

 彼女らは、P-08に乗船することになった。うちの乗組員たちは悔しがっていたが、そういう振り分けに決まっていたので仕方ない。


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