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フェロー諸島

 ロストック港の漁師たちに愛されている目印の岩礁「カタツムリ岩」を通過したところで、命令書を開封する。

 五十メートルほど後方に位置するP-08艇長バウマン大尉も同様に開封しているはずだ。

 命令書には概略と航路と潜伏先が示されている。やはり、密かに予測していた通り、我々の戦場は北海になりそうだ。P作戦第一群の五つの班は、北海に展開し、一部は米国と英国の補給路の破壊、一部は英国経由で露国に送られる補給路の破壊に従事するらしい。

 補給路の破壊といっても、我々の役目は護送艦隊を輸送船団から引き剥がすことで、船倉にたんまりと補給品を積んだ補給船を仕留めるのは、北海を知り尽くしたU-ボートの仕事だ。

 カタツムリ岩を通過して、丁国側の沿岸に沿って進む。典国側を通るのが通常のルートなのだが、中立国とはいえ連合国寄りの態度を見せる典国にはスパイが大勢いて、我々が注目を引くリスクが高まる。事実上統治下にある丁国近海の方が安全だ。

 ひとまずの目標はスカゲラク海峡。そこまで、夜通し走る。日が昇ったら、丁国側の入り組んだ入江の奥に夜まで隠れ潜み、また夜陰に紛れて北海に出るのだ。

 最終目的地は、大胆な事に英国領になっているフェロー諸島だった。もともとは丁国領だったが、海上防衛のため英国が侵略したのだった。

 地元では英国の進出を快く思っていない勢力もあり、特に漁場を強奪された漁民の反発は強い。

 そうした住民感情を利用して独国のスパイが暗躍し、自治奪回運動を扇動しているのだが、特に反英感情が強いフェロー諸島北部の離れ小島にペンギンが隠れられる場所が用意してあるらしい。

 漁民しか来られない場所で、岩礁が多くて巡視船は入れない所。

 喫水が浅く、小型のペンギンにはおあつらえの隠れ家であった。

 秘匿性が高いのはペンギンの利点の一つだ。


 夜の黒き裳裾に隠れるように、ペンギンはフェーマルン島とローラン島の間を走リ抜け、やがて舵を右に切ると、丁国の首都コペンハーゲンがあるシュラン島と北欧神話オーディンの島フュン島の間に差しかかる。

 夜間爆撃対策で灯火管制が敷かれているので、闇が深い。小型哨戒艇勤務の経験と、ペンギンの小回りの良さが生命線だ。

 探照灯も使えないので、目視だけが頼りなのだが、操縦手の視界を確保する窓は小さい。

 私はリスクを軽減するために、機銃手も監視に加わらせることにした。スカゲラク海峡に出るまでの間、丁国の北端スケーエン岬を回るまでは、島が点在する狭い水路を通らなければならない。

 まるで、砲塔が背負った『栗拾いの背負い籠』のような、機関砲銃座に機銃手のエーミール・バルチュ伍長が入って、暗視双眼鏡で周囲を警戒する。

「白い波ですよね」

 まるで、独り言のようにエーミール・バルチュ伍長が言う。隠れた岩礁は、裂け波で見つける。何度も訓練で哨戒の要点は学習しているはずだ。

 ここで、P-08のバウマン大尉なら、気の利いたジョークでも言って、彼の緊張を和らげるのだろうが、私にはそんな素質は無い。

「訓練どおりにやれば、大丈夫だ」

 としか言ってやれなかった。

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