一方的な砲撃
ダラム号の前甲板にある主砲の死角に入る。
後甲板には、「機雷投下軌条」という、船尾に機雷を転がり落とす装置があるので、機関砲の死角でもある。
それを嫌って、ダラム号が急旋回する。いかにも身軽な小型艦の動きだが、旋回能力ではペンギンの方が数段上だ。
P-07の七十五ミリ砲が撃つ。後甲板の狭い喫水線を狙った砲弾は、惜しくもはずれ、ダラム号のすぐ脇に水柱が立つ。
「弾種榴弾! 装填急げ」
徹甲弾で船体を痛めつける作戦だったディーター・クラッセン軍曹が、方針を変える。艦尾の「機雷投下軌条」と「対潜迫撃砲」の艦上構造物にダメージを与える気だということがわかる。
花火のような耳慣れない音がして、山なりに何かが飛んでくる。棒火矢を連想させる物体だ。これが、実験兵器の対潜迫撃砲なのだろうか。
数本がタイミングをずらしつつ、飛来する。しかし、山なりの弾道のそれはおよそ三百メートル前後で急に失速し、海中に落下する。
爆発で海面が盛り上がり、爆心地から二百メートル離れたP-07も、その衝撃波で揺れた。
あれが、資料にあった兵器らしい。
たしか『ヘッジホッグ(ハリネズミ)』とか呼ばれるUボート殺しの武器だ。
苦し紛れに、最大射程に調整して撃ったのだろう。
小さな標的であるペンギンを『点での攻撃』ではなく『面での攻撃』で仕留めようという工夫は悪くない。
ペンギンの射程が短く、もっと速度が遅ければ有効だっただろう。
反撃は即座に行なわれた。
榴弾に変えた砲弾が船尾に着弾し、派手な火花を上げたのだ。
鉄片が飛び散り、後甲板で作業していた兵士はひとたまりもなかっただろう。
「次弾も榴弾だ! 装填急げ!」
照準器を覗いたまま、クラッセン軍曹が叫び、ベーア曹長が速度を抑えるタイミングを待っている。
ダメ押しの榴弾を放つ。
ダラム号の右舷斜め後方から撃ち込まれた砲弾は、二十ミリ機関砲の砲座にぶち当たって爆発し、死の鉄片をまき散らす。
私のSボートが叩き潰された日、同じことが起きていたので、その情景は想像できる。榴弾の直撃を受けた機銃手がどうなったか、私はその現場を見ていたのだ。
誘爆が発生した。対潜迫撃砲の圧力信管が、立て続けの榴弾の着弾に誤作動を起こしたのか、貫通した徹甲弾がひき起こした火災が爆雷に引火したのか、分からないが、一瞬ダラム号の艦尾が浮き上がるほどの爆発が起きたのである。後甲板の機銃は沈黙した。
舵とエンジンも故障したらしく、火災の黒煙を上げながら惰性だけでダラム号が漂流する。
弾種を徹甲弾に変え、更に砲弾を撃ち込む。
反撃の銃弾はもはや飛んでこなかった。操縦手のベーア曹長は、速度を落として、砲撃をしやすいようにP-07の向きを調整していた。




