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護衛艦隊を叩け

 太陽が昇り始めると、霧は多少薄くなった。

 そうなると、哨戒機の襲来を警戒しなければならないが、今は輸送船団が視認できる可能性が高くなる方がありがたい。

 キューポラから上半身を出して、双眼鏡でカエルからの情報にあった輸送船団の進路を監視する。

 約一キロメートル離れた場所で、我々と同様に監視を続けているP-08の機影は見えない。小さすぎて機影が波間に隠れてしまうのだ。最適な交戦距離と予測されている五百メートルの距離でも機影はまるで芥子粒のようで、敵の砲手は頭が痛いところだろう。

 電波の発信源を探知する『HF/DF』(無線方向探知機)。Uボートを狩るための強力な武器がこれだ。

 無線通信で情報を共有し、包囲網を形成して輸送船団を襲うUボートの『群狼作戦』を逆手に取った新しい戦術。

 我々ペンギンは、その『HF/DF』を更に逆手にとろうという作戦を立てていた。

 Uボートを装うのである。

 わざと、Uボートが使う周波数帯の無線を発信し、『HF/DF』に探知させ、意気揚々と接近してきたハント級護衛駆逐艦を砲撃戦に持ち込もうというのだ。

 無線を発信するだけで、向こうから接近してきてくれるのだ。そして、我々の七十五ミリ砲が届く距離に来てくれれば、いくらでも戦いようはある。例え、ペンギンの十倍以上の大きさがある艦艇であろうとも。あたかも、ゴリアテに挑むダビデの様に。

 無線から、P-08艇長のバウマン大尉の声が聞こえる。五分間隔で、早口言葉をつぶやいているだけなのだが、敵の暗号解読班は頭をひねっているだろう。独国軍が誇る暗号機エニグマで作成された文章だと思っているのだから。


 私が探していたのは、黒煙だ。

 優先的に燃料を供給される軍艦はともかく、徴用された商船は経費削減のために粗悪な燃料を積んだり、旧式の石炭燃料だったりすることがある。

 すると、狼煙のようにこの北大西洋や諾海の灰色の空に黒煙がたなびくのだ。

 制空権を取り、制海権も取り戻しつつある英国の海軍も米国の輸送船団も独国海軍を嘗めきっている。通商破壊船だったポケット戦艦も、大型艦艇も港の奥に隠れていて、浮き砲台と化している現状では、侮られても仕方ないのだが……。

 P-08艇長のバウマン大尉はすっかり退屈してしまったのか、英国首相のチャーチルのケツの穴がどうのこうのという放送を始めた。

 バカめやりすぎだ―― と、私が苦笑を浮かべていると、西の水平線上に黒い染みを見つけた。

 輸送船団の、排煙だ。

 ハント級護衛駆逐艦は、おそらくP-08の位置を掴んでいる。

 頭の中で海図を思い浮かべる。

 約三十ノットの快速を誇るハント級護衛駆逐艦は、短波レーダーで浮上中のUボートを探すため、船団から先行するだろう。おそらく、それでP-08は発見される。

 だが、我々は魚雷しか武装がないUボートではない。一千メートルの遠距離砲撃を加えるつもりだ。

 七十五ミリKwK L/48戦車砲は一千メートルの距離で八十五ミリの装甲を貫通する性能がある。『ブリキ缶』と仇名される護衛駆逐艦はそんな分厚い装甲はもっていない。分厚いところで、精々四十ミリというところだ。

 反撃はしてくるだろう。だが、芥子粒のように小さく見えるペンギンに当てることは容易な事ではない。

 P-08は、実は囮だ。ハント級護衛駆逐艦二隻を船団から引き離しつつ、砲撃戦で貧弱な駆逐艦の船体を痛めつけるのが目的。

 本命は、P-07。主力の駆逐艦の不在を守るコルベット艦を叩く。至近距離から痛打を与えて素早く離脱するつもりだ。その際、最低一隻は航行不能にしたいところだ。ペンギンの性能なら、三隻とも戦線離脱させることも不可能ではないはず。

 予想通り、二隻のハント級駆逐艦が船団から抜け出してきた。

 艦名を確認する。ガーズ号とダウントン号。ともにハント級護衛駆逐艦初期の艦艇でⅠ型と呼称される艦艇だった。

 無線機からカチカチとクリック音がした。バウマン大尉からの『戦闘を開始する』の合図だ。

 一九四二年十一月二十四日午前十時四十七分、我々は本来の仮想敵であるハント級護衛駆逐艦と交戦を開始した。

 

 

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