キャッスル級コルベット艦ダラム号
フラワー級コルベット艦をやや大型化したキャッスル級コルベット艦は、なんだか漁船をむりやり軍艦に仕立てたような前級のフラワー級にたいして、小さいながらも軍艦の体裁を成していた。
艦橋と融合した形のフォアマストがフラワー級よりしっかりとした構造をしていて、索敵用と測量用の指揮所も、防弾板に覆われた櫓状になっている。「HF/DF」や「短波レーダー」などの新しい対潜技術が投入されている証拠と考えていい。
キャッスル級コルベット艦は新設されたばかりの等級の小型艦で、老朽化と酷使によってくたびれかけてきたフラワー級に代わって順次配備される予定の艦艇だ。
ダラム号は、最も初期に作られた四隻のうちの一隻になる。
「こいつは、沈める。生かしておいては危険だ」
砲手のクラッセン軍曹が、了解の合図に拳を突き上げる。
作戦に参加する前に配布された資料にキャッスル級コルベット艦の記載があり、これには、機雷投射装置に代わって「対潜迫撃砲」が搭載される予定であることが書かれていたのだ。
従来の機雷攻撃は、艦艇の後部に作られた「機雷投下軌条」と「機雷投射装置」によって、艦艇の航跡に投下するのが常識だった。
だが、このキャッスル級には、陸軍が使うような迫撃砲の爆雷バージョンのようなものを撃ち出す装置がつけられているらしいのだ。
これにより、機雷による攻撃は離れた場所にも実施できるようになり、攻撃範囲が広がる。
しかも、最新式のアクティブソナーは、十八ノットの速度を出していても使用可能になっており、それはUボートの潜水時の速度を大きく上回る。
追跡しながら、失索することなく、機雷を打ち込み続けることが出来るわけで、Uボートはかなり不利だ。
浮上すれば短波レーダーで発見され、潜航しても追跡される。
なるほど、これでは接近すらできないわけだ。
ならば、テストの段階で、キャッスル級を叩く。テストデータを集めさせないのもまた戦争の側面だ。
ダラム号のMk.ⅩⅠⅩ百二ミリ単装砲の砲塔が、我々の姿を追って旋回する。私は、左右ののジグザグ航行に加え、速度の緩急も加えるよう、操縦手のコンラート・ベーア曹長に命じた。
Sボートより、だいぶ装甲が厚いとはいえ、五百メートルの距離で砲弾の直撃は食らいたくない。
当方の砲手にとっても、不規則なペンギンの動きは狙いがつけにくいだろうが、そこは腕でカバーしてもらうしかない。
Mk.ⅩⅠⅩ百二ミリ単装砲の砲口が光る。我々の頭上を、シュルシュルと空気を裂いて砲弾が通過する。淡い霧に砲弾の通過跡が見えた。
ペンギンの機体の小ささに幻惑されて、砲弾は飛越することが多いようだ。霧が出ているのも目測を誤る原因だろう。
「殴り返せ!」
タコマイクを押さえて私が言う。
「言われなくても、やりますぜ」
クラッセン軍曹が撃つ。鋼鉄が激突する甲高い音が響いて、火花が散った。直撃弾。うちの砲手は良い腕だ。
「弾種徹甲! 次弾装填いそげ」
ペンギンは小刻みに進路を変える。砲撃の直後に速度と進路を変えるのは、鉄則だ。
クラッセン軍曹がハンドルを回して、砲塔の向きを変える。
陸上戦と違って、高低差が殆どないので、砲の調整は楽だと彼がが言っていたのを思い出す。
ただし、波で上下するので『揺れの方の先の先』を読む事を慣れるまでが大変らしい。
ダラム号の船上から小さなマズルフラッシュが瞬く。現在、互いに側面を晒してすれ違っている状態なので、舷側に設置されている二十ミリ連装機関砲が射撃に加わったのだ。
ほとんどは、見当違いの場所に飛んでいる。
まぐれ当たりで、一発だけ銃弾が砲塔を掠めたが、灰色の海上迷彩塗装の一部を削っただけだった。
七十五ミリKwK L/48戦車砲が再びダラム号に向かって火を噴く。
五百メートルの距離を隔てて、全長八十メートルのコルベット艦と、わずか八メートルのペンギンが高速ですれ違う。
どちらが砲撃に有利か、言うまでもなかろう。ダラム号のどてって腹に着弾の火花が散った。またもや直撃弾だ。貫通した砲弾は、艦内にとびこんだだろう。
船体に穴が二つ開いたことになる。排水ポンプが作動を始めたことだろう。穴をふさごうと、ボロ布や木材で応急手当をしているかもしれない。
ダラム号のMk.ⅩⅠⅩ百二ミリ単装砲が三度目の咆哮を上げる。今度は、ペンギンの航跡に水柱が立った。
向こうの砲手は、必死に照準を定めてきている。
「機関全速! ダラムの後方に回れ」
敵の主砲の死角に入る。素早く装填を終えた七十五ミリKwK L/48戦車砲が、また直撃弾を食らわせる。同時に、一気に五十ノットに加速した。
二十ミリ連装機銃が、牽制の銃弾を浴びせてきたが、その着弾は我々のはるか後方だった。速度に、機銃手がついてこれないのだ。
航空機を相手に機銃を撃つ彼らだが、我々が水上戦闘艇であるという先入観があって、速度を三十ノット位を想定してしまうのだろう。




