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ハント級護衛駆逐艦

 霧の中を我々は北に向かっていた。

 コードネームが『カエル』ということになった工作員は、各地に散った他の工作員の情報を集積し、分析し、玉石をより分け、海軍局の情報部に暗号打電するのが主たる任務らしい。

 そのうえで、幾人かの配下を使って、このフェロー諸島独立の扇動も行っているそうだ。

 これもまた、戦争の一側面だ。我々が知らない戦争なのだ。

 我々は、カエルからダイレクトに情報を得ることが出来る。例えば、極秘情報に類する輸送船団の航路や規模などだ。

 船団の出港に当たっては、港湾で様々な人員が動く。軍港なら統制がとれていることが多いが、民間の商船を徴用した輸送船団では、ある程度の規模以上の船団の場合、使える港が決まっており、そこでは熾烈なスパイ合戦が繰り広げられているという。

 そこで命がけで得られた情報をもとにUボートは船団の行く手に待ち構えるのである。

 我々は、そのUボートが仕事をしやすくするため、護衛艦隊を無力化するのが任務になる。

 先日の哨戒艇のように撃沈させる必要はない。砲撃戦によって、艦艇に被害を与え修理を余儀なくさせてしまえばいい。防備が剥がれて裸になった輸送船は、ウナギ(魚雷の隠語)でどてっ腹を食い破られる運命だ。

 我々が狙っているのは、東部戦線への補給物資を積んだ輸送船団への襲撃だった。一九四一年三月から開始された米国のレンドリース法(武器貸与法)に基づき露国に送られる武器、弾薬、食糧が積み荷だった。

 ただでさえ、ちょび髭伍長殿とそのおべっか使いどもの楽観論のせいで苦戦を強いられている東部戦線に敵の兵力を増強させるわけにはいかない。

 私は傷病兵の帰還船を救えなかった。だから、輸送船団を足止めすることは、私に課せられた義務なのだ。


 カエルの情報が確かなら、氷国に寄港した米国の輸送船団は、魚雷攻撃を避けるための不定期な転針を繰り返しながら、フェロー諸島沖合五十キロメートルの場所を通るはずだ。

 護衛船団の名前はコードネーム『HX-101』といい、二十隻からなる船団。護衛部隊は、ハント級護衛駆逐艦二隻とフラワー級コルベット艦三隻の英国海軍の部隊だった。最新の対潜装備を持った護衛艦隊は五隻から十二隻でチームを組むことが多い。

 今回は、対Uボート戦に慣れている英国海軍が、米国の輸送船を護衛するという図式らしい。

 ハント級護衛駆逐艦はUボートを狩る優秀な狩人で、『HF/DF』と呼ばれる無線方位探知機を備え、無線で情報を共有するUボートの『群狼作戦』を逆手に取ることに成功していた。

 二隻以上の艦艇が無線方位探知機を装備していた場合、三角測量によって、無線の発信源が正確に探知されてしまい、さらに、浮上していたUボートは最新式の短波レーダーで発見されて砲撃され、海中に潜んでもダイヤモンド型の機雷散布戦術で頭上を抑えられ、雷撃が不可能になった。

 その間に、輸送船はUボートの手の届かない所に逃げてしまう。潜航中のUボートの航行速度では、輸送船にすら追いつくことはできない。

 護衛艦隊にハント級護衛駆逐艦が二隻いるということは、その最新の戦術を使ってくるとみて間違いない。

 だが、我々はUボートではない。的を絞りにくい小さな機体を武器に、砲撃戦を挑む者だ。漁船を改造した代用戦闘艦ではなく、戦うために作られた艦艇に痛打を加える者だ。

 ペンギンの本当の戦いは、これからはじまる。

 

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