ダウントン号を迎撃せよ
浸水が激しくなったか、船体の傾きが始まったダラム号に、更に止めの一撃を食らわそうとしていた時、我々の至近距離に水柱が立った。P-08を追跡していたはずのハント級護衛駆逐艦二隻のうちダウントン号が本隊の窮状をみて引き返してきたのだ。
ダラム号に引導を渡せなかったのは残念だが、もはや戦闘継続能力は奪った。我々は即座に反転して、ダウントン号に立ち向かう。
ダウントン号とガーズ号の二隻の駆逐艦は、対潜戦闘に特化した艤装が施された駆逐艦で、Ⅰ型と呼ばれる初期に竣工した船だった。
Uボートが浮上した後、砲撃戦でダメージを与えられるようQF4ポンドMk.ⅩⅥ二連装砲を二基備えている。
しかも二十七ノットという快速も誇る。小回りもいい。これら二隻を引きまわし、未だに砲撃戦を続けているP-08は大したものだ。
そして今、戦力が二つに分かれた。ハント級護衛駆逐艦を叩くチャンスが来たということだ。サシの勝負なら、小型で小回りが利くペンギンにも勝機はある。
炎上するダラム号を背景に、一気に加速する。警告射撃とはいえ、なかなか正確な砲撃をダウントン号は見せた。距離感を惑わせるには、急加速がベストの選択だ。
ダウントン号が、そのスマートな船体を翻して回頭する。前甲板と後甲板で二つづつ、チカッと四つのマズルフラッシュが瞬き、どどんと太鼓の連打ののような音が響いた。
二発は我々を飛び越えてはるか後方へ。残り二発は距離は合っていたが、ペンギンの右舷百メートルほどの所に水柱を立てた。
すかさず、反撃の一撃を放つ。射撃の瞬間、波の上に乗ったか、こっちの砲弾はダウントン号を飛び越えてしまった。
この時点で彼我の距離は千五百メートル。相手が側面を見せているうちに一発は当てたいところだ。
「取舵一杯!」
ダウントン号の方向に切れ込むコースを取る。クラッセン軍曹は、砲塔を正面に向け直すと同時に、前方に傾いたペンギンの機体に合わせて仰角を調整していた。
舵を切ってパドルが水を掴んでいるわずかな間、機体は安定するのだ。
私はそのチャンスを作った。
クラッセン軍曹はそれを読んだ。
同軸機銃の曳光弾が走る。方向はドンピシャだ。
「ぶん殴れ!」
私は思わず叫んでいた。同時に七十五ミリ砲が咆哮する。千五百メートル先のダントン号から着弾の火花が上がる。喫水線上に、破砕孔がぽっかりとあいていた。
「やった!」
歓声を上げて、操縦手のベーア曹長が舵を切る。マズルフラッシュを目安に反撃されないためだ。四連装QF2ポンド砲の面での射撃は侮らない方がいい。
その場で円を描くようにして一回転したあと、もう一度砲撃を食らわせる。今度は、やや上方に砲弾が逸れたが、煙突の根本付近に着弾した。榴弾ではないので、たいした被害は出なかったと思うが、排煙が漏れる事によって、機関砲銃座の視界を奪う効果はある。
また、QF4ポンドMk.ⅩⅥ二連装砲四門の斉射があった。靄を裂いて、後方にそれは飛び去る。
水上に出ている部分が低いので、狙いがつけにくいらしい。ペンギンの最高点は、私の鉄兜なのだから。




