表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/173

一方的な砲撃

 ダラム号の前甲板にある主砲の死角に入る。

 後甲板には、「機雷投下軌条」という、船尾に機雷を転がり落とす装置があるので、機関砲の死角でもある。

 それを嫌って、ダラム号が急旋回する。いかにも身軽な小型艦の動きだが、旋回能力ではペンギンの方が数段上だ。

 P-07の七十五ミリ砲が撃つ。後甲板の狭い喫水線を狙った砲弾は、惜しくもはずれ、ダラム号のすぐ脇に水柱が立つ。

「弾種榴弾! 装填急げ」

 徹甲弾で船体を痛めつける作戦だったディーター・クラッセン軍曹が、方針を変える。艦尾の「機雷投下軌条」と「対潜迫撃砲」の艦上構造物にダメージを与える気だということがわかる。

 花火のような耳慣れない音がして、山なりに何かが飛んでくる。棒火矢を連想させる物体だ。これが、実験兵器の対潜迫撃砲なのだろうか。

 数本がタイミングをずらしつつ、飛来する。しかし、山なりの弾道のそれはおよそ三百メートル前後で急に失速し、海中に落下する。

 爆発で海面が盛り上がり、爆心地から二百メートル離れたP-07も、その衝撃波で揺れた。

 あれが、資料にあった兵器らしい。

 たしか『ヘッジホッグ(ハリネズミ)』とか呼ばれるUボート殺しの武器だ。

 苦し紛れに、最大射程に調整して撃ったのだろう。

 小さな標的であるペンギンを『点での攻撃』ではなく『面での攻撃』で仕留めようという工夫は悪くない。

 ペンギンの射程が短く、もっと速度が遅ければ有効だっただろう。

 反撃は即座に行なわれた。

 榴弾に変えた砲弾が船尾に着弾し、派手な火花を上げたのだ。

 鉄片が飛び散り、後甲板で作業していた兵士はひとたまりもなかっただろう。

「次弾も榴弾だ! 装填急げ!」

 照準器を覗いたまま、クラッセン軍曹が叫び、ベーア曹長が速度を抑えるタイミングを待っている。

 ダメ押しの榴弾を放つ。

 ダラム号の右舷斜め後方から撃ち込まれた砲弾は、二十ミリ機関砲の砲座にぶち当たって爆発し、死の鉄片をまき散らす。

 私のSボートが叩き潰された日、同じことが起きていたので、その情景は想像できる。榴弾の直撃を受けた機銃手がどうなったか、私はその現場を見ていたのだ。

 誘爆が発生した。対潜迫撃砲の圧力信管が、立て続けの榴弾の着弾に誤作動を起こしたのか、貫通した徹甲弾がひき起こした火災が爆雷に引火したのか、分からないが、一瞬ダラム号の艦尾が浮き上がるほどの爆発が起きたのである。後甲板の機銃は沈黙した。

 舵とエンジンも故障したらしく、火災の黒煙を上げながら惰性だけでダラム号が漂流する。

 弾種を徹甲弾に変え、更に砲弾を撃ち込む。

 反撃の銃弾はもはや飛んでこなかった。操縦手のベーア曹長は、速度を落として、砲撃をしやすいようにP-07の向きを調整していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ