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戦いの海へ

 注水されたドックには二機の艤装済のペンギンが浮かんでいて、珍しいことに司令官のニクラス・ディートリッヒ大佐と武装親衛隊のアルブレヒト・ホフマン中佐が並んで立っていた。

 めったに基地内部の執務室から出てこない物資補給担当士官のライマー・ゲーアハルト大尉の姿も見えた。

 出撃にあたって、大量の書類と搬入作業が必用だったので、ここ数日不眠不休で働いていて、倒れそうだとこぼしていた。

「ご要望のゴーグルも用意しておいたよ。役立たずの空軍の補給物資からぶんどってきた」

 独国本土防衛用に虎の子の戦闘機が約140機。情けない事に、それがわが軍全体の空軍力だった。英国との果てしない空戦で、パイロットも機体も不足しているのだ。

 英国も同様に消耗しきったが、今はアメリカから湯水のように物資が英国に送られてきている。

 我々は、その無尽蔵の補給ラインを寸断しにゆくのだ。それが、祖国が生き残る術だと信じて。


 ニクラス・ディートリッヒ大佐の訓示は簡潔だった。これが『アドルフ殿』ことアルブレヒト・ホフマン中佐だったら、総統閣下のお言葉を散りばめた感動的な演説を、少なくとも三十分は続けていたはずだ。

「……それでは、諸君。幸運を祈る」

 我々は、答礼をし、こう宣言した。

「P作戦第一群第四班、出撃します。総員、乗艦!」

 揺れる機体におっかなびっくりだった戦車乗りたちも、海軍の兵士のように、軽々とバランスを取って開いたハッチから搭乗する。私とP-08艇長のバウマン大尉は最後にキューポラから入る。

 物資補給担当士官のライマー・ゲーアハルト大尉の言葉どおり、タコマイクの横に、ゴーグルがぶら下げられていた。

「エンジン始動」

 私の命令に操縦手のコンラート・ベーア曹長がエンジンの始動スイッチを入れる。

 せき込むような音がして、ダイムラーベンツ二十気筒ディーゼルエンジンMB501が始動する。

 私はハンドサインで僚機のホフマン大尉に『先に出る』のハンドサインを送る。

 係留のもやい綱が港湾作業員により解かれたのを確認し、

「微速前進。取舵二ポイント」

 出港の手順に従って、淡々と命令を下す。

 ペンギンは動き出した。平底の喫水の浅い船特有の不安定な横揺れは、訓練開始当初の頃と比べるとだいぶ解消されているようだ。

 新しく設置された垂直安定翼の効果だろうか。

 作業員たちが、控えめに手を振っていた。私は軍帽をとって、それを振る。ニクラス・ディートリッヒ大佐も、アルブレヒト・ホフマン中佐までもが手を振っていた。

 閘門が開く。P-07が、湾内に出た。

「風下の位置につけ」

 海軍伝統の命令を、P-08に通信する。受信応答のクリック音が、ヘッドホンにあった。

「このまま、カタツムリ岩まで向かう。速度十五ノットを保て」

 私は、ブリーフケースから命令書の封筒と暗号表を出し、座席の横に設置されている鍵のかかる小型のロッカーに仕舞った。このロッカーの鍵は、ペンダントにして、首にかけてあった。文字通り、肌身離さず持つのが、艇長の義務だ。

 命令書はまだ見る事は出来ない。カタツムリ岩という、ロストック湾の外に出るときの目印となる岩礁を通過した時、開封することになっている。

 機密漏えい防止のための措置だった。


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