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探照灯

 岩場の隙間に隠れ、我々は夜通し走った疲れを癒していた。実戦での長距離移動が初めてだった戦車乗りたちは、緊張が解けたのかテントの中でぐっすりと眠っている。

 操縦手のコンラート・ベーア曹長は海軍将兵の例にもれず、どこでも眠れるらしく、操縦席で寝息を立てていた。

 私は、彼らの眠りを妨げないようにボリュームを絞ったラジオをつけっぱなしにしてキューポラに寄りかかり、岩の間から見える灰色の空を見ていた。

 ラジオからはニュースが流れていた。英国軍をエルアラメインに追い詰めたロンメル将軍のアフリカ軍団だが、ここ何か月も連戦連勝の景気がいいニュースばかりだった。その割には、具体的な進展はない。

 つまり、だいぶ情勢が悪いということだ。

 地中海の制海権も制空権も連合国に取られ、シチリア島経由で細々と補給路を保っている状態で、この戦場からペンギンの砲手に抜擢されたディーター・クラッセン軍曹の話では、

「アフリカ軍団は日に日に干からびていて、もうすぐミイラになっちまう」

 とのことだった。

 ロンメル将軍は名将だ。彼の揮下の兵士も精強だ。戦闘だけ見れば、独国軍の圧勝だった。だが、補給がままならなければ戦はできない。

 ディーター・クラッセン軍曹が悔しがるのはこの部分だ。イタ公と海軍がだらしないから、攻めきれなかった。彼はそんな風に考えている。そして、それは概ね正しい。

 やがて、ラジオからは音楽が流れた。ドイツ軍放送局が盛んに流す曲。兵士とその恋人の束の間の逢瀬を歌った甘ったるい歌で、私はこの曲のどこがいいのかわからない。

 それでも我慢してこの曲を聴くのは、この曲が暗号放送の始まる合図だからである。頻繁に流すうちに、人気な曲になったのは皮肉な結果ではある。

 もともとはU-ボートあてに、敵輸送船団の位置と規模をラジオ放送に偽装して知らせるためのものなのだが、護衛艦隊をひっぺがす役割を担ったペンギンにとっても、重要な情報だ。

 暗号表を手に、曲が終わるのを待つ。そして、お便りコーナーに偽装したアナウンサーのトークをメモする。北大西洋を航行する船団の情報だった。多分、地中海に向かっている。盛んに物資が輸送されているのは、英国本土ばかりではなく、地中海のアフリカ沿岸もまたそうだった。

 すでに、戦意喪失しつつある伊国への上陸作戦は近いという情報もささやかれているらしい。ムッソリーニ政権も、求心力を失っているという噂だ。


 夕闇が迫り、海は更に荒れた。北海では珍しいことではない。

 荒天は、我々にとって好都合だ。漁船が出ないので、目撃されるリスクが小さくなる。哨戒艇も湾内に引っ込み、偵察機も夜間は飛ばない。

 サラミのサンドイッチと紅茶とチョコレートで、夕食を済ませ、テントを畳む。

 再び、夜の海を駆けなければならない。

 スカゲラク海峡を横断し、諾国の沿岸に沿って、その沖合を往く。安全策を採ってシェトランド諸島を大きく迂回することを考慮し、速度は二十五ノットに増速させた。

 荒れる海では、速度を上げた方がペンギンは機体が安定する。

 諾国は、フィヨルドの国だ。北海に面した沿岸には多くのフィヨルドがある。そこを遡行すれば氷河に至る。つまり、冷たい水と空気が海岸に流れ込んでいるのだ。それが海上の太陽に温められた空気とぶつかると、靄が発生する。

 今夜がまさにそうだった。

 隠密に行動するには最適の日だ。

 こんな日は、哨戒艇も出ないのだが、仕事熱心な者はどこにでもいるもので、我々が諾国の首都オスロに次ぐ第二の都市ベルゲンの沖合を通過していた時、哨戒艇の探照灯を視認したのだった。

 

 

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