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迫られる選択

 ダウントン号は勇敢だった。

 正体不明。しかも駆逐艦相手に痛打を与えうる砲撃能力を持っている小型艇に、あくまでも挑む態度を示したのだ。

 QF4ポンドMk.ⅩⅥ二連装砲二基四門が、仰角を微調整している。

 我々は斜め前に急加速して走る。急加速と転舵を組み合わせることで、砲手の狙いを外のが目的だ。

 四つの砲声が重なって、太鼓の連打のような音を立てる。

 淡い靄を切り裂いて、またもや砲弾は我々を飛び越えた。

 今、我々はダウントン号に向けて船首を向けている状態なので、幅三メートル、高さ二メートルの的なのだ。距離は千五百メートルを切ったところ。

 その小さな的がこの距離で五十ノットもの速度で動き回っている。

 つまり、我々に直撃弾を食らわせるには、ダウントン号の砲手は針の穴を通すほどの精密さが要求されるということ。

 その間、我々も砲撃を続けている。クラッセン軍曹は二度砲撃を試み、二度とも直撃弾を浴びせる事に成功していた。

 敵は船体だけでも幅九十メートル、高さ三メートルある。艦上や煙突、備砲などの艦上構造物を含めれば、的はもっと大きい。どっちが有利か、言うまでもなかろう。

 我々は輸送船団を背に、ダウントン号にまっすぐ接近している。ダウントン号は、前甲板、後甲板のQF4ポンドMk.ⅩⅥ二連装砲の二基の砲口を我々に向け、いわゆる『片舷斉射』を浴びせるために弧を描くようにして輸送船団に近付くコースを取っている。

 そして、『片舷斉射』は有効打撃を与える事が出来ないまま、四度目の斉射を終えていた。

 そろそろ戦術を変えてくる頃合いだ。P-07としては、このまま五百メートルの距離まで接近しながら砲撃を横腹に撃ち続けたいところだ。

 ボクシングのボディブローのように、必ず効いてくるはずだから。

 面倒なのは、今、P-08がもう一隻のハント級護衛駆逐艦であるガーズ号と繰り広げているような、追いかけっこの状態になること。脆い背面装甲を晒すことになるので、今よりもっと多くの転針が必要になり、当方の砲撃精度が下がってしまうからだ。

 そうしている間にも、彼我の距離は詰まっていき、交戦規定に定める近接砲撃距離である五百メートルが迫ってきた。

 五発目の直撃弾を食らわせると同時に、五百メートルの距離を隔ててすれ違うコースを取らなければならない。

「面舵一杯」

 急角度でペンギンが旋回する。またもや頭上を砲弾が通過した。QF2ポンド機関砲も銃撃を開始した。

 ちいさな水柱の列が、我々の前方から後方へと順々に並び立った。主砲と違ってだいぶ手前の着弾だ。

 ペンギンの砲塔が左舷側に旋回する。左に向いたタイミングを見計らって、私は命じた。

「取舵1ポイント!」

 機敏に操縦手のベーア曹長が反応する。舵を切った時、ペンギンの飛ぶことのない翼が水を掴んだ瞬間、高速で移動していても機体は一瞬だが安定する。

 もちろん、砲手のクラッセン軍曹はその一瞬を逃さない。

 七十五ミリKwK L/48戦車砲は咆哮し、鋼の打ちあう音を響かせて着弾する。また、喫水線上にぽっかりと破砕孔が空き、ダウントン号は衝撃でグラリと揺れた。

「面舵三ポイント」

 砲撃の残響が消えぬうちに、即座に離れる。

 我々の航跡に大きな水柱が立った。徐々に主砲の砲撃精度が上がってきていた。航跡に着弾があったということは、距離感を掴んできた証拠だった。

 ダウントン号のシルエットが変わる。回頭しているのだ。輸送船団とP-07の間に割って入った形になったダウントン号は、羊の群れに入った小さくて生意気な闖入者を追うという選択をしたらしい。

 その時だった。

 輸送船団の中程にいた輸送船が、突然火柱を上げて、爆発したのだった。

 どこかに隠れていたUボートの雷撃だ。

 意図してなのか、偶然なのかわからないが、絶妙のタイミングだ。

 ダウントン号は、Uボートを阻止しに行くのか、我々を追うのか、また選択を迫られることになったのだ。

 

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