行進間射撃
ロストック港の隣に『旧ロストック港』とでも呼ぶべき廃棄された港がある。港の規模拡大のため、今の場所に移ったのだが、もともとのロストックは、この小さな漁港だった。
ペンギンの砲撃訓練はここで行われた。この旧ロストック港は、点在する岩礁や小島で北海の荒波から守られた地形で、左右から伸びた半島で抱きかかえられたような場所だった。
ゆえに、大型船は出入りできないので、廃れてしまったわけだが、ペンギンたちの訓練には丁度いい場所になっていた。
特に、荒波に慣れていない戦車乗りの馴致にはもってこいだった。
半島によって視界が遮られているので、防諜を担当する情報士官モーリッツ・アーベライン大尉にとっても助かる場所でもあった。
大地を履帯で踏みしめての砲撃と異なり、グラグラ揺れる不安定なペンギンからの砲撃は、だいぶ勝手が違う様で、訓練は必須だった。
ペンギンが想定している『殴り合う間合い』は、機関砲の初速が減衰する五百メートル前後。
敵艦の主砲は、当方の動きが早くて的が小さいので照準が間に合わず、機関砲は当方の八十ミリ装甲を打ち抜けない。そんな、理想の間合いなのだ。
一方、ペンギンの備砲『七十五ミリKwK L/48戦車砲』なら、九十ミリの装甲を打ち抜く距離で、ペンギンの仮想敵である軽巡洋艦、駆逐艦、コルベット艦なら、大抵はスポスポ貫通する。
当たれば……だ。当方から見て相手は大きな的とはいえ、ぶっつけ本番では砲弾はどこに飛んで行ってしまうかわからない。
しかも、回避行動をとりながら攻撃を行わなければならないので、砲撃の難易度は更に上がる。陸上を走る戦車では移動しつつ砲撃を行う事を『行進間射撃』というが、これは高等テクニックだ。
ペンギンは、戦車より更に高速で移動し、揺れは戦車より大きい。砲手の負担は大きいものになるだろう。




